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抗がん剤による下痢はどう対応する?
こんにちは、人生初めて10キロマラソンをして筋肉痛に嘆いている薬剤師よっちゃんです。
さて、今回は抗がん剤投与している人によく見かける副作用ベスト3には入る「下痢」について解説していきたいと思います。
抗がん剤を服用あるいは投与している患者で排便状況が変化する方は大勢います。
下痢の副作用を管理する上で、どの抗がん剤が下痢になりやすいのでしょうか?また、下痢になる機序が把握することも重要です。
下痢になる抗がん剤とその機序
まずは下痢になりやすい抗がん剤についてお伝えしていきたいと思います。
今回伝えるのは、保険薬局でよく見かけるであろう薬剤を中心に取り上げています。(がん種の疫学やレジメンの位置づけから独自に抜粋)
下痢のしやすい抗がん剤
下痢を起こしやすい抗がん剤
イリノテカン
フッ化ピリミジン系
(TS-1・カペシタビン・5-FU)EGFR関連薬剤
(タグリッソ®・ベクティビックス®(Pmab)など)マルチキナーゼ阻害薬
(レンビマ®・インライタ®など)CDK4/6阻害薬
(ベージニオ®など)mTOR阻害薬
(アフィニトール®など)免疫チェックポイント阻害薬 など
皆さんの所で見かける抗がん剤はありましたか?
点滴の内容もありますが、よく使用されるorこれから使用が増えるだろう内容を記載しています。
少しでも覚えておくと介入の幅が広がると思います!
ちなみに、これらの下痢は何が原因で引き起こされているか考えたことのある方はいるでしょうか?
下痢の主な機序
多くの人は消化管粘膜障害が下痢の原因だと考えているようですが、実は違うんです。主な下痢の機序としては下にまとめますのでご覧ください!
下痢の機序
コリン作動性(イリノテカン)
消化管粘膜障害(殺細胞性抗がん剤)
Cl-分泌促進(主にEGFR関連薬剤)
腸内フローラの変化(CDK4/6など)
免疫関連性有害事象
(免疫チェックポイント阻害薬)
皆さんもご存じかもしれませんが、イリノテカンによるコリン作動性の下痢は早発性下痢と呼ばれ、投与直後~24時間以内に発現することが多いことが特徴です。
また、24時間以降に現れる下痢には消化管粘膜障害によるものもあり、止瀉薬で排便を止めてしまうと、消化性潰瘍や穿孔などのリスクもあるため注意が必要です。
irAEによる下痢に対しての対応は主にステロイド投与になることが多く、止瀉薬の使用により治療タイミングを逃さないことが重要です。
また、これらは一つだけの機序だけではなく、組み合わさる場合もあるため評価には注意が必要です。
先ほど示した「下痢になりやすい抗がん剤一覧」に当てはめると下記のようになります。
各抗がん剤と下痢の機序
コリン作動性:イリノテカン
消化管粘膜障害:イリノテカン、殺細胞性抗がん剤、マルチキナーゼ阻害薬
Cl⁻分泌亢進:EGFR関連薬剤
免疫関連性有害事象(irAE):免疫チェックポイント阻害薬
腸内細菌叢の変化:CDK4/6阻害薬、イリノテカンなど
皆さんが薬局で見かけている薬剤がどんな理由で下痢を生じているのか把握できましたか?
次にアセスメント、対応するのに「下痢の評価」が非常に重要となりますので分かりやすく解説していきたいと思います。
下痢の評価方法
下痢の評価方法のポイントとしては、「ベースライン」を聴取することです。
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Grade3以上になる場合は、抗がん剤の中止、必要によっては入院治療が必要になる場合があります。
評価方法は抗がん剤が始まる前の「ベースライン」が基準になるため、必ず聴取しておきましょう。
手術歴の有無、化学療法が2次治療、3次治療と治療歴が増えていったり、コース数が多くなると化学療法前のベースラインを聴取することが難しくなります。
その場合には、化学療法中の平均の排便回数を聴取することで評価が行えるようになります。
次に、下痢を正しく評価した上でどのような支持療法の追加が考えられるのでしょうか?
下痢に対する支持療法とは
まず下痢に対する支持療法の要は「ロペラミド」であることは押さえておきましょう。
様々な止瀉薬がある中でロペラミドはよく使用されており、エビデンスも多く集まっています。
エビデンス豊富なロペラミド
皆さんご存じのようにロペラミドはμオピオイド受容体に作用する止瀉薬です。
1日1~2mg(適宜増減)分1~2あるいは頓服で使用されますが、注意点もあります。
ロペラミドはTmax6時間前後、半減期(T1/2)16時間前後と緩やかに効果を発揮します。
頓服使用の場合に連用してしまうと、腸閉塞や抗がん剤の消化管粘膜障害を増悪させる可能性があるため、やはり1日2回までの使用で抑えるのが良いと言えます。
また、ロペラミド大量療法というものは、文字で書くのが大変なので図で示しますが、下記のような使用方法のことを言います。(個人でまとめとして作っている資料なので、ロペラミド以外記載しているのは許してください!)
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この支持療法について伝えたい事はただ一つ。
メジャーな方法ではないよ!という事です。
海外で行われている使用方法であって、日本では適応外の使用ですし、エビデンスも少ないです。
先ほどお伝えした通り、半減期も長いため過量投与した際のリスクを考えると、薬剤師が提案する内容としては不適切であると考えています。
医師が処方する際には、色々な患者背景を考慮して処方されているので、薬剤師としては、腸閉塞や感染性腸炎の兆候をお伝えして症状出る際には医療機関にかかるよう指導することが重要です。
腸閉塞の兆候:食事、飲水後の腹痛、嘔吐、腹部膨満感など
感染性腸炎:発熱を伴う下痢や腹痛など
原則、ロペラミドの本来の使用方法で症状が改善しない場合には、Grade1~2なら他の止瀉薬併用がよいでしょう。
ロペラミド以外の止瀉薬
ロペラミド以外に処方される代表的な止瀉薬としては、
タンニン酸アルブミン
ブチルスコポラミン臭化物(ブスコパン®)
整腸剤(ミヤBMなど)
半夏瀉心湯など
があります。特に、タンニン酸アルブミンはロペラミドを吸着してしまうため、同時服用は止瀉作用を減弱させてしまいます。
併用する際は、2時間以上間隔を空けて服用することが大切です。
免疫チェックポイント阻害剤の下痢
近年、免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)の適応拡大により使用頻度が上がってきています。
免疫関連性有害事象(irAE)というワードが広がっていますが、特徴としては、有害事象がいつ起こるか予測困難だという事です。
データによれば投与開始2~3年後でも有害事象の発現が認められていることもありますので、ICIsの投与歴の有無は確認しておくことが重要です。
上記の図には記載していませんが、CTLA-4抗体のイピリムマブ(ヤーボイ®)や新薬のトレメリムマブ(イジュド®)はirAEによる下痢頻度が他の免疫の抗がん剤よりも多いことが知られています。
こんな場合は医療機関に連絡!
ロペラミドを使用しても症状が改善しない
下痢が長期に続く
原因薬剤を中止しても下痢が改善しない
上記に該当する場合、医療機関への受診を促す必要が出てきます。
irAEの場合にはステロイドの投与をしなければ改善はしないためです。
生活指導も並行して行おう
抗がん剤による下痢に対応する際、止瀉薬だけではなく、食生活などの指導も非常に重要となります。
食生活を改めることで、下痢症状を軽減させることが出来ます。
具体的にはどのような指導があるのでしょうか?簡単に説明していきます。
食事の指導内容
アルコールや高浸透圧性の食品の中止
香辛料が少なく刺激の少ない食事への変更
おかゆなど消化の良い食事への変更
脱水にならぬようこまめな水分補給(水ではなく、電解質を補充できるものが望ましい)
化学療法開始となる患者や下痢症状が発現してきた患者には指導するようにしましょう。
まとめ
今回の話で重要かつ実用性の高いものとして下記の3つにまとめました。
ポイント
下痢の評価は「ベースライン」が軸
止瀉薬の主軸は「ロペラミド」。排便を止めないことも重要!
腸閉塞や感染性腸炎には注意
少しでも皆さんの知識の足しになればと思います。
もし、がんの専門に興味を持っていて症例の作り方などが知りたい!という人は他の記事も参考にして頂けると理解しやすいと思います!
それでは、また!