見出し画像

短編小説 ほれ薬6 

つづき

翌日、
わたしは早速その銀行を捜しまわった。そう、捜しまわったの。
その場所はすぐに思いあたったけど、ここだわ、と思うところに銀行はなくてケーキ屋とか靴屋があるだけ。
それじゃ銀行はというとこの近辺にはなくて、ついでにわたしが寄りかかったと思われる窓も見当たらなかった。
シャッターが降りたことを想定してみたけど、あの日は平日で夜もそれほど更けていなかった。あのハイヒールでは駅から遠くへ行けたはずはない。
それではあのおじいさんはというと、どこにも占いの看板は出ていないし、街角に老人の姿もなかった。第一、あのおじいさん、本当に占い師だったのだろうか。どこかで見たことがあるような、誰かに似ているような。
しかし、あんな老人に知り合いはいないし、どこかで会った記憶もない。
わたしはあの夜、本当に老人に会い、そしてあの薬をもらったのかどうかすら分からなくなった。
わたしの思い違いだったのかも知れない。だけど、なんとなく心地よいミステリアスな感じの中、その日は素直に帰途についた。
マンションに着くと、ひょっとしたらいつも持ち歩いている鞄の中の粒がどこかに行ってしまったのではないかと探ってみた。
どうであろう、それはちゃんとわたしの指につまみ上げられて現れた。
テーブルの上に置いてみる。
私は残りもののシャンパンのグラスを傾けながらその包みを眺めた。
開いて水晶のような粒を見る。つまみあげて光でかざしてみる。溶けそうな感じはない。いったいどんな素材で出来ているのだろう。
テーブルの上に置いて目を凝らす。部屋中を照らしているようにも見える。
指で持ち上げる。強く押しても変形しない。
そうしているうちに、それは滑って親指と人差し指から飛んで行った。

つづく




ココナラ
姓名判断とタロットを組み合わせて3500円

ホームページからのご応募 姓名判断3000円


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?