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『最近聴いてる音楽の話』#10月
10月も終わり、11月。年末だ。年末というかもう来年だ。
11月になった瞬間に飾り付けられたハロウィンのカボチャが撤去されて、サンタクロースやクリスマスツリーに変わっていく。そしてクリスマスが終わると翌日には、年末の空気が漂う。一気に季節が忙しなく駆け巡る。その慌ただしさも含めて少し浮き足立っている冬が好きだったりする。
そんな空気になる前の最後にゆったりできるのがこの11月。温泉旅行とか行きたいっすね。10月は何がありましたかね。あんま覚えていないくらいのスピード感だったな。1日24時間じゃ足りないと思う日も、1日なんて1時間でいいだろって思う日もある。精神と時の部屋、欲しい。
SONG
Loving "Blue"
震えたね。聴いた瞬間に震えたね。ベースの低い音がドゥーンと耳から心を包み込んで、ピアノとアコースティックギターの切なげな空気感がキュッとさせる。カナダの3人組バンド、Lovingによる秋に似合う楽曲がリリースされた。インディフォークなサウンドにはカナダの冷たい空気を想起させながら、包み込むような同じだけの暖かさもある。とっても秋だ。秋に似合う音楽は、落ち葉の落ちるスピードと同じだ。ゆっくりとふわりと寂しい空気をまとって曲が進んでいく。
EMMY "Crying In My Boots"
EMMYは、アメリカのクリーブランドを拠点として活動する23歳のシンガーソングライター。これまでリリースした楽曲は3曲ながらTikTokでは300万人以上のフォロワーがいて、デビュー曲の"STUPID BIG TEETH"はSpotifyで1000万回以上の再生回数になっている。この曲もキャッチーで最高。
今月リリースの新曲、"Crying In My Boots"は若さと焦燥感と冷たさと孤独に溢れた楽曲で、ギターのアルペジオとメロディーがその切なさを包括している。曲の中で同じフレーズを繰り返していくごとに、切なさと美しさが重なるように広がっていく展開の楽曲がとても好き。
Sam Greenfield "Dinky Doinky"
聴いた瞬間に身体は自然と動き出す。サックスとシンセとドラムのタイトなグルーヴに、暖かいクリーンなギターが色を点けていく。とてもアナログで人力なウルトラファンクミュージックだ。一聴した時は特徴的なタイトなビートに思わずVulfpeckか?と思ってしまうほどVulfpeck的。それもそのはずで、Sam GreenfieldはCory Wongなどとも共演のあるサックス奏者であり、マルチプレイヤーでもある。一曲の中で何度も最高ポイントが交互に訪れる、曲の充実感が半端ない。今月リリースされた"Ghostin' All My Friends"も最高すぎの最高。
上白石萌音 "ひかりのあと"
妹はAdieuの名前でアーティスト活動もする女優の上白石萌歌、その姉である同じく女優で歌手の上白石萌音は妹よりも先に『君の名は。』で注目を浴びた。そんな今回は姉である上白石萌音の新しい楽曲。Yogee New Wavesの角舘健悟が作詞作曲で提供したこの楽曲は健悟くんらしさが充満していて、その世界に萌音ちゃんが飛び込んでいって包み込んでいるようなイメージ。その歌声も言葉も、温かくて優しくて柔らかい毛布のような、風に揺れるカーテンのような、秋の朝の陽射しみたいだ。この楽曲が発表される前に健悟くんの弾き語りで既にこの曲を聞いていたけど、萌音ちゃんの歌声でまた世界が柔らかくなっていったように感じる。変わらない穏やかさとはこのこと。大切にしたいお守りみたいな歌だ。
ちなみにこのシングルの3曲目以降にはカラオケバージョンのような薄くボーカルが入った「いっしょに歌う?ver.」が収録されている。いっしょに歌う?ってとてもかわいい。いっしょに歌います。
ALBUM
くるり / 感覚は道標
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■どこからどう見ても「くるり」である。このアルバムのタイトルを『くるり』としてもいいのでは?と思うほどくるりだ。これまで数々実験的なことをアルバムごとに試してきたくるりがここにきてセルフオマージュとも感じるほどに自らの音楽性を語るような作品を生み出した。
ちょっとちょけながら、世界中を列車で揺られて旅に出るようなスピードで、生まれつきの懐かしさと温かさで、次の地平を目指すようなそんなアルバム『感覚は道標』。スリーピースバンドに改めて帰着した"3人のくるり"が作り出した今のくるり。やっぱりロックバンドである。転がり続けていてくれそのまま次の街へと。
Claire Rosinkranz / Just Because
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■ようやく出たClaire Rosinkranzのデビューアルバム。2023年最高のデビューアルバムなんじゃない?と思っている。カリフォルニア出身、19歳のシンガーソングライター。2020年にTikTokで人気が出て、そこから3年かけてジワジワと人気を拡大してきた。ピュアで心地のいい13曲の音楽が詰まったアルバム。
先行発表曲の"123"、"Never Goes Away"のような緩やかなグルーヴのベッドルームポップ的な楽曲から、"Screw Time"のようなライブで映えるギターリフが引っ張るインディーロック的な側面も見せる、Claire Rosinkranzのいろんな方向性の魅力が詰まった非常に1stアルバムらしいアルバム。とにかく最高だ。
Sigrid / The Hype
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■若さとか青春とか輝きとか、その脆さとか儚さ愚かさを象徴する音楽はたくさんある。その一瞬の感情をまた手にしたくて触れたくて耳からその匂いや感覚、感情を取り戻すために音楽を選んで聴くことがある。新しく出たSigridのEPはあまりにその若さとそれを捨て去って感じる孤独の狭間に立ち尽くす楽曲に溢れていて、深夜に踊りながら浮かぶ景色があってきっと泣いてしまうのだ。
真夜中に車の中で爆音でこのEPを流しながら、知らない街をオレンジの街灯の影が行き交う道で夜から逃げるように駆け抜ける。目指す先が孤独かユートピアかは分からないけど、僕らはまだその車の中で踊りながら新しい街を目指している途中なのだと思い出させてくれる。
Taylor Swift / 1989 (Taylor's Version)
![](https://assets.st-note.com/img/1698636564263-7CfQFkiKcf.jpg)
このアルバムのオリジナルを聴いた2014年、当時大学生だった自分が読者0人のブログに書いていた内容が出てきた。
Taylor Swift / 1989
今年一番ヤヴァイアルバム。聴く音楽がなかったらとりあえず聴く、聴けるっていうくらいの距離感のポップさが本当に気持ちいい。音楽全然聴かないくせに「音楽なんでも聞くよ」とか言っちゃうような大学生にも受けるわけだし、世界中で間違いなく受けるアルバムだと思う。逆に音楽を作ってる人にもこのアルバムの音はおもしろいと感じるんじゃないかな。まさに"時代の音楽"。このアルバムがこれからの音楽の中のひとつのハイライトになるorなってほしいと思うくらいのアルバムだと思った。
とっても皮肉的で尖り散らした文章だこと。ハタチなんてこんなもの。ガキである。それから9年が経過して、改めて "(Taylor's Version)"としてリリースされた『1989』は、相変わらずTaylorのアルバムの中でも最高に好きなアルバムだと思った。自分に過ぎ去っていった9年を思いながら、同時に同じだけ経過したTaylorの9年のことも思うのだ。
Taylorの楽曲はカントリーが出自ということもあって、グッとくるような当時で言うところの「エモい」綺麗な歌メロが得意で、それに乗せられた今で言うとこの「エモい」歌詞が歌われるので、そりゃティーンエイジャーの心を掴んで離さないわけで。でもそれがこのアルバムからシンセや打ち込みが多く使われるようになって、よりスタジアム規模の壮大さを感じられるようになり、同時に無機質さも感じられるようになった。その塩梅が一番丁度いい。冬が始まる前の夜の空気とか、無限に入っていられる露天風呂の温度とかそういう安心感と心地よさを感じるアルバム。Taylorの声って一瞬聴いただけで分かるくらいに唯一無二だよなといつも思う。