2XX1年 GO TO ミステリーツアー
─時は、2XX1年。
非営利法人 よあけのばんはミステリーツアーの企画を打った。
ターゲットの客層は“人間”。参加費は1500円と破格だ。
開催日程は1月17日 日曜日の晩。参加者たちが足を運びやすいよう、30分間の旅に設定されている。
ミステリーツアーの名目通り、目的地は秘密。「あなた自身の事を考えましょう!」というキャッチコピーに胸を打たれた者が十数名名乗りを上げた。─
皆さま、まずはこちらをご覧ください!
こちらが『夕暮れ町』!
夕暮れの綺麗な時間帯…退勤時刻になると、過労の自殺者志願者たちが一斉にビルから飛び降り、町が赤く血塗られる事からこの名前で呼ばれている、この地球でいちばん悲しい町でございます!
→「夕暮れ町殺人事件」
あ、皆さま、頭にハテナが浮かんでおられますね。「どうして皆んな死んでゆくのだろう」と!
しかし、これでも夕暮れ町…いや、この国の自殺者はずいぶんと減ったのです。
1911年に工場法が制定、1945年に労働組合法、次いで1946年に労働関係調整法、そして1947年に労働基準法、職業安定法、失業保険法などなど、労働者を守る法律はたくさん作られました。しかし、何かと縛られるのが苦手な人間たち。守られることはおろか、2003年には自殺者は34,427人とピークを迎え、その頃にこの夕暮れ町の死体の数もピークに!
これじゃあダメだと昔の人たちは考えました。
2018年に働き方改革関連法が、働くすべての人の環境をよりよくするために制定。もちろん働く環境は良くなっていきました。自殺する人も減ったのです。しかしもっと楽をして生きてゆきたい!
そう考えるとこの国には労働力が足りなかった。そう、労働者が足りなかったのです。
そこで政府は考えました。「労働者を作り出そう」と。「まるでロボットのように働く労働者を作り出そう」!
そこで生まれたのが人型アンドロイドです。
これで人間たちは楽ができる!
そう、もうお気づきでしょう!
今回のミステリーツアーで見学していただくのは「人間工場」。人型アンドロイドの製造工場です。
こんな血の雨が降り続ける夕暮れの町のような辛気臭い“時代遅れ”の見せ物観光地とはおさらば!人間さまたちを明るい未来へと導く人間工場へは、あちらに見えるJR野田駅から直通列車が出ております!少し時間がかかりますから、お眠りいただいてもかまいませんよ。
それでは皆さん、血の雨に濡れないようお気をつけて…どうぞご乗車ください!
→「各駅停車で会いましょう」
はい、はい、皆さんついてきていらっしゃいますか?
まずこちらの工場で見学していただくのは、肉体を作るお部屋ですね。
科学技術が進歩した昨今では、なんと!霊体から肉体を蘇生することが可能になりました。意外に知られていないことですが、人型アンドロイドの原料は幽霊なんですよ。
幽霊は人間が死ぬたびにどんどん出来上がり、有り余っていますからね。再生可能な資源をリサイクルしているので、とってもエコなんですよ。
さ、今作られているのは、あ、少年の肉体ですね。
雨の降る公園で遊んでいた悲しい過去を覚えているようですが…、まぁこういった生前の記憶は製造工程で消されてしまいますのでご心配要りませんよ。
みんなこうして、悲しい過去を覚えている幽霊から、勤勉で幸せな人型アンドロイドに生まれ変わるのです。
→「雨の町、幽霊少年」
さぁさぁ、では次の部屋へと参りましょう。
こちらは通称“ベッドルーム”。精神や記憶などを作る部屋となっております。
皆さま、『記憶転移』という現象はご存知でしょうか?臓器移植をすると、ドナーの記憶が移植された患者に移るという不思議な現象…。
こちらの工場では、その記憶転移の現象を応用した技術でメンタルを作り出しております。その具体的な方法ですが、まず肉体本体ではなく、小さな細胞にたっくさん眠っていただきます。そして細胞自体に長い長い夢を見させるのです。すると見させた夢をまるで過去の記憶として持った細胞が出来上がりますので、それを完成した肉体へと移植する。
すると見事、生前の記憶を無くした肉体は過去の記憶やそれぞれの価値観を持った人間へと進化を遂げるのです!
この見させる夢というのも最新鋭の技術を使い操作できますので、操作次第でそうとう真面目な人間を作り出すことが可能になりました。
さ、余りお喋りをし過ぎても細胞が起きてしまいますので、この部屋はこのくらいにして今日も夢を見続けていただきましょう。
それでは、失礼しました、おやすみなさい…。
→「おやすみなさい。」
さぁ、人型アンドロイドの製造工程はもうお分かりですね。そう致しましたら、最後の行程です。それは、“出荷”!
本日ご参加の皆さまは人型アンドロイドが社会に紛れていることをご存知でしたか?ご存知なかった方?結構いらっしゃいますね。
そうです、この地球上の一定の人間しか、このお話は知り得ないのです。あまりべらべらと話すことでもありませんからね。
こうして、みんなが知らない人型アンドロイドをみんなに知られないように出荷…そう、“出社”社会に紛れ込ませるには、自然を装う方法が適切と言えるでしょう。
皆さまも今日この人間工場へ来られたとき、電車に乗って来られましたよね。実はこの工場の出入り口は一つのみ。それは電車の線路しかありません。
なので、出荷は線路と電車を使って行います。
出来立てほやほやの人型アンドロイドは通勤電車を模した満員電車に乗せられ、街へと向かいます。そして、社会に放たれる!
勤勉で真面目な仕事人間として生まれた人型アンドロイドは、食事や睡眠、恋愛といった欲もありませんので、通勤電車で出荷されてからは壊れるまで働き続けるのです!
これで人間様たちは仕事の全てを人型アンドロイドに任せ自殺することもなく楽ができる!とそれで幸せなはずなのですが人間とは厄介な生きもの…。
「それで本当の地球と言えるのか!?」 など反論する者も現れるのですが、そう言われましてもそれが実際どうかなんて誰もわかってないのです。
→「赤い電車」
人型アンドロイドは仕事をこなし、人間を楽にするために作られた人工の生命体!それが人徳的であろうがそうでなかろうが、彼らはその為に生き、その為に働く。これこそが確かな正しさであることは間違いでしょう。
さて、問題はここからです。
2XX1年という、遠いようで近いような未来に人型アンドロイドという労働力が地球を回し始める。
そうなったときに、わたしたちは一体何者になっているのでしょうか。
ここからは、我々よあけのばんが作った架空の物語は置いておいて、このマガユラの、そして画面の前の皆さんはそれを考えなければなりません。
人々は言います。
『あなたは何者ですか?』
「会社員です」「医療関係者です」「主婦です」「学生です」
はたまた、「歌うたいです」「詩人です」
人型アンドロイドはきっとさらに成長します。会社員になり、医療関係者になり、主婦になり、学生になり、歌うたいになり、詩人になります。
その時、あなたはそれでも、あなたがあなたであることに自信が持てますか?
例えば遠い宇宙の星々から地球を眺めた時、あなたの役割が一目瞭然であなたであるように生きなければならないのです。
こんな風に身動きできない世の中であれ、あなたらしく生きる。…あなたとはいったい何者か?考えてみましょう。あなたが歌う意味を、あなたが生きる意味を、あなたがあなたである意味を。
それを考えて明日を迎えるだけで、きっと目の前の全てが意味のある事柄に変わってゆきます。
そして、いずれあなたがもっとあなたらしく成長し、今日という日を忘れた頃に「あの時そんなことを言ってたあの人の名前はなんて言ったっけ?」と思い出してください。わたし達の名前は“よあけのばん”です。
→「ブルームーン」
2021.1.17 at 野田 MagaYura
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フラフープス/yah/Cat in the skirt/クロケン
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