47 人生ゲーム
ここまでは人生ゲームのルーレットを回すと大きい数字しか出ないような、そんなプロキャリアだったように思う。
怪我もしてこなかったし、プロ入団後は主力選手としてほとんどの試合で先発出場し、ルーキーオブザイヤーのベスト5にも選ばれ、翌年には日本代表にも選出された。
気づいたときには、想像もしてこなかったような場所に立っていて、ここまではハイペースに進んできた。
そんな中、3月に大怪我を負ったことにより、順風満帆に見えたコースから一時離脱してしまうことになった。
2ヶ月のリハビリ生活を経て、ようやくコースに戻ることができた。
また前のように進もうとルーレットに手を伸ばし、回して出た数字が指し示したマスには、想像すらしていなかったようなことが書かれていた。
怪我をしてから2ヶ月が経過し、3度目のMRI検査を受けた。
経過は順調だと言われ、もう復帰の日は近いと思っていた。
しかし、検査の2日後に病院に再び呼ばれ、新たな症状が伝えらた。
「右膝内側半月板損傷」
まさに『怪我から2ヶ月後、復帰直前で半月板が剥がれていたことが判明。手術によってまた振り出しに戻る』
というマスである。
この2ヶ月は、1日でも早く復帰できることを目指してリハビリに励んできた。
足を地面につけられるようになり、
体重をかけられるようになり、
歩けるようになって、遂には走ることもできるようになっていた。
しかし、そんな中で切れていた半月板が姿を見せ始めたのだ。
どうやら、1回目と2回目のMRI検査をしたときよりも3回目の検査では半月板が外の方へと移動していたらしい。
この症例は日本でもほとんど例がないらしく、経過の観察によってしか判明できなかった症状だったと説明を受けた。
ただ、人生ゲームとは違って、ぼくには振り出しに戻るか戻らないかを決める権利があった。
振り出しに戻らずにそのままゲームを続行という選択肢もとれるが、その場合は、遠くまで行けなさそうな気がした。
遠くというのは、現役でプレーをする長さを意味する。
チームドクターからは、もしベテラン選手なら手術は薦めないけど、これから先がある選手には手術を受けてしっかりと治した方が良いと言われた。
正直、少し前までの自分であればいつバスケをやめてもいい!と手術をしていなかったかもしれない。
しかし先日の朝山選手の引退セレモニーでスピーチをしてからだろうか。
ぼくの感情に変化が起きていて、人生の多くのマスをバスケットボールというスポーツで埋め尽くしたいと思うようになっていた。
それがたとえ、ルーレットを回して今回と似たような最悪のマスを引いたとしても、バスケットボールに関するものであればそれでもいいと。
だから、今回手術をするという選択を選んだ。
これからの経過について考えると、はじめはルーレットの1くらいしか出ずにほとんど進めないだろう。
だが、回す手をやめずに復帰というゴールに向かって、1マス1マスを丁寧に進んでいきたいと思っている。
そうすればいつか、前の自分がいたマスに辿りつくだろう。
でもそれは単なる時間の経過で終わらせないためにも、お宝カードをいくつもぶらさけてそのマスに立っていたいと思っている。
僕はいつだって、“ただでは起きない“。
また皆さんと元気な姿になって会える日を楽しみにしています。