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& episode 021
「ママになった女友だちが、口々に「でーきーなーいー!」って言うじゃないですか。」
リンが三谷製糖の和三盆を、くにちゃんがたてた抹茶で頂く。
茶道とかしこまったものではなく、カフェのような感覚で抹茶を楽しむ。
「大声で「出来ない」と言える権利が欲しくて「結婚したい。」と、たまに思います」
セレブ雑誌から抜け出したようなリン。街中で、ハッと目を引くことも多いだろう。
「でも、」
と彼女は続ける。
「出来ない」と言ったら、チャンスの神はやって来ない。
だから、早々にママになった女友達が、仕事ではなく家庭を選ばざる得なくなる理由は残念だけど「仕方ない」と思うところもある。
と。
出来ないと言えなくて、押しつぶされそうになりながら保育園のお迎えの帰りに涙するママが生きやすよう世の中が優先するのは、「当然」だろうな。
と。
「出来ない人は、社会に居場所はない。」
厳しいけど、それは現実だと思うんです。
と。
リンは泣いていた。
僕は温めたもう一杯の抹茶をリンに渡し、ゆっくりとした口調で話しかけた。
「なにがあったのかい?」
くにちゃんも、ゆっくりと頷く。
リンは、手でボロボロとこぼれる涙をぬぐいながら一呼吸置いた。
「プロポーズされました」
くにちゃんと僕は、喜びで顔を見合わせた。
だけど、とリンのトーンは暗かった。
とつとつと、彼女はこう続けた。
「積み重ねてきたものが、全て吹き飛ぶ感じで。
嬉しさと同時に、・・・なんだか目の前が真っ暗になって。」
リンの相手は、くにちゃんの同僚だ。
日本代表。海を超えて戦うビジネスマン。
僕も、くにちゃんも納得の相手だ。
彼女は、もう一度泣いた。
『僕についてきてくれる?』
って、女性として一番嬉しいはずの言葉だって思ってたんですけど、彼と一緒についていくってことは、これまで私が頑張ってきたものがとても小さいものだったのかな・・・って。そう感じてしまって。
素直に受け取れなかった。
と。
誰もがプロポーズの瞬間というのは、映画のような人生の全てを肯定してくれるような、そんな瞬間だと。
確かに、そう思うことだろう。
「専業主婦になるのが当たり前な時代」なら。
スーパーサラリーマンな彼女を持つ僕も、リンの反応は学ぶところがあるな。と思いながら、気になる確信をついてみた。
「返事はどうしようと思うの?」
幸せになって欲しい。と思う気持ちを込めて。