鉢植えと肥料

鉢植えでの栽培が微生物の利用の仕方からして水耕栽培に近いんじゃないかという話をしました。水耕栽培と地植えとの違いの一つに植物が必要とする主たる肥料以外の部分の取り扱いがあります。

植物が生長するためには一般的に肥料として知られる窒素、リン酸、カリの他にカルシウム、マグネシウム、硫黄のように比較的多く植物が利用する元素やホウ素やマンガン、鉄などのごくわずかだけ利用する元素が必要です(カルシウムとかは本来含めないのですが、ここでは全部まとめさせて頂いて、以下、微量要素とします)。

土には微量要素が成分として含まれています。植物は根から様々な分泌物を出してこれらの元素の吸収を可能にしています。そうは言っても長年に渡って植物を育て続けると土の中の微量要素も減ってくるので、堆肥や微量要素を配合した肥料などで補っていきます。堆肥は結局のところ植物から出来ているので植物の生長に必要なこれらの成分を含んでいるというわけです。

さて、培養土では微量要素の吸収はどうなっているのでしょう。(ここからの話はほぼ推測なので自信がないです。)

培養土の中の鉱物といえば赤玉土です。粒状で土の中の泥や砂に比べれば圧倒的に体積も表面積が小さい。土の中では団粒化しているとはいえ泥や砂の粒の間を根は生長していきます。微量要素に触れる機会は充分にあります。培養土では赤玉土と腐葉土やピートモスの間を根は生長していくので根が微量要素に触れる機会はずっと小さくなるはずです。

赤玉土という鉱物に頼れないなら、堆肥はどうでしょう。実際、多くの培養土のレシピでは堆肥を配合しています。ただ、堆肥の中の微量要素が植物に吸収されるためには堆肥が分解されることが必要です。そのためには微生物の働きが要るのですが、これについても微生物をとりまく多様な生物相が見込めないという点で、土に比べれば培養土は不利だと思われます。

現実には、培養土で育てた植物に植物に必須なミネラルが不足して起こる障害が多発しているなんて話は聞きません。従って、問題はないと言っていいのでしょう。ですが、気になる方は排水性をあえて犠牲にして培養土に土を混ぜ込んでみるとか、水耕栽培用の液肥を使ってみるのも手かも知れません。水耕栽培は土や微生物に頼ることが出来ないので肥料の中に植物が生長に必要な要素を(二酸化炭素や水などを除いて)一式入れてあります。

私個人の話では、以前トマトの水耕栽培をやってみたことがありました。学ぶことは本当に多く、トマトも大きくなりました。ですがその分、毎日毎日大量の養液を補充することになり、疲れ果てて一年で止めました。その時に買い込んだ液肥が大量に余っているので消費がてら鉢植えにも使ってます。格段に生育が良くなったような気もしませんが、特に害も出ていないようです。

培養土の中の生物相は土に比べて貧弱という話をしましたが、それに関連して有機肥料を鉢植えに使うのはどうなのかという問題もあります。有機肥料は土に使うには良いです。分解される過程で様々な微生物の餌になりますし、その過程でゆっくりと肥料分が放出されます。生物由来ですから先の微量要素も入っています。

ですが培養土では有機肥料を分解するための微生物やそれを取り巻く生物相が土に比べて見劣りします。当然分解も遅く、さらに有機肥料の常として、いつ効いてくるのかも判らない。で、植物の元気がないとかで活力剤とかを使っちゃうのもよくある話かと。なぜかお高い肥料には有機成分配合とか書いてありますが、そういうのを使うよりは最初から液肥を使う方が遥かに合理的ではないかと思います。

水耕栽培って何だか工場生産の雰囲気がするとも思いますし、園芸は気分の要素も大きいので合理的の一言では済まされないのかも知れないとは思いますが。

バラの肥料について調べていたら、「肥料のやり過ぎに注意、初心者には緩効性の化学肥料か有機肥料がお勧め」なる文に出会いました(あえてどこのサイトかは記載しません)。緩効性の化学肥料は判らないでもないですが、初心者とされる人に有機肥料を勧めるのは無理があります。

有機肥料はそのままでは肥効を発揮しません。必ず微生物による分解を必要とします。効き出すまでに時間が掛かりますし、どれだけの速度で分解するかは、気温、潅水の程度、培養土の状態、肥料を埋めるのか培養土に乗せたままにするのかなど様々な条件によって変わってきます。適切な時期に適切な量の肥料を効かせるためには経験と知恵でこれらの要素を先読みしなくてはなりません。これは到底初心者向けのタスクではありません。

例えば、秋に向けて花を咲かせたい時に肥料を多めにやりたいとします。しかし、気温も下がってきているので肥料は分解せず、効かない。それならということでさらに肥料を与えても、そもそも分解が遅いのでまるで効いた気がしない。ぱっとしないままに春が来て気温が上がりだすと、与えていた有機肥料が一気に分解しだしてこんどは肥料のやり過ぎで肥料焼けといった事態は容易に発生します。

初心者ほど液肥を使うべきです。規定濃度を守れば肥料焼けなど起こしませんし、即効性があるので効果が判りやすい(初心者にはこれが重要)。

農薬を使うことが一般的な園芸の世界においても有機神話があることは重々承知しています(有機、オーガニックと言った言葉のイメージ戦略の成功ぶりには驚くばかりです)。しかし、土を育てることが重要な地植えならともかく、最初から理想の特性を備えた培養土を使うなら、「培養土を育てる」必要性などさらさらなく、有機神話など無用の長物だと個人的には考えています。

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