
ヨーガの思想史『ヨーガの大海』1-1-2.リグヴェーダに見られる瞑想的要素や苦行者の実践
序論
リグ・ヴェーダ(ṛgveda)は、紀元前1500年頃に編纂された、ヒンドゥー教最古の聖典の一つであり、古代インドの精神文化における瞑想と禁欲的実践の基礎を形成しています。このテキストは、解脱(モークシャ/mokṣa)を求める過程における瞑想、禁欲主義、自己実現の相互関係を明らかにする貴重な情報源となっています。ここでは、リグ・ヴェーダ(ṛgveda)に記された瞑想的要素と禁欲的実践を体系的に整理し、その哲学的および実践的意義を探求します。
I. 瞑想的要素の体系
マントラ(mantra)の詠唱と瞑想実践
リグ・ヴェーダ(ṛgveda)における瞑想的要素は、マントラ(mantra)の詠唱を中心として、複雑かつ体系的な実践体系を形成しています。その中でも特に重要な位置を占めるのが、ナースディーヤ・スークタ(nāsadīya sūkta)です。この賛歌は、「無(アサット/asat)」から「有(サット/sat)」への宇宙の展開を瞑想の対象とし、存在の根源的な問いを通じて深い内省へと導きます。詠唱者はこのマントラ(mantra)を通じて、宇宙の真理との合一を追求していきます。
プルシャ・スークタ(puruṣa sūkta)もまた、極めて重要な意義を持っています。この賛歌は、宇宙の巨人プルシャ(puruṣa)の犠牲によって世界が創造されたという神話を詠み、この観想を通じて自己超越と宇宙との一体化を目指します。マントラ(mantra)の詠唱は、詠唱者の内なる宇宙を目覚めさせる手段として機能するのです。
内省と観想の実践
アグニ・スークタ(agni sūkta)は特筆すべき重要性を持ちます。火の神アグニ(agni)を通じて宇宙の調和(リタ/ṛta)を観想し、内なる光の覚醒を目指すこの実践は、神々と人間を結ぶ媒介としてのアグニ(agni)の役割を深く理解することを求めます。
ガーヤトリー・マントラ(gāyatrī mantra)は、太陽神サヴィトリ(savitṛ)の光を観想することで内なる知性の目覚めを促す、極めて重要な瞑想法を提供しています。このマントラ(mantra)は後のインドの瞑想実践において中心的な役割を果たすことになります。
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