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こだわり

■2023年(両親81歳)

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単身で訪問 午前中 続き(1)

父、ベッドに腰掛け、シャツの襟元を両手で頻りに触っている。

そのシャツは襟元の一番上のボタンが取れてしまっている。

そこが気になるようだ。

尚子「お父さん、そのシャツさ、ボタンが取れちゃったの。」

父 「なに?」

尚子「そのシャツね、ボタンが取れてるの。ごめんね。だから今ボタンついてないから。今度ついてるやつにするからね。」

父 「あぁ。」

一瞬納得してくれたようで、今度は膝のあたりを頻りに触るも、しばらくするとまたシャツの襟元に手を伸ばす。

どうにも気になるようだ。

母、会話よく通じる。表情もはっきりしている。

何か紙に書こうとするような素振りが見られたので、久々に文字を書いてもらう。

まずはわたしの携帯番号を伝えてみる。

数字しっかり書けている!

尚子「あと、今日買うものも書いておいてくれない?」

母 「なに?」

尚子「お買い物するものも書いておいてくれる?」

母 「あぁ、今日、買い物してから持ってきてくれるの?」

尚子「うん。」

母 「あぁ、ありがとう。」

尚子「牛乳とか卵とかさ、必要なもの書いてくれる?」

母 「うん。どっかスーパー行くの?」

尚子「うん、行く!」 

母 「尚ちゃん一人で行くの?」

尚子「うん!」…

会話は続けてくれるも、一向に筆は進まず、そのまま紙と鉛筆を持ったまま居室をうろうろと歩き始める。

結局買い物メモは作ってもらえずに終わる。

二人共に、確かな意思の強さを感じる。

こだわりというか何というか。

もはや、周囲がどうこう言ってもまるで効力はない。


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