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『世界の中華料理店をめぐる冒険』(関卓中著、斎藤栄一郎訳、講談社)

読了日: 2024/11/15

副題: 「5大陸15ヵ国「中国人ディアスポラ」たちの物語」
原題: “Have you eaten yet?”
(●本書は2006年に公開されたドキュメンタリーをベースに書籍化したもの(「訳者あとがき」より)で、最下部にYoutubeのリンクを張り付けておきます)

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 世界各地に多くの華人が住んでおり、その多くのルーツは客家人はっかじんらしいです。著者のルーツも客家にあるそうです。
そして本書がめぐる国々は、カナダ、イスラエル、トリニダード・トバゴ、ケニア、モーリシャス、南アフリカ、マダガスカル(*1)、トルコ、ノルウェー、キューバ、ブラジル(サンパウロ、マナウス)、インド(ムンバイ、デリー、コルカタ、ダージリン)、アルゼンチン、ペルー(全16章)です。

 各地の中華料理店を訪ね、自慢の料理を食するレポートでもあるのですが、どちらかというと本書の主題は、”なぜ世界各地に華人が住み、中華料理店があるのか?”にあり、登場するひとびとは移民として渡ってきた中国人、第2、第3世代の現地生まれの華人などさまざまです。そして現在の店舗、華人にたどり着くまでの彼ら・彼女らの歴史はさらにさまざまで、数十年〜数百年の命の伝承物語が本書の最大の魅力だと思います。

祖国の中国を離れることとなった近現代の背景は主に以下のようです;

  • 日中戦争〜国共内戦〜大躍進〜文化大革命の混乱状態からの脱出

  • 古くは19世紀後半黒人奴隷制度の廃止から中国人労働者として各地に派遣され、就労期間就労後に彼の地に住み着いた

  • さらに古くは明(永楽帝)の時代まで遡る(*2)

特に現オーナー、および家族の生の声(著者によるインタビュー)は壮絶です。(引用文は筆者により要約)

新疆からタクラマカン砂漠(「うっかり足を取られると砂に埋もれちゃうんです)、ヒマラヤ山脈を越え(「たくさんの人が足を踏み外して死んでいるんです」)パキスタンに入り、国外退去となりイラクへ移動し、そこからアンカラへと移動した。(p.197-199)

第8章「中国から歩いてきた男――イスタンブール(トルコ)」

村から4日かけて海辺までたどり着き、4時間泳ぎ続けてマカオへ脱出した(p.263)

第11章「大脱走――サンパウロ(ブラジル)」

 行きついたそれぞれの国で、生活のために仕事をしなければなりません。けれどもようやくたどり着いたその土地でも、差別や内戦などに揉まれながら苦労して苦労してようやく、現在の状態にあります。
 医食同源で、見た目・香・味・食感のバランスがと問わなければ中華料理とは言えないそうで、その優れた料理はおのずと各地でも評判を得ることにはなります。そして、それぞれの地域の郷土料理と融合し独自のメニューが開発されたりもし、地元に根付いてきたようです(*3)。特にペルーではチーファ(レストランの意)全体数の半分以上が中華料理店だそうで、2~3万件あるそうです!

 本書は日経書評から購読したものですが、店舗・料理情報もさることながら、現代的グレートジャーニーの一端をみるような素晴らしい体験でした。今年読んだ本のベスト3に入ることは間違いないと思います。

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(*1) マダガスカルはアフリカ東海岸から400㎞の沖合にある世界第4位の大きさの島で、住民の半数がボルネオ地域との遺伝的繋がりがあり(残りの半数は東アフリカ系)、マダガスカル語はマレーポリネシア語と近く、稲作も行われているそうです。著者の「驚くなかれ、」に共感します。

(*2) 大遠征隊を率いたいのが鄭和で、第一次航海(1405年)では全長127mの大型船62隻を含む300隻以(総員28,000人以上)の艦隊であったようで、16世紀後半のスペイン無敵艦隊(130隻、最長55m)を凌ぎ、第一次大戦までの最大であったとのことです(ほんとかな!?)。7度の遠征では東南アジアから、インド、ホルムズ海峡、モルディブ、東アフリカ、ケニアにまでおよび、盛んな貿易を行っていたようです。

(*3) 日本の「町中華」もそのひとつです(「日本版に寄せて」より)。

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●Youtubeリンク
カナダ

イスラエル

トリニダード・トバゴ

モーリシャス

南アフリカ

マダガスカル

トルコ

ノルウェー

キューバ

ブラジル(サンパウロ)

ブラジル(マナウス)

インド(ムンバイ、デリー)

インド(コルカタ、ダージリン)

アルゼンチン

ペルー


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