2023年読書評4 砂絵
「うそつき砂絵」
都筑道夫
砂絵のセンセーシリーズ。
私はてっきり新作かと思っていましたが、残っている遺作2編を集めたのみ。あとは他の時代小説を集めたもの。
砂絵シリーズはだいたい8編入っているのですが、11作目の「さかしま」以来の作品集。つまり本来は12作目になる予定だったものが作者の逝去で叶わなかったもの。
都筑先生はスターウォーズの新作エピソード1~3を見たがっていましたが、2までしか見られませんでした。晩年は自宅から駅までも歩けないほど弱っておられたようです。
それはさておき、私は新作かと思っていたら2篇だけでがっかり。しかし解説で驚き。
解説によると都筑先生の著作のあとがきで、たまに先生自身が変名で自分の本の解説を書いていたそう。
私も彼が無数のペンネームを持っていたのを知っていたし、「淡路瑛一」などの名は彼のペンネームだと分りましたが、こんなにたくさんあるとは。
特に「二日酔い広場」の解説は都筑先生の知り合いの私立探偵が書いていることになっているのですが、私はずっともやもやしていました。登場人物と同じ名前なのはその人が名を伏せているのだろうと思ったり、しかし本当にこんな人物いるのだろうか、と読むたびに思っていたのです。
それが今氷解しました。氷解どころか彼はあちこちでそんなことをしていたのです。
そこで解説者が彼を「うそつき」だと言うのです。そこでこの本のタイトルも「うそつき砂絵」ということなのでしょうが、私は12作目の本だと思ったら、2編しかないのがうそつきだと思いました。
そしてそれ以前に「うそつき砂絵」というタイトルが気に入らない。先生の生前だったらもっと詩的なタイトルをつけたことでしょう。「うそつき」ではベタすぎる。
ときに、この本、合本なのですが、私は合本が大嫌いで以前、日下三蔵さんとツイッターでお話した時、私は「新宿哀愁円舞曲」の文庫が合本になっているのが気に入らないと申したところ、彼は「この時世だからしかたない」とのことでした。つまり売るためには厚く高い本にしなければならないということなのです。
ところがしばらく経って「哀愁新宿円舞曲」が単独で文庫になったのです。日下さんのご尽力で。
あるいは私の意見を尊重していただいたのかと、感謝申し上げます。
ちなみにこの人日下さんですが、私が誤った指摘をしてもすぐに訂正できる記憶の持主で、すごいなと思っていたのですが、都筑先生の本の解説で先生自身が日下さんの記憶力に驚いていました。先生以上に作品を憶えていると。
彼は先生のある本、同じ新刊の本なのに解説者名が違うバージョンがあるとか、実に細かい驚くべき部分まで知っている人で、私など都筑ファンを名乗れないほど、敵わない相手だと思いました。
さて、この本
前半は既刊の「さかしま砂絵」後半が「うそつき砂絵」ですが、著者絶筆のため砂絵シリーズは2編しか入っていません。それを補うために「春色なぞ暦」と「ふしぎ時代劇」を入れています。両者とも既刊の本で読んでいるので、実質初めて読んだのは2編のみとなりました。
希望としては文庫に入っていないという「暗闇坂心中」と
「ほりだし砂絵」という1編だけ本にする際に漏れた作品が単独で、限定で出ており、手に入らないので、それらなどをまとめて「うそつき砂絵」単品で出て欲しいと思います。
感想:
「うそつき砂絵」
やはり著者最晩年の作品ということもあり、体力も弱っていたのかボリュームが少なくなっているよう。しかし文体はしっかりしており、往年と全く遜色ないように思います。
作者が言うには「何を書くかではなく、どう書くか」に力を入れているとのことで、
何を書くかではないことには私と意見を異にしますが、しかし彼の作品が再読に耐えるということは「どう書くか」にこだわっていたからなのだと思います。
私などは何を書くかという方に力点を置くべきだと思うのですが、近年の作家はこの傾向にあり、面白く読めるのですが、気がついたのですが、さてもう一回読もうかなと思うとなぜか読み進められないのです。これは「どう書くか」という書き方ではないからかも知れません。
「春色なぞ暦」
これは「自選作品集」に収められていたもので、私が初めて著者の作品に触れたものですが、当時あまり頭に入って来なかったのですが、~面白く感じられなかったのですが、今読み返してみると、
固有名詞や人物名が読みづらくて、スムースに読めないと感じました。またしてもあまり頭に入って来ない。
ということで個人的には出来が良くないと評さざるを得ないと言えます。彼の他の時代小説はそうではありませんし、また他の時代小説、「右門」などは素直に読めますからこの作品の体裁がよろしくないのでしょう。
ただ、小説家が事件の謎を解くという観点は、職業警察=同心や岡っ引きではなく、素人探偵ということですので、良いと思います。
「ふしぎ時代劇」
これも他の作品集に入っていたもので、統一性のないものですが冒頭の、絵師になった元侍が謎を解くというシチュエーションは「砂絵」シリーズに通じるものがあり、センセーの素性が垣間見れた感じがします。
その他の作品は読みやすいけれど、作品集としてはまとまりがないので物足りなさを感じます。
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