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『黒の文化史』(ジョン・ハーヴェイ著、富岡由美訳、東洋書林)
読了日: 2024/10/10
黒がどのように捉えられ、扱われ、認識されてきたのかを主に時代ごとに章立てられています。論理の基とするのはアート、宗教、ファッション、文学、歌劇、写真などです。
前著に”Men in Black”(『黒服』、未読)があるように、著者は服飾の研究を行ってきたと(勝手に)想像します。(略歴: ケンブリッジ大学英文科・視覚文化学科上級講師、同大マニュエル・カレッジ名誉フェロー)
さまざまな要素を参照しながら広範な時代を網羅している点は、よくまとめられていると感じました。とくに、人間内部には「黒胆汁」(ギリシャ語でmelas chole なるものが存在すると(恣意的に)考えられ、これがのちにmelancholy、melanchoria(原文ママ)となり抑鬱をあらわす語となったことは興味深いです。
ですが、以下の点においては(やや)期待通りではなかったと感じました。(期待とはタイトルから、黒が如何に扱われ黒が身体的あるいは精神的にどのような影響を与え、社会の変革に寄与したのか、などです)
文学、歌劇のセリフなどはそれらの抽出により恣意的になり得るもので、当時の社会一般性を反映した内容と捉えられるのだろうか
とどのつまり、白/黒は明/暗、浄/不浄、生/死などを連想される認識は古代からあまり変化はなく、一貫しているのではないか
壁画、紙に描かれる線や文字は、そこに黒の意味があるとはあまり感じられない。あくまでコントラストにより視覚的に認識しやすいことが要因であると考えます
モノクロ写真での黒の意味性は一部ではあるとは思いますが、どちらかというと技術が発明されたとはいえ色表現としてまだ拙くもあり、またアートシーンでのカラー写真への評価が確立していなかったことが、社会・文化的背景にあることがより大きい要素だと思います
よかった点を再度記すなら、図判例が多いこと、そして〈巻末寄稿〉に付された戸田ツトムの文章が良かったことです。本書は新品では¥5,000と高額でしたが、某フリマサイトでようやく見つけたものでした。