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会社員による「高等学校(情報)教員資格認定試験」合格体験記~応用情報(AP)があれば高校教員になれるチャンス!
2024(令和6)年度の高等学校(情報)教員資格認定試験に合格したので、合格体験を記録しておきます。幼稚園教員や小学校教員については、継続的に資格認定試験が毎年実施されていますが、高校教員(情報)については2004年から休止されていましたが、この度、20年ぶりに再開されることになったのです。
民間企業勤めの私が、何をきっかけにこのことを知ったのかを、実はよく思い出せないのですが、日記を読み返してみると、2023年9月の時点でこのことを知っていました。何かのニュースサイトで偶然見つけたのでしょう。大学で教職課程を取っていない私でも、IPAの「応用情報技術者試験」の合格者であるというだけで高校教員への門戸が開かれたわけで、受験を決めるまでに時間はかかりませんでした。もちろん、「教育職員免許法第16条」で定められた正式のルートですが、教職課程を修めなくとも高校教員免許を取得できるチャンスがあるというのは、どこか”ライフハック”のような面白みがあります。
1. 必要書類の収集
願書はテレメールで請求し、3月の中旬には手元に届きました。専用の申込用紙や封筒類と受験手数料の払込票が同封されています。出願に当たって、必要な書類は以下の通りです。
⑴ 出願書類点検票(所定の用紙)
⑵ 受験願書,写真票,受験票(所定の用紙)
⑶ 戸籍抄本(個人事項証明書)又は住民票の写し
⑷ 高等学校の卒業証明書
⑸ 「振替払込受付証明書(お客さま用)」提出用紙(所定の用紙)
⑹ 情報処理技術者試験の応用情報技術者試験,高度試験又は情報処理安全確保支援士試験の合格証明書
⑺ 受験票送付用封筒(所定の封筒)
⑻ 第1次試験結果通知用封筒(所定の封筒)
⑼ 第2次試験結果通知用封筒(所定の封筒)
⑽ 試験科目の一部免除申請に必要な提出書類
受験資格は、高校を卒業しており、なおかつIPAの応用情報技術者試験以上の資格に合格した者です。高校卒業の証明書とともに、IPA試験の合格証明書が求められます。注意しなければならないのは、提出するのは合格証明書であって、IPA試験の合格後に郵送されてくる合格証書ではないことです。合格証明書はオンラインで交付手続きができますが、入金から到着までに1週間程度かかるので早めに手続きをしておきましょう。私は応用情報技術者試験にも合格していますが、直近に合格した高度試験の合格証明書を提出しました。
〔独立行政法人 情報処理推進機構「合格証明書の交付手続き」〕
高校卒業の証明書についても原本が必要です。卒業証書やコピーでは認められないので注意しましょう。高校の卒業証明書が難しい場合、大学や短大の卒業証明書でも代用できるようです。
2. 受験手数料納付・願書提出
2024(令和6)年度試験の出願期間は3月25日から4月12日でした。受験地は関東でしたが、出願期間には出張先の大阪にいたので、最寄りの郵便局で受験料の払い込みを終えて願書を提出しました。教員資格認定試験に関する手数料については、「教員資格認定試験規程(昭和48年文部省令第17号)」で定められているのですが、もともとは高校教員資格認定試験の受験料は5,600円でした。しかし、平成30年に「教員資格認定試験規程」が改正され、小学校教諭教員認定試験の受験手数料が5,600円から25,000円に引き上げられたことに合わせ、高校教員試験の受験手数料も25,000円になりました[1]。
文部科学省の資料(2020年)[2]によれば、教員資格認定試験事業の実施にあたり出願者一人当たりのコストは19.4万円だそうです。受験手数料とコストの差額を税金等で賄うことになるので、試験事業を独法に移管するタイミングで手数料の適正化を図ったのでしょう。それにしても受験料25,000円というのは個人負担としては大きいので、受けるからには一発合格を目指したいという気持ちになりました。
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<参考情報>
[1] https://www.mext.go.jp/content/20231114-mxt_kyoikujinzai01-000032692_02-1.pdf
[2] https://www.mext.go.jp/content/20200129-mxt_kaikesou02-1332458_2.pdf
3.受験科目
受験科目は「教科及び教職に関する科目(Ⅰ)」と「教科及び教職に関する科目(Ⅱ)」です。前者はマークシートによる択一式問題、後者は論述式です。科目と時間割の詳細は下図の通りです。
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先に述べておきますと、「教科及び教職に関する科目(Ⅰ)」についていえば、高校教員と小学校教員の試験で出題方法や分野に違いはありませんでした。令和6年度の両方の試験問題を見てみますと、小学校教員の試験では義務教育や小学校の教育課程・教育指導要領に関する出題がありましたが、高校教育に関する出題はありませんでした。逆に、高校教員の試験には「高等学校学習指導要領」に関する出題はありましたが、小学校や中学校に関する出題はありませんでした。しかし、教育基本法や地方公務員法などは両者に共通します。重要な条文についてはある程度暗記する必要がありますし、教育史や教育原理などはしっかりとポイントを抑える必要があります。
4.教材選び
郵便局で願書を提出した私は、そのまま大阪駅前のジュンク堂へ足を運びました。独学のための教材を買うためです。当然ですが、20年ぶりに再開される試験なので、最近の過去問もなければ、インターネット上の情報も非常に限定的でした。令和6年度の出願者数は67人(うち63人が受験)だったようですが、おそらく多くの皆さんが同じように暗中模索であったと思います。
私は「東京アカデミー」のオープンセサミシリーズ「教員採用試験対策参考書」を使用して学習しました。各出版社からいろいろな参考書が発刊されていますが、書店で読み比べた結果、この参考書が私とって最も学習しやすいと感じました。2色刷りでイラストはほとんどなく、講義形式の説明になっており、重要なキーワードはゴシック体で強調されているだけというのが特徴です。参考書の中にはカラフルに彩色したり、イラストを豊富に盛り込んでいるものがあり、理解を助けるものもあります。この辺は好みによると思いますが、私はシンプルなものを好みました。いずれも「高校教員」に特化したものはないのですが、小中高ともに共通的な内容なので、体系的に教職教養科目を学習できるような構成であれば、何を使ってもよいと思います。改めて紹介しておくと、私が選択したのは以下2冊の2025年版です。
本書の構成は以下のようになっています。
教職教養Ⅰ編
1.教育原理
2.西洋教育史
3.日本教育史
教職教養Ⅱ編
1.教育心理
2.教育法規
このシリーズで問題集もありますが、私はそれを買わずに学研の「教員採用試験教職教養頻出問題短期完成15日間 (2024)」を電子書籍で買っておきました。
5.教育原理を知る
「教育原理」では、教育の意義や目的、教育方法から入ります。そこから、教育課程や学習指導要領の概要、さまざまな教育(道徳教育、特別支援教育、人権教育、同和教育、社会教育)を体系的に学びます。この分野からは、例えば次のような出題がなされます。
問1 次の各文章は,教育史上の人物の教育思想に関する記述である。コメニウス(Comenius, J.A.)の教育思想として最も適切なものを,次のア〜エの中から一つ選んで記号で答えなさい。(以下略)
ソクラテスの「無知の知」から始まり、「世界図絵」を著したコメニウスの直観教授、ペスタロッチの開発教授といった教育原理の史実を学びます。私が使用したオープンセサミシリーズは淡々と要点だけを説明しているため、これだけでは理解が難しいと思います。そこで私は都度Wikipediaを参照しました。ウィキペディアンには教育分野の方々が多いのか、日本語版も記事が大変充実しています。例えば、コメニウスの「世界図絵」というキーワードが出てきたら、「コメニウス」と「世界図絵」の両方の記事を読みました。高校生のときに学んだ世界史は退屈でしたが、自分の好きなタイミングで面白そうなところから読み進めるとはかどります。カリキュラムに縛られない独学ができるのは、社会人の特権といえるでしょう。しかし、試験は6月16日。約3か月の間にすべてを学び終える必要があり、時間との戦いでもありました。毎週土曜日は朝7時から近所のコメダ珈琲店で昼近くまで勉強していました。私がコーヒーアレルギーであることを知ったのは、1か月後に土曜日の午後には必ず鼻炎症状が出ることに気づいた時でした。
6.教育心理を知る
これまでの人生で全く関心を持つことがなく、かつ一度も通ってこなかった分野ですが、個人的に最も独学が捗ったのは心理学でした。教育分野では「教育心理学」を学びます。人間の固有の行動である教育という行為の問題を明らかにするために、実験心理学の父であるヴントらから始まる現代心理学を概観し、ワトソンの行動主義やゲシュタルト心理学を学びます。私の愛読する筒井康隆先生の小説や随筆に度々登場するフロイトも出てくるし、個人心理学のアドラー、分析心理学のユングなど、名前は聞いたことがあるが功績はよく知らない研究家たちの名前と心理学の専門用語が出てくるので、知識欲が満たされた気がします。試験のために覚えることを考えると憂鬱ですが、この辺はまるっと暗記するほかありません。
マメな方はノートに要点をまとめるのでしょうが、何しろ私には時間がありませんでしたので、テキストにWikipediaの補足情報をペンで書き込み(下図)、それをスキャンしてiPadで通勤中に読むという手法を採用しました。このために、iPad miniを買ったのですが、これが最高に効果的でした。iPad miniの大きさ、操作感は通勤中のスキマ学習に最大の効果を発揮しました。
学研の「教員採用試験教職教養頻出問題短期完成15日間 (2024)」も暗記問題を制覇するには大変役に立ちましたが、オープンセサミと章立てが異なるのでやや混乱しました。同じシリーズの問題集の方がよかったのかもしれません。
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7.教育法規を知る
民間企業勤めで教育には無縁だった私にとって、学校教育はどのような法律の下で成り立っているかを知るのは新鮮な体験でした。
下図のように、我が国の法規はすべて日本国憲法を中心とした体系になっています。そこで、まずは理念的・包括的な概念である日本国憲法を理解し、次に教育基本法や学校教育法やその下位にある行政命令や行政規則といったより具体的な決まり事を学ぶことになります。
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法律や行政命令は国民に対する法的拘束力を有すると解釈されます。たとえば学校教育法では、保護者に対して子供に義務教育を受けさせることが定められています。これに違反して、教育委員会の督促にも従わないと同法によって保護者は10万円以下の罰金を科される可能性があります。教育を受けさせないことは虐待の一種と解されます。一方で、行政規則は行政内部機関における内規であり、国民に対する法的拘束力はないと解釈されます。学習指導要領は行政規則の一種です。
教育法規の面白いところは、自分が児童・生徒だった頃に通ってきた学校という組織の中で、教員や学校、地域住民が学校教育法、学校安全保健法、それらの施行規則に則ってそれぞれの役割を果たすために動いていたことを認識したことです。校長や教頭、教諭が学校教育法や教育公務員特例法に沿ってどのように配置されているのかを学ぶことができます。
8.教育史を知る
私は歴史が得意ではないので、なかなか乗り気になれなかった「教育史」を思い切って後回しにしました。その結果、どうなったか。はい、試験までにほとんど学習時間を作れませんでした。持ち前の無計画さを存分に発揮した結果、「教育史」に着手するころには試験日まで残り3日間しかなかったのです。
オープンセサミの参考書は、日本教育史と西洋教育史が分かれており、それぞれ分厚くページが割かれています。教育に携わる者としては、試行錯誤を繰り返してきた日本の教育課程の変遷や制度についてしっかりと学ぶべきなのです。と、言いたいところですが、残り3日しか猶予がない私にとって、それは理想論。できることが限られました。脳裏に浮かんだのは、某漫画の「先取り約束機」です。この機械に約束を吹き込めば、その結果を先取りして叶えてくれるという便利な道具です。
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「教育史はあとで勉強する・・・その代わり、今は暗記で許してください」と乞いました。先取り約束機の効果であるかはわかりませんが、なんとか合格できました。約束は守らなければなりませんので、過去問研究を兼ねて対策すべき内容をまとめました。
暗記作業に大いに役に立ったのが「教員採用試験教職教養頻出問題短期完成15日間 (2024)」です。おかげで、明治期の教育史上の偉人たち(新島襄、福沢諭吉、井上毅、森有礼)の功績の詳細を知らずとも、択一式問題を乗り越えることができました。
9.学習指導要領解説(情報編)を読む
「教科及び教職に関する科目(Ⅰ)」の試験で最も多く出題されたのは「高等学校学習指導要領」(平成30年文部科学省告示)に関するものでした。この指導要領には総則編のほかに、各科目ごとに作成されているものがあります。
〔文部科学省 高等学校学習指導要領解説〕
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1407074.htm
学習指導要領関係では、令和6年度では8問出題されています。このうち総則に関するものは5問ですが、基本的にはオープンセサミの参考書をしっかり読み込んでいれば解けるものと思われます。しかし、残り3問は「情報編」に関するもので、参考書には書かれていません。「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説」を買い求めて一読しておくべきでしょう。
しかし、実のところ、私はこの本を書店で買っていたものの、ほとんど開くことがありませんでした。(インターネット上に公開されていますが、書籍版は安価なので手元に置いておくとよいでしょう。)
要は一度も読まずに一次試験に臨んだわけですが、3問のうち2問はほぼ国語力で何とか解くことができ、ありがたいことに正解していました。残りの1問は知識を問うものであり、読んでいたとしても覚えていたかというと怪しいところです。1問も落とさないという気概で臨むならば隅から隅まで読むべきものですが、及第点を狙うなら、あまりここに時間はかけずに、他の分野で正解を目指す方が得策かもしれません。
個人的な見解ですが、一次試験に合格した後に、二次試験に向けて「情報編」を読むというやり方もアリだと思います。
10.令和6年度 科目(Ⅰ)出題傾向
令和6年度の高等学校教員資格認定試験の「教科及び教職に関する科目(Ⅰ)」では何が出題されたのでしょうか。以下は出題分野を整理したものです。
番号 内容
第 1 問 西洋教育史
第 2 問 日本教育史
第 3 問 教育法規(教育基本法)
第 4 問 教育法規(学校教育法)
第 5 問 教育法規(地方公務員法)
第 6 問 教育原理(高等学校指導要領)
第 7 問 教育原理(高等学校指導要領)
第 8 問 教育原理(高等学校指導要領)
第 9 問 教育原理(高等学校指導要領)
第10問 教育原理(高等学校指導要領)
第11問 教育原理(生徒指導)
第12問 教育心理(人格と適応)
第13問 教育心理(発達の理論)
第14問 教育心理(学習の理論)
第15問 教育原理(教育時事)
第16問 高等学校指導要領 情報編
第17問 高等学校指導要領 情報編
第18問 高等学校指導要領 情報編
第19問 情報Iの問題
第20問 情報Iの問題
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こうしてみると、教育原理が最もウェイトが大きく7問出題されています。そのうち、高等学校指導要領については5問を占めているので、それだけ重視されていることが読み取れます。教育法規・教育心理はそれよりもやや小さいですが、幅広い範囲から3問出題されています。満点の6割以上が合格であるという基準を考慮すると、(すべての問題の配点が同じ場合)20問中12点以上正解すれば合格となります。
偉そうに分析していますが、実は自己採点の結果、私は及第点ぎりぎりだったのです。教育原理、教育法規、教育心理に優先的に着手し、やや念入りに学習を進めたおかげと思っています。「情報Ⅰ」に関する問題は、Pythonを模した言語に関する問題です。私はPythonには詳しくありませんが、応用情報技術者試験に合格する最低限の知識のおかげで何とか得点できました。
11.令和6年度 科目(Ⅱ)出題傾向
2つ目の試験は論述試験です。2問出題され、いずれも必答問題です。1問目は「ウェルビーイング」について300~400字で論述する問題。2問目は「ヤングケアラー」という課題に学校教育がどう対応すべきかを300~400字で記述する問題です。てっきり、「情報」分野の論述だと思っていましたので、少し意表を突かれました。とはいえ、問題文に「ウェルビーイング」「ヤングケアラー」の意味や実態についての簡単な説明が含まれているので、知っている知識で補いながら論理的に文章を組み立てる作業時間です。自分がChatGPTになった気持ちで、矛盾がないか、日本語が正しく使えているか、問われたことに対して解答できているかという点に注意できれば、難しいものではありません。
IPAの高度試験では2時間で2000~3000字程度書いたことがある方にはお分かりかもしれませんが、1時間で400字×2問というのはそこまで負担がかかりません。まず何を書くかの構成をざっくりと考え、キーワードを織り込みながら組み立てていけば十分に時間が余ります。見直しを怠らないことが大切です。論作文の作法については、Hyper実践シリーズが役に立ちましたので、紹介しておきます。
時事問題に対しては、実務教育出版「速攻の教育時事」を買いました。買ったのですが、あいにく十分に勉強の時間が取れず、前日に流し読みをするだけでした。しかし、試験に合格した今、教育業界の潮流に追いつくためにこの本はとても役に立っています。ちなみに本書では「ウェルビーイング」はカバーされていますが、「ヤングケアラー」はカバーされていませんでした。
12.まとめ
2023年9月から高校教員資格認定試験について情報収集を始め、2024年2月から必要書類の収集、3月に受験料支払いと願書提出。6月に一次試験があったので、実質の勉強期間は3か月でした。過去問がないのでどのような形式で出題されるかはわからない中、教育原理、教育法規、教育心理を優先的に着手したことが結果的に功を奏しました。結局のところ、毎年実施されている小学校教員認定試験と傾向はほとんど同じだったわけです。この傾向は当面続くと思われます。この合格体験記が受験を検討されている方の一助となれば幸いです。
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