更新義務を商売にするな! 〜ケアマネと建築士の相似性 ・後編
※前編はこちら。
さて、ようやく本題に入れるのだった。資格更新の話です。
実は建築士の資格には、ずいぶん長いこと、更新の義務がなかった。
でも、性善説に基づいた仕組みはいつか足元を掬われるのが世の常である。悲しいことに。
2005年、耐震偽装問題が発生。姉歯氏の名前がそのレア苗字の響きもあって皆様に記憶されていることだろう。構造計算のチェックがザルであったことが世の中に知れ渡り、業界内外にわたり様々な問題が噴出した。姉歯氏だけじゃなかったんですよ、あの件。カレーで有名な帽子おばさんのところも巻き込まれていましたね。
出来たばかりのマンションがいきなり解体となって、ダブルローンを組まざるを得なかった方々も多くいらっしゃった。あれ、補助金などは何も出ていないはずです。考えただけで辛い。
で、2007年くらいから建築基準法などがバタバタ改正されたのですが、2008年の建築士法改正で、その資格に更新義務が盛り込まれました。
でもこれ、自分は受けておりません。なぜなら「建築士事務所に属する建築士は、3年ごとの建築士定期講習が義務付けられ」ているから。受けなくても、建築士事務所に属していない場合は特に問題がないし、免許も失効しない。自分が建築士事務所に所属することになったら、ただちに定期講習を受けてアクティベートすればいいだけである。
そして、普段は建築士試験の実務などを行っている、公益財団法人 建築技術教育普及センター等がその講習実務を請け負っているのだが、内容はこんな感じです。講義は5時間、修了考査が1時間ですね。オンライン受講対応。
なお、受講費は紙テキストが送られてくるバージョンで12,000円(税込)。実務に忙しい皆さんが、最小限の負担で対応できるように配慮されています。
え、そんなもんでいいのかい?とお思いの方もいらっしゃるかも知れない。この程度の内容では運転免許の更新と大差ない。
でも、それをカバーする研修の仕組みとして、継続的な講習受講にメリットを与えるCPD制度というものがあります。技術者の継続教育(Continuing Professional Development)の略語らしい。本日はじめて知りました。
こっちは加点制。ポイントが高い人がいる事務所さんには、入札のときに優遇するよ、とかそういうアドバンテージがあるそうな。
建築士の資格更新って、大雑把ですがこんな感じです。
では、いわゆるケアマネージャー、介護支援専門員の資格更新制度はどんな感じなのだろうか。
東京都福祉局のサイトから引用してみる。
端的に言ってカオス。なんでこんな事になっているのか・・・
おまけに、主任介護支援専門員は別コースとか。
ちなみにお値段も調べてみました。東京都福祉保健財団の講習です。
88時間コースで58,300円、32時間コースで23,800円(税込)。
なんと時間あたりの講習費が700円!建築士講習の1/3!コスパ最高!
更にお金持ちな東京都、その講習費の3/4を補助してくれる!
時間あたり200円以下や!もはや無料みたいなもんだありがとう!
そういう問題ではありませんよね。
建築士の更新も、運転免許の更新も、基本的には前回更新からの間に変化した法令などの情報の、ブラッシュアップのために行っています。新しい制度をプロが知らなかった、ということがないように。
でも、このケアマネの講習、毛色が違いすぎるのです。なにやら最近見直しが入ったばかりだそうですが、それでも。
介護保険最新情報 Vol.1144 令和 5 年 4 月 17 日 厚生労働省老健局https://www.mhlw.go.jp/content/001088124.pdf
ひとことで言って、プロに対しておせっかいが過ぎる。
特にこの専門研修Ⅱ、32時間。
本来なら、資格取得のときに行う87時間研修に含まれるべきものだと思うのですが、これ。以前はそれが44時間だったから受けていない人がいるから、ということかも知れませんが。でもね。
ちゃんと仕事をしていれば、問題のあるケアマネは自動的に排除されていきます、契約制度なので。そして仕事の中で、こういう経験を逐次積んできているはずです。その共有のために、事例発表会などを適宜行う必要はあると思いますが。
この講習で出てくる事例、はたして現場のケアマネが直面するようなカオスなやつ、あるんでしょうかね。
基本的に、ケアマネージャーの労働条件はあまり良くない。施設系ならまだしも、在宅系だとその収入は介護保険に限られる。
そしてここのところ、自分の周囲でも独立型の居宅介護支援事業所の廃業が増え始めた印象がある。その理由は、初期世代のケアマネの多くが後期高齢者に差し掛かったこと。そして、その業務負荷の増大が重なっていることにあるのではないかと思う。
参考まで、介護支援専門員の合格者の年次推移貼っておきます。
この状況で、この介護保険制度が持続可能とは、よもや賢い官僚の皆様は考えていないはず。でも、急激すぎるのですよ変化が。この左側の合格者の山が引退するという問題が直撃しているので。
せめて、いまでもカツカツの状況のケアマネージャーの負担を軽減することをまず考えないと、その何らかの皮算用すら実行不可能になりますよ。
なので、せめて更新手続きの研修を、最低限のラインだけに限って負担を減らすことは、他の資格との平仄をあわせる意味でも妥当に思えるのだ。
2009年から更新制にしたけど問題が噴出し、2022年にそれが廃止された、教員免許みたいな先例もあるのです。
ケアマネの皆さんは強い業界団体もないので、そこまで声が届きにくいと思うのです。また、こういうところで負担軽減を図っても、正直焼け石に水だとも思うのですが、このままだと10年後には、都市部でもケアマネ難民がざらに出るであろうこと、予言しておきますね。