【読書メモ】_人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション
1、 メモを公開する経緯
本書との出会いは衝撃的でした。書名を見ただけで、「アディクションって、確かに、信頼障害とういう表現がピッタリだ!」と思いました。読んでみて、自分が感じていたけれど言葉として表現できなかったことが、研究によって証明されていたこと、信頼障害からの回復のための具体的な方法もたくさん書かれていることに感銘を受けました。本書が出版された2016年か2017年だったと記憶しています。
以来、診察室の棚に本書を常備しておき、異動や入職したスタッフには一読することを勧めてきました。当事者や家族にも勧めてきました。
読んで、「自分のことが、そのまま書いてあった」、「自分は、まさに、信頼障害だと思う」、「人生の謎が解けた」といった感想が寄せられます。「親に自分のことを理解してほしくて、買って送った」という人もいます。
というわけで、真っ先に【読書メモ】を公開でしたかった本の1冊だったのです。
2、どんなことが書かれていましたか?
目次を示します。
第1章 アディクトの生きづらさ
第2章 人に頼れない、物にしか頼れない
第3章 人を信じられない、物も信じられないーアディクトのジレンマ
第4章 アディクトとの初回面接―援助者はどう向き合うべきか
第5章 なぜアディクトはうそをつくのか
第6章 アディクションの治療―回復ではなく成長を目指す
第7章 アディクションのグループ療法―SMARPPとSCOP
第8章 アディクションと社会―予防・啓発・取り締まり
第9章 最終章 アディクションはどこに向かうのか
信頼障害は、ICDにもDSMにも載っていません。正式な診断名ではないのです。
医師ではない人が言い出した診断名らしき言葉は世に多く出回っています。古くは、空の巣症候群、ピーターパン症候群から、最近なら、カッサンドラ症候群でしょうか。
そういう概念は、便利ではあるものの、定義が曖昧だったり、既にある診断の組み合わせだったりするので、医師は、仕事で不用意に使わないようにするものです。
依存症臨床のベテランである筆者が、あえて、正式な診断名でない概念を前面に出して書いたのは、それだけ重要な概念だからだと感じます。
第1~3章までは、様々な資料を引用して、信頼障害仮説を導きだしています。
第4~7章は、治療者向けに、信頼障害を踏まえた治療の実践例についてです。
第8~9章は、信頼障害を引き起こす、家庭、社会について、予防と啓発的な内容です。また、司法については、現状への疑問、海外の事例紹介と提言をしています。
3、特に気に入ったくだりは?
著者は、信頼障害が起きる経緯がハードドラッグ(違法)とソフトドラッグ(合法)で違うことを、研究結果から推測しました。とても秀逸だと考えます。
第2章
p45
明白な生きづらさを確認することができないアディクションの患者たちの成育歴を丁寧に確認していくと、気づかされるのは、生きづらさの中身がハードドラッグ群とはまったく違う、という点である。
表面上、何不自由なく家庭生活や社会生活を送っているその裏側にある。
P46
(その環境は)我慢と努力さえ続ければ、何とか家庭でも学校でも、自分の居場所を確保することができる。
しかし、毎日我慢と努力を続けなければ、いつ家庭や学校で居場所がなくなってしまうかわからない。いつ親が激怒したり、周囲から期待されなくなって見捨てられたりするかわからない。こういう不安感をソフトドラッグ群のアディクトたちは日々抱え続けているのである。
このような、みずからの心理的安心感や満足感を犠牲にしてでも周囲の期待に応え続けようとする行動パターンは、広い意味での「過剰適応」と呼ぶことができる。
第8章 p203
内科医にとって胃炎も肺炎も医療の対象であるのと同様、アディクションの臨床医にとってはアルコールも覚せい剤も、どちらのアディクションも医療の対象である。その本質が「人」に対する信頼を失い、「物」にしか頼れなくなってしまったという「信頼障害」にあり、またその回復とは人への頼り方を学ぶ過程、すなわち「成長」であるからこそ、アディクションは刑罰ではなく精神医療の対象なのである。
刑罰の苦痛や強制力だけでは信頼障害は克服できないし、成長も促進できない。なぜなら、人から信頼されなければ人への信頼は生まれないし、失敗が許されないところに成長もないからである。
他にも多くの箇所があります。
4、どんな影響を受けましたか?
治療の過程において、必ず、その人が、どのような環境で、どのように信頼障害をもつようになったかを把握するようになりました。また、回復(成長)していくうえで、自分、人、世界を信頼できるようになるという軸をもつようになりました。
5、どういった点が優れていますか?
エビデンスに基づく、とても実践的であることが優れています。
著者の言わんとすることを踏まえてソフトドラッグ(アルコールや処方薬)依存の方々と対話すると、それまでの人生についての認識を共有し、治療を協働作業にできたという経験をたくさんしました。
6、どういう人が読むと良いですか?
臨床家にとっては腕を上げるために、当事者や家族にとってはアディクションを抱えるようになった謎を解き、回復とは何か、そのために、何が、どのように役立つのかを知るために読むと良いです。