子をせたろうて山へ登る。
ようやく太ももの筋肉痛が治り、階段の上り下りもスムーズになってきた。
しばらくぎこちなく歩く日々が続いていたので、そもそも自分がどんな歩き方をしていたのか、一歩目は右足から?それとも左足から?と今まで一度も意識したことすらないことを考えて混乱するなどしています。
というのも、先日山に登ってきました。冒頭にアラフォー男性の肉体疲労という世界で最もどうでもいい話題の一つを切り出したのはそういうわけでした。
登ったのは秋田駒ヶ岳。標高1,637mで秋田県と岩手県の2県にまたがる山です。8合目まで車でいけるうえ、道中はなだらかで非常に親しみやすい山。
この秋田駒ヶ岳を年始に生まれたばかりの娘の山行デビューの地と決めたのです。
ベビーキャリアに体重8kgほどの娘を背負い、いざ出発。
登り始めは比較的急な道が続く。すぐに汗が吹き出し、えいと声をあげながら身体を持ち上げていく。背中の娘はゆらゆら揺れて、うとうとし始める。行き交う登山客が娘に目を留め、あらあらと相好を崩して声をかけてくれる。
黄色く色づき始めた木々、深緑の針葉樹の葉が抱く真っ赤な実、赤茶けた土、空と雲を映し波揺れる湖、ポクポクと小気味良い音を立てる木道。そして熊鈴がチリンチリンと響く。
山を歩くと、よくもまあこんなところを整備されたものだと、山を守る人々に対する驚嘆と感謝の気持ちが湧いてくる。この心地よい木道も、ふとしたところに掛けられたロープもすべて誰かがコツコツと手をかけてくれているのだと思うと思わず頭を垂れる。(疲れて下を向いているだけという説もある)
そして自然が織りなす美しい景観には言葉も出ない。
途方も無い時間をかけて生み出された山の峰を歩く。余計なことを考える余裕はなくなり、吸って吐いて吸って吐いての呼吸、身体が山や風や空と一つになっていく。背負われた赤ん坊がキャッキャと声を上げる。
ふと立ち止まったときに、吹き抜ける風に流れる汗が冷やされる。
思わず、「ああ気持ちいいなあ」と声がでる。
こうした身一つで山や森やこのほしの自然の中に抱かれる感覚を子どもに持ってほしいと思う。
自然は大事だ、環境を守ろう、という言葉だけはただただ空虚。
あの時踏みしめた地面の感触を。あの時見上げた空の色を。あの時駆け抜けていったカモシカの躍動を・・
このほしの持つ様々な姿を自分の身体の記憶として手にするところから始めてほしい。
それが僕たち人間が謙虚に自然と繋がり直していくための第一歩じゃないだろうかと思うのです。
負われた子は道中ほどんど寝ていたけど、それでいいのさ。
気持ちよかったよな。
またいこう。父ちゃんがんばって背負って歩くぜ。