ロンボク島の山奥で歯が折れた話
10月29日午前中、家のテラスで作業をしていると、Kさんが家の中から出てきて、滑って顔を強打した際に前歯が折れたと、泣きそうな半笑いの顔でいう。ロンボク島のバヤン村での話である。
一大事である。
その気配を察したのか、隣の台所で料理の準備をしていたイブ・ティサが出てきて、何があったのかと聞いてきた。
Kさんは折れた歯を見せ、滑って転けたのだと説明した。イブ・ティサは驚くとともに、かける言葉もないと言った感じで、近づいてきた。隣のミヤティも事態を察して、テラスにやってきた。Kさんは2人に挟まれて、背中をさすられながら、慰められていた。
しばらくすると笑いが起こった。歯が抜けた顔は滑稽である。本人が笑えば、みんな笑う。もう、とりあえず笑うしかないのである。
さて、私は落ち込んでいるKさんを尻目に、保険会社に連絡である。歯の治療は保険が出ないと言われた気がするが、とりあえず聞いてみようと思い、指定されたラインの連絡先に連絡してみた。
ラインでメッセージのやり取りかと思いきや、いきなり通話の呼び出し音がなり始めた。少しビビリはしたが、状況を説明して、保険対応の可能性について話をした。
虫歯や歯のクリーニング等の治療は保険の対応はないが、今回は事故・怪我として扱われるため、対象になるという。ただインドネシアには無料で治療が受けられる提携病院はジャカルタにしかないし、そもそも歯科は提携になっていないとかで、とりあえずこちらで支払った後に診断書や領収書をもとに後日手続きを行うという。
歯が折れたとの情報が村中を駆け巡ったのかどうかはわからないが、しばらくしてジャナがやってきた。その後、ジャナの娘ギナもやってきた。ギナは近くの公立病院で働く栄養士であり、病院の状況には明るい。
この時点の情報では、バヤン地区の病院には歯科医がいないので、車で2時間のマタラムで見てもらうしかないとのことであったが、ギナによると、設備が整ってないので心許ないが、歯科医はいることはいるとのことであった。ただ、11時で診察は終わっているので今日の診察は無理とのことである。
ギナはKさんの状況を確認した後、改めて病院に連絡してくれているようであった。
果たして、診察は終わってはいるが、歯科医はまだ帰っていないので、今から行けば見てくれるとのことであった。
ジャナに車の手配を頼んで、ギナと一緒に病院に行くことになった。
若いイケメン歯科医である。待つこともなく、そのまま見てもらうことになった。Kさんは、コンタクトレンズの液につけた折れた歯を持参して、歯の処置についても相談した。
ひとしきり、切断面を見たり、痛さを確認したりしていたが、結論から言うと、ここにはレントゲンがないので、何ともいえないので、できるだけ早くマタラムに行って、レントゲンを撮ってもらって状況を確認しろとのことであった。
折れた歯はもうどうしようもないので、持っていてもしょうがないとのことであった。ネット情報だと、折れた直後に処置するとそのままくっつけることができるとか、コンタクトレンズの液に入れておくと72時間は持つとかとあったが、彼の意見はまったく異なるものだった。
流暢な英語を喋るので、コミュニケーションの面では安心であったし、どうやら、彼は我々の調査チームの一人(アトマジャヤ大学出身でロンボク在住)と友人だとのことで、私の大家さんであるアグンさんとも友達だとのことである。奇遇である。
その時点では、今日か明日にでもマタラムに行って、彼の勤務する病院で診察してもらおうという気持ちになっていた。
とはいえ、Kさん本人の気持ちが大切である。自分のことで、動き回ってくれる人たちに申し訳ない気持ちがいっぱいのようであった。大事に至らないのであれば、11月1日にはジョグジャに戻るので、その時にちゃんとしたところで見てもらったほうがいいのではないか、あるいは、日本に帰国して、いつも行っているクリニックで直してもらったほうがいいのではないかと悩んでいるようであった。
29日はアトマジャヤ大学チームと合流する日でもあり、アグンさんもバヤンにやってくる日であった。アグンさんの義理の妹ティティさんは、ソロで勤務する歯科医であり、セカンドオピニオンではないが、アグンさん経由で、彼女にも対応を相談してみることにした。
結局、大きく前歯が折れたものの、痛みを感じることがないので、神経には達していないのではないかとのティティさんの判断もあり、マタラムの病院に行く話は取りやめることになった。
この後、特に強い痛みを感じることは最後までなかったと思うが、歯抜けの状態は10日間ほど続くことになる。(つづく)