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大学の合格最下位学力の統計分析① イントロダクション

趣味の統計分析の新シリーズです。といっても、先日まで分析していた「共通テストリサーチを用いた学力上位○%の分析」の派生形です。

学力上位○%の分析は、「大学・学部・学科のボーダーラインの分析ではなく、学力トップレベルの優秀層がどこの大学にどれくらいいるのか」という学力構成=学力レベルの分析でした。さらに、学力レベルとボーダー偏差値の差を魅力度と定義して、魅力度の分析も行ったりしていました。

一旦、学力レベルの分析は終わりにしたのですが、有り難いことに、何人の方からコメントを頂く中で、次はボーダーラインの分析をやってみたくなりました。その大学に優秀な学生がどの程度いるのか(学力レベル)ではなく、その大学の合格最低点に焦点を当てます。

つまり、合格最低点で入学する学生の学力=合格最下位学力の分析です。

今回はまずはイントロダクションとして、合格最下位学力の考え方の整理と合格最下位学力トップ30の紹介を行います。その過程で、合格者平均点の分析も行っています。

0 まとめ

  • 大学・学部・学科の共通テストリサーチの人数分布から推定される合格者平均点は、大学が公表する合格者平均点とほぼ一致する。このことから、共通テストリサーチの人数分布は一定の信頼性があると考えられる。

  • 合格最下位学力の1位は東大理三。理三の合格最下位学力は、共通テスト偏差値≒河合塾・全統記述模試偏差値で70を超えている。理三は全員が偏差値70以上であり、一度も全統記述で偏差値70を取ったことなければ、理三の合格は極めて困難。

  • 前回までの分析で際立っていた東大理一は、今回も4位に食い込む。理一に合格できる学力があれば、東大理三、京大医医、医科歯科大医医、大阪大医医の医医トップ4以外は、学力だけなら、日本のどの大学にも入学できる。

  • トップ30の構成は、医学部医学科:14、東大:5、京大:9、東工大:1、北大:1(医医に東大・京大・北大を含む)。東工大は情報理工学類、北大は獣医学部がランクイン。今回の分析でも北大獣医学部は異彩を放つ。

1 合格最下位学力の考え方(分析の前提)

①共通テストリサーチの5教科得点率を、学力の指標として採用する

2次試験での上方シフト(合格)と下方シフト(不合格)は同程度に発生して相殺される前提とし、共通テストリサーチでの大学・学部・学科の受験希望者数=実際の合格者数=実際の進学者数として集計しています。科目の配点バランスは是正しませんが、著しく偏ったところ(京大・総合人間学部と一橋大・社会学部)は集計対象外とします。大学・学部・学科で得点率の計算構成が違いますが、そもそも理社の科目平均点差もあることから、計算構成の違いは誤差範囲として扱います。

②対象とする大学・学部・学科の共通テストリサーチの人数分布で定員に達する得点を合格最低点の推定値とし、合格最低点の学力を合格最下位学力と定義する

上述の通り、個人レベルの2次試験の変動は上下に相殺されるので、受験生の集団としての合格最下位学力は共通テストで評価できるとしています。

③基本的な集計対象は、旧帝国大学(北海道大・東北大・東大・名古屋大・大阪大・九州大)、一橋大・東工大、国公立医学部医学科(国公立医医)の前期日程試験とする

前回の分析のカバー範囲を踏襲しています。学力上位1%以内を概ねカバーできる対象範囲です。ただし、合格最下位学力が学力上位1%以下になる学部・学科も多いため、学力順位を出す場合には、少し集計対象を拡大しています。この点は、その記事を書く際に説明する予定です。

④年度のブレを吸収するために、評価や比較は5年平均で行う

2020年度入試から2024年度入試の5年平均が基本です。経年比較する場合は、2015年度入試から2019年度入試の5年平均(過去10年の前半)と比較します。

⑤現役と浪人は区別しない

5年平均を採用しているので、n年度に不合格で浪人する受験生は、n+1年度以降にどこかに進学するため、5年の幅でほぼ吸収されます。5年間の両端は循環するという整理です。ただし、学力順位を見る場合は、不合格で浪人する受験生も考慮必要となるため、順位分析のみ浪人という区分を取り扱います。

2 分析の手順

  1. 対象の大学・学部・学科について、年度ごとの共通テストリサーチの得点別人数分布から、定員を超える点数を特定。あわせて、中央値と上位5%分位点を超える点数も特定。

  2. それらを得点率に換算して、大学・学部・学科ごとの年度毎の合格最低点、中央値、上位5%分位点の得点率とし、その5年平均を採用。ただし、作業負荷の関係で、合格最低点の得点率65%未満(ほぼ平均以下)の大学・学部・学科は、以降の分析では取り扱わない。

  3. 合格最低点までの度数分布の得点率×度数から平均点の推定値を算定。その得点率も5年平均を計算。

  4. 得点率ではイメージ付きにくいので、各年度の共通テストリサーチの5教科総合平均点・標準偏差から、それぞれの偏差値を算定。基本的にはこの偏差値で比較を行う。

3 分析結果のサンプル

分析結果から法学部を抽出したリストがこちらです。

表1

東大文一の合格最下位学力は、共通テスト偏差値のオレンジのセルのオレンジ枠の偏差値66.8です。他の大学の上位5%のラインの学生の偏差値は、北海道大65.4、東北大66.6、名古屋大66.2、九州大66.1なので、この4つの大学の法学部の上位5%の学生でも、東大文一には合格できないことになります。

次に中央値と平均値を見てみます。右欄に河合塾・全統記述模試のC判定偏差値を入れてみました。すると、緑のセルの大学では、共通テスト偏差値の中央値・平均値の偏差値と、全統記述模試C判定偏差値がほぼ同じです。大阪大法学部は驚きの一致度です。

これらの点を考えると、共通テスト偏差値=全統模試偏差値として扱ってもよさそうです。

4 共通テストによる評価の妥当性の検証

次に共通テストリサーチから算定したデータと、実際の入試結果の対比を行い、共通テストで合格最下位学力を評価することの妥当性を検証します。対象の大学・学部・学科で、合格者の共通テストの点数の公表を行っているところについて、比較するとこの表のようになります。

表2

右下の全平均0.9%は、共通テストリサーチから推定した平均点得点率と、大学が公表している平均点得点率の差です。東大は2次試験の比率が大きい(1次:2次=1:4)ため、特異値のようになっています。そのため、東大を除いた平均を見ると、差は0.5%となります。得点率の差0.5%は、900点満点で4〜5点の誤差であり、かなり精度が高いと考えられます。

試しに、大学公表値と推定値の差ついて、t-検定(有意水準5%・両側検定)を行うと、t値の全体値は1.26であり、両側境界値1.95を下回りました。そのため、「大学公表値と推定値は同じである」という帰無仮説は棄却されずに採択されます。つまり、大学公表値と推定値と同じと言えます。

表3

共通テストリサーチの平均点推定値は、得点分布から算定しています。平均点推定値が大学公表値と同じであれば、大学共通テストリサーチの得点分布は実際の合格者の分布に近い形をしていると考えられ、今回の分析値には一定の信頼性があると判断できます。

では、中央の合格最低点の推定と公表値の差の平均値はどう見ればいいでしょうか? 東大除くと得点率4.5%の差です。共通テスト900点満点だと40点くらいに相当し、共通テスト偏差値で約3です。

冒頭に述べた前提にあるように、2次試験での上下変動は双方に相殺するという仮定にしています。この約5%の得点率は、2次試験での逆転合格やまさかの不合格が起こりうる平均的な点数幅です。この程度であれば、上下変動は双方に相殺されるという仮定はそのまま適用してよいと判断します。

5 合格最下位学力のトップ30

共通テストリサーチの人数分布は一定の信頼性があることが確認できました。そこで、共通テストリサーチから算定される合格最低点の推定値=合格最下位学力を見ていきます。

まず今回は合格最下位学力のトップ30です。グラフで並べるとこうなります。医医以外をマークしています。

グラフ1

このグラフは、その大学の合格最下位学力(=最下位)の学生は、左側にある大学には不合格だけど、右側にある大学には合格する(その大学の合格最下位学力は上回っている)という見方をします。

1位は東大理三です。唯一、共通テスト偏差値≒全統記述模試偏差値で70を超えています。全統記述模試70が最低線ですが、これは理一のC判定に相当します。

1位と2位の間は少しギャップがあり、京大医医、医科歯科大医医、大阪大医医と続きます。この3つの医医は僅差で並び、合格最下位学力にほぼ差はないです。

その次は医医以外の最初のランクインです。東大理一です。一つ上の大阪大医医と差は偏差値0.3しかなく、肉薄しています。東大理一に合格できれば、例え最下位であっても、上記4つ大学以外の医医だろうが、他のどんな大学の学部だろうが、学力試験だけなら合格可能という凄まじさです。

以降、いくつかの大学の医医が続きますが、9位に京大工学部の情報学科がランクインします。情報系は29位に東工大もランククインしています。情報系は合格最下位学力=合格難易度が上がっているのかもしません。

10位以降は、医医以外の学部・学科が目立ちます。東大と京大が多いですが、13位に北海道大の獣医学部がランクインします。北海道大医医(20位)より上です。先日の魅力度ランキング(学力レベルとボーダー偏差値の乖離度)で2位でしたが、合格最下位学力もかなり高いようです。

6 最後に

学力レベルの分析は構成比のため、大学単位や文系・理系のマクロな分析であり、学科レベルで突出しているところが目立ちませんでした。一方、今回の合格最下位学力は受験単位なので、学科レベルに分解してミクロに分析してみると、難関医医に匹敵する学部・学科はそこかしこにあることがわかりました。

今回の記事はここまでとしますが、このシリーズでは次のような分析をやっていく予定です。

  • 東大に最下位で東大に入れるのは学年何位までか?

  • 東大最下位合格は他の大学だとどのレベルなのか?

  • 地帝トップレベルは東大に何人入れるのか?

  • 東大の学力構成の多面的分析

  • 東大vs京大

  • 東工大vs一橋大 vs 京大

  • 地方国公立の医学部 vs旧帝国大

  • 10年前と比べた合格最下位学力の変動

週末に1本かけるかどうかのペースになりそうですが、興味あれば、気長に次回の投稿をお待ちいただければ嬉しいです。



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