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『私に似た人』

『私に似た人』貫井徳郎・著を読みました。

なかなかに分厚い本です。私が読んだのは、2017年に発行された朝日文庫のものですが、498ページありました。
刊行は2014年だそうで、10年前に書かれた作品ですが、全く古さを感じません。"今の"社会が抱えている闇を描いていると思います。

 小規模なテロが頻発するようになった日本。実行犯たちにつながりはなく、それぞれの思想・主張・手段もばらばら。しかし根底にあるのは、自分を冷遇する社会に抵抗した結果がテロだったという事実。

1章ごとに主人公が変わり、全部で10章、10人の物語で構成されています。

物語全体の大きなつながりは、もちろん各地で頻発する"小口テロ"なわけですが、どうやらそれぞれの実行犯をテロに走らせる存在がいるようなのです。

それが≪トベ≫です。

この≪トベ≫という存在…。Netの波を自在に泳ぎ、実行犯になりえる存在をテロへと煽り、自身のしっぽは掴ませない。
いったい≪トベ≫は何者なのか。

というのが謎解き部分の主題であるのでしょうが、この本は、タイトル通り「私に似た人」を作中に探すことで、より深部を理解できるのでは、と思います。

いろいろな環境で生きる、いろいろな人が登場します。社会から冷遇されていたり、不運によるどうしようもない不幸の連鎖から抜けられなかったり、あるいは逆に、恵まれているからこそこの社会をどうにかしたいと考える人、どうにもできないのは自己責任だ、などと己の無知と想像力のなさを平気で露呈している人…。

様々な考えの人がいて、様々な境遇の人がいて、そして社会が出来上がっているのですよね。

社会というのは不可思議なものだなと、この本を読んで改めて感じています。非常に混沌としていて、掴みどころがないのです。

この『私に似た人』を読み終わった直後は、私なりの社会論というのか、とにかく何かを掴んだ気がしたのですけれど、いざこうしてまとめてみると、どの部分をピックアップしてご紹介すればそれが伝わるのかわかりません。どの人物のどの考え方も、すべて真理。

この本自体が社会で、混沌そのものなのですね。

いろいろ難しく書いてしまいましたが、全然難しい本ではありません。各章で登場人物が違うので、視点もそれぞれ変わりますし、各章読みやすい分量です。

≪トベ≫の正体にもあっと驚く仕掛けがあり、私は素直に「え?どゆこと?」からの「やられた~」を体験しました。

(…仕掛けといえば、5日前に読了した『逆転美人』藤崎翔・著の仕掛けはぶっ飛びました。こちらも是非。)

本を読むことは呼吸すること。
読みかけの本がない状態がない私です。
常に何か読んでいます。
読書ノートに感想を書き殴り、読書メーターでちょっとよそ行きにまとめ、長くなりそうだったら、このnoteに書く…。
そんな流れの読書生活になりそうです。

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