過去と未来とアイスクリーム【短編】
過去と未来とアイスクリーム
パティシエとして名を馳せるユリは、日々忙しい生活を送っていた。彼女の手から生まれるスイーツはどれも評判が良く、特にケーキや焼き菓子には定評があった。
ある日、ユリは母親と食事を楽しんでいた。何気ない会話の中で、ふとある思い出が蘇った。
「そういえば、あなたが子どものころよく食べていたあのアイスクリーム、覚えてる?」
母親が懐かしそうに言う。
「ああ、あのアイスクリーム!結構前に販売終了しちゃったんだっけ。」
ユリは微笑みながら答えた。
「あれ、私、本当に大好きだったなぁ。」
ユリがそのアイスクリームを好きになったきっかけは、祖母だった。子どもの頃のユリは泣き虫で、些細なことでよく涙をこぼしていた。そんな時、祖母はいつも優しくユリを抱きしめ、そのアイスクリームを買ってくれた。
「泣かないで、ユリ。このアイスを食べれば、すぐに元気になるから。」
祖母はそう言って、ユリに微笑んだ。
ユリにとって、そのアイスクリームは祖母の思い出と強く結びついていた。甘くて冷たいアイスクリームを口に含むたびに、ユリは祖母の温かな手と優しい声を思い出すのだった。
「おばあちゃんがよく買ってくれたんだよね。泣き止むために、あのアイスがあったっていうか…」
ユリはしみじみと語った。
「アイスが食べたくて泣いてたんじゃない?」
「えー、そうだったかなあ?」
二人は笑い合う。
その夜、ユリは祖母のことを思い出しながら、眠りについた。祖母が亡くなったのはもう何年も前のことだったが、ユリの心の中で彼女の存在は今も強く残っていた。
次の日、ユリは仕事場に向かうと、ふとアイスクリームを作ってみようと思い立った。あの懐かしい味を、自分の手で再現できないだろうか?
そう考えたユリは、試行錯誤を重ねながら、かつてのアイスクリームの味を思い出し、レシピを組み立てていった。
時間をかけて何度も作り直し、ユリはようやくそのアイスクリームを再現することができた。味見をした瞬間、まるで過去に戻ったかのような感覚に包まれた。
「これだ…これが、あの味…」
ユリは自分自身で作り上げたアイスクリームに驚きと感動を覚えた。
その夜、ユリは母親を自宅に招き、その再現したアイスクリームを一緒に楽しんだ。母親はアイスクリームを口に運ぶと、懐かしさに満ちた表情を浮かべた。
「おばあちゃんとの思い出が蘇ってくるわね。」
そう呟いた母親の目には光るものがあった。
ユリもまた、母親と共に祖母との思い出に浸りながら、アイスクリームを味わった。過去の記憶が、甘いアイスクリームの冷たさと共に、二人の心を温めてくれた。
「もったいないよね、このアイス。なくなったの。これからも、このアイスクリームを作り続けていこうかな。」
ユリはぼんやりとそう思った。
ユリの作るアイスクリームは店の看板商品になり、泣き顔の女の子と優しそうなおばあさんが手を繋いで買いに来たりする。
でもそれは、もう少し先のお話。