64 日本一になった怪我人から、怪我をして悩むキミへ
僕は念願だった日本一の栄冠を手にした入院15日目の怪我人です。
両脇には松葉杖、手首には入院中の患者がつけるリストバンドをつけています。
あの日から3ヶ月。やっと笑うことができた瞬間でした。
そして、次の日にはまた入院生活が始まり、松葉杖の穴からは今も時々、ビール臭がしています。
これから書き綴ることは、怪我を乗り越えた人物の成功体験ではなく、手術したばかりで、これから乗り越えていこうとしている人物が入院中に書いている目の前のリアルです。
僕はこれまで怪我とは無縁の人生を歩んできたので、怪我でこんなにも苦しい思いをするとは想像すらしていなかったです。
でも今なら、怪我している誰かに寄り添える気がします。
怪我で苦しんでいる人やそれを身近で支える人にとって、乗り越えるためのモチベーションとなってくれることを願って書きます。
怪我をしていない人にも、新たな発見があるかもしれないので是非読んでいただけたら嬉しいですし、もしも身近に怪我をして悩んでいる友人がいたらそっとこの記事のURLを送りつけていただけたら更に嬉しいです。
それでは、松葉杖でシャンパンファイトに参加して、全国のバスケファンに心配をかけた怪我人の3ヶ月です。
どうか最後まで読んでいただけると幸いです。
復帰の前日に、手術することが判明?
まずは、はじめましての方もいると思うので簡単にこの3ヶ月間を説明します。
今年の3月に試合で大怪我を負いました。
人生で初めての大怪我です。
診断名は
右大腿骨内顆骨挫傷
右脛骨近位骨挫傷
右膝内側側副靱帯損傷
読むのが難しい名前が並んでいますが、不幸中の幸いで全治8から10週間だと説明されました。
シーズン後半の怪我でしたが、最後のチャンピオンシップのFINALまで進めば復帰できると信じて、厳しいリハビリに耐え続けました。
10週間が経過し、3回目のMRI検査をして遂にGOサインが出ると思っていた中で、病院の先生から新しい診断名を聞かされます。
右膝内側半月板損傷
異例の症状で、2回の検査では見つからない症状だったそうで、手術を勧められてしまいます。
振り出しに戻るどころか、復帰がいつになるか検討もつきにくい症状であり、悩みに悩んで下した決断は手術を受けるということでした。
怪我を負うまでは、日本代表にも選ばれたり、全試合で先発出場をしていて順風満帆かと思われたシーズンでした。
しかし、怪我によってたくさんの試練が僕に襲いかかりました。
怪我は最高の材料
怪我をしてからの3ヶ月で、何を感じてきたか。
それは思いつくものでいうと
不安、焦り、悔しさ、痛み、衰え、無力感
などです。
怪我をするとこんな言葉をたくさんかけられます。
正直、怪我自体には全く意味なんてないと考えています。
ただ、そのままでは意味がないということであって、努力次第で意味のあるものに変えることができます。
この感情たちは意味を作るための材料になるのです。
好きな本にこんなことが書かれています。
レモンとはそのまま食べては美味しいものではありません。
しかし、レモネードにすることができれば甘くてみんなに愛される飲みものに変化します。
怪我は誰が見ても良いものではないけど、努力次第で何かいいものに変えることができるはずです。
怪我した僕たちがまず考えないといけないのは、この材料たちをどのように調理していくかです。
こうして文章にして、誰かに届けようとするのもそれらの材料を調理していることになります。
誰か一人でも、この文章を読んで前を向けたなら、それは意味のない材料を意味のあるものにできたことになるのではないでしょうか。
この与えられたものを、どう活かすかは他の誰かではなく自分次第です。
僕はこのレモンで、C.C.Lemonを作ろうと思っています。
んっ?Σ(-᷅_-᷄๑)
負の感情を忘れずに溜めておく
怪我後は、手術に対する不安や不自由な生活にストレスが溜まってきます。
ちなみに僕は入院中にストレスが溜まり過ぎて、気がつくと
YouTubeで海外の男の人がビンタをし合う競技の動画を見たり、他にもお笑い芸人のジョイマンの動画を何時間も視聴していました。
これらの行動は、今ある現実から逃避して楽になろうと思ってしていた行為なのかもしれません。
怪我をすると、周りの人が羨ましく思えたり、他人の成功を素直に喜べなくなったりすることは多々あります。
そんな自分が情けなくて、自己嫌悪に陥ることがあるかもしれませんが、それは正常な反応なのだと考えています。
自分にプライドがあれば、怪我で何もできないときに誰かの成功を目の当たりにして悔しくなるのは当たり前です。
そうでなければ、プロスポーツ選手として失格だと思っています。
その悔しさは溜め込むことは、疲れるし、苦しいことではありますが必ず、復帰したときに自分を奮い立たせる燃料になると考えています。
大切なことは、この今ある感情と向き合うことです。
99%の悔しい時間に感謝する
ここまでを振り返ってみると99%の悔しい時間と、1%の幸せな時間を過ごした3ヶ月間でした。
この比率はどう努力しても変わりません。
しかし、捉え方は変えることができます。
99%の悔しい時間に感謝するのです。
99%の悔しい時間は、1%の幸せな時間を最大級の幸せに変えてくれます。
僕にとって、今シーズンに賭ける思いは生半可なものではありませんでした。
お世話になっている先輩が今シーズンを持って引退することを発表した日から、必ず最後に華を持たせて引退させると自分に誓いました。
しかし、シーズンの後半に大怪我を負ってしまい、戦線を離脱してしましました。
仕方のない怪我だったとはいえ、怪我した自分を責めていました。
ところがチームは、僕の離脱後に急激に勝率を上げ始め、なんとBリーグ制覇を成し遂げてしまったのです。
結果的に、あの優勝は99%の悔しい時間がフリ(伏線)となってくれて、最高の感動と幸せを感じさせてくれました。
今となってはこの99%の悔しい時間を感じられたことに感謝しています。
怪我がもたらした幸せ
優勝した瞬間は本当に嬉しかったです。
しかしそこには悔しい気持ちもありました。
コートで大歓声を浴びながらシュートを決めて、ガッツポーズするような自分の姿を思い描いていましたが、現実は松葉杖でチームベンチの端に座る姿でした。
わかりやすく例えると、マリオが最後にクッパを倒してピーチ姫を救って、かっこよく終わる姿を思い描いていました。
しかし実際は、マリオがピーチ姫を救いに行ったのに途中でやられてしまい、仲間のヨッシーがその後のステージを全てクリアし、最後にクッパを倒してピーチ姫を救ってしまったようなイメージ。
クッパと戦うはずのマリオはボロボロで戦えず、ヨッシーがクッパを倒しているのを応援することしかできない。
マリオはどんな気分でヨッシーがクッパを倒す姿を見ていたのだろうか。
ただ、目的を達成できたことには変わりはなかったので、情けない気持ちや悔しい気持ちは多少あったのですが、やっぱり嬉しい気持ちが勝りました。
いろんな感情が込み上げてくる中で、最も大きかった感情は「感謝」でした。
怪我を負ったときに僕以上に泣いて悔しがってくれた人の顔や、毎日励ましの連絡をくれた人の顔。
そういった人たちの顔が浮かび上がってくるたびに涙腺の栓が緩んでいきました。
そして気づくと試合が終わっていないにも関わらず号泣していました。
それは連日、広島のテレビでも何度も放送されました。
正直、恥ずかしかったです。
嬉しさ、悔しさ、情けなさを上回る、「感謝」の気持ちで涙したのは人生で初めての経験でした。
怪我は、人の優しさ、当たり前は当たり前ではなかったこと、普段気づけなかった様々なことに気づかせてくれる機会でもあります。
この3ヶ月間は歯茎から血が出るほど悔しい思いはしましたが、幸せもたくさん見つけました。
見つけたというよりは、気づいたという表現が正しいかもしれません。
僕は怪我をして、幸福度の上がった人間だと思っています。
これから長い期間をかけて復帰までの道のりを歩いていきます。
きっと、それぞれ目指す目的地は違うと思いますが、似たような悩みに苦しめられたりすると思います。
立ち止まったり、ときには後退したりすることもあると思いますが、それでも怪我で悩むキミを応援し、次は「日本一になった怪我人」ではなくて「日本一に導いた選手」としてこの舞台に帰ってきたいと思っています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。