& episode 007
年越しは「鴨」が食べたい。
という才女たってのお願いを叶えるべく、僕はお正月商戦で賑わうデパートへ買い物へ行った。
売り場は高齢の方が多く、その他は僕らのような若いカップルが多かった。
来年、僕らは30歳を迎える。
正月の買い物をデパートでするなんて、僕らも少し背伸びができるようになったものだ。
例年は、お互いの家で歳を越していた。
しかし、今年彼女はプロジェクトリーダー候補に抜擢をされ、忙しさに輪がかかった。
年末年始、ゆっくり休めるかどうかわからない。
一般的な理想は、30前後になれば社会人生活にも慣れ落ち着いた生活になるだろうというものだが、現実はより仕事の比重は重くなり「職場」と「家」の往復で終わる毎日になることの方が多い。
先輩曰く、この関所を超えれば、30代でパスポートを手にするやつらが出てくるぞ!とハッパをかけられるわけだが。
僕は去年、6年間勤めた大手建設会社を退職し、きつい労働環境ではあるが、尊敬する建築家の元で働くことになった。
新卒も、3、4年経てば中堅どころで、社内でどうキャリアを積むか?と考えた時、僕は社内で出世をすることがゴールではないことに気がついた。
くにちゃんの仕事は、会社に属さないとできないものが多いが、建築家の僕はそうではない。ノウハウと、顧客がつけば世界中どこででも仕事ができる。
彼女は、30代になると恐らく5年前後海外支店もしくは留学することになる。
とすると、僕は社内で出世をするより・・・。という話だ。
僕も、30代でパスポートを手に入れたい。
彼女のそばにいて、遜色ないくらいしっかり仕事をしたい。
ビジネスの基本は、成果報酬。
去年、退職を考え、くにちゃんに相談をした時、彼女はそう言った。
結果が全て。
肩書きではない。
と。
僕の気持ちを汲んで、押してくれた一言だ。
年の終わりに完璧な彼女に似合うものはなんだろう?と悩んだ挙句、年越しそばに海老天を乗せることにした。
益々、彼女が弾むように生かされる時間になりますようにと願いを込めて。