まぼろしの犬(76.4)
それまで当たり前に使っていた言葉が、突然妙な響きを帯びるときがある。最近では、ホットドッグ。
「たっぷりコーヒーと、ホットドッグをください」
コメダ珈琲で注文しながら、ふと思ったのだ。
なんだ。ホットドッグって。そんなにへんな名前だったか?周囲の人に聞こえないように小声でもう一度口に出してみる。
「ホット・ドッグ」
あつい犬。夏の日差しに焼かれて、舌をだしながら息を荒げているレトリーバー種が脳内に投影される。もさもさと生やした薄茶の毛がいかにも暑苦しい。ヘッヘッヘッヘッヘッ。
まったく妙だ。
きっと、この問題はグーグルが瞬時に解決してくれるだろう。でも、わたしはすぐにはそれをしなかった。夏の暑いレトリーバーはわたしの中に住み着いている。違和感の解消とともに、レトリーバーが消えてしまうことを恐れたのだ。
それからしばらく、わたしは暑い犬と過ごしている。冬なのに夏の暑い犬。頭の中をぐるぐると歩き回っている。仕事中には邪魔なので引っ込んでいろと躾けているが、入浴中、食事中。ちょっと油断すると思考のすきまから顔を出す。ヘッヘッヘッヘッヘッ。
こうして、わたしは犬を飼うという夢を叶えたのだった。
今日の体重は76.4kg。
そろそろ犬の散歩がてらジョギングに出よう。