工法と見立ての誤り ~やらかしの記録 ③
鎖大師さまという、弘法大師様にゆかりのお寺がウチの近所にある。
あのお大師様でもミスをする、という諺は、我々やらかしの民を常に勇気づけてくれるので、その横の坂道を通るたびにありがたい気持ちで帰宅している。
最初から言い訳で入った。
今回のやらかしは、「ユニットバスの壁材の見立てを間違えた」である。
ここで、これだけ取付技法について上から語っていながらこの体たらくである。だがお大師様でも筆を誤るのだから、そういうこともあるのである。
最近のユニットバスは壁がだいたい化粧鋼板(母材は磁性のあるステンレス系だったはず)で出来ているのだが、稀に特殊化粧セメント板というやつがある。
これは、表面は硬い模様仕上げで、ぱっと見は化粧鋼板と区別がつかない。でも、だからこそ磁石を持ってきて判別するべきなのだ。
なお、パネル平面部の継ぎ目の仕様でも判別できたりする。
そこまでわかっていながら。
バタついた調査のときは、ついついその確認が甘くなることがあるのだ。
そして、現場で化粧鋼板UB仕様の、片側7つ穴の手すりを眺めつつ、その穴の位置にドリルで小孔を開けたのちに落ちるはずの、鉄粉が見当たらず途方に暮れる羽目になるのだ。
そんなときのために、最近はすぐれものがある。
ただのプラスチックアンカーに見えるが、これが侮れないのだ。
まず硬い。でも硬すぎない。
叩き込んでも、簡単に中折れしないほどほど具合である。
また、守備範囲が広い。
いろいろな相手とがっぷり四つに組める。
コンクリート系、ALC、セメント板だけでなくプラスターボードまで。
これまでの苦労は何だったのだろうか、と言いたくなる高性能である。
侮れなさが少し伝わったであろうか。どこぞの元総理の息子よりもずっとセクシーなアンカープラグである。
たぶん現場でモテモテのハズである。これまでの製品の難点をことごとく覆しているので。そりゃ惚れるわこんなん。
このような壁材相手の場合、通常は裏でお団子になるアンカーを使って物理的に挟み込む手すりを選ぶことが多いのだが、こういった非常時は穴の間隔や形状がそれにふさわしくないため、致し方なくこういう選択になる。
念のため計算すると、プラグ1か所あたりファイバー石膏ボードで0.3kN、つまり30Kgfの引っ張りに耐える。仮に安全率2倍としても、手すりの片側で7×15=105kgf、反対側と合わせて210kgfの耐力があれば、さすがに大丈夫であろう。7つ穴であることがここで役に立つ。穴の間隔はちょっと怪しいが。
なので気を取り直して、その鉄粉が出てこなかった残念な小さい下穴にφ6mmのタイル用ドリルを当て、ワシワシと拡張していく。
そして穴清掃→シーリング→プラグ打ち込み→シーリング増し打ち→手すりネジ止め、の順に進んでいくのである。
幸い、その手すりは自分の全体重を受け止めてもびくともしなかった。フィッシャープラグ万歳。お高いだけはある。
今日の手すりも頑丈について何よりである。
そもそもがやらかしがちな自分である。
橋本という苗字なのに、高校までは友達に橋木というあだ名で呼ばれていた。いったい何がいっぽん抜けたというのか。
大学時代に至っては、橋になった。もはやハゲ山、丸坊主である。
だから、やらかすことは致し方ないが、そのやらかしを致命傷にせず、そこを綺麗にカバーするための対処法をいくつか持っておくと心の平穏が得られる、という処世術を身に付けてここまで生き残ってきたのだ。
たとえば今年に入っても、仕事車のワゴンRのバッテリーを2度ほどアゲている。だが気持ち早めに打ち合わせに出かける癖をつけているおかげで、都合10分で妻の軽自動車のボンネットを開けてブースターをつなぎ、エンジンを始動して涼しい顔で出かけている。
やらかしても、テンパらない準備と技術があればいいのだ。何も問題ない。
最後まで言い訳で終わるところであった。
だがどんな仕事であれ、それを続けるための隠れた資産は、実は表の技よりも、こういうリカバー技術の蓄積なのでは?と思うところ、大なのである。