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【新文芸坐×アニメスタイル vol.183】もう一度観たい凄い劇場アニメ 劇場版『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』

11/18 :把握できていなかったアバンの担当アニメーターの情報を提供していただいた為追記。
11/19:『恋の小惑星』を『恋する小惑星』に修正


開催日:2024/11/18(日) 開演14時40分
 会場:新文芸坐
 出演:山本健監督(葉っぱさん)、山崎淳さん、溝口侃さん  
    小黒祐一郎さん(司会)

※解釈違い、ニュアンス等も含んでいます。
誤情報などの指摘や訂正がありましたら「作画を語るスレ」ではなく、コメントまたはXのリプライ・DMにてお知らせください。

以下敬称略


何故山本健さん、山崎淳さんだったのか

山本健さん
溝口:
『ウマ娘 プリティーダービー ROAD TO THE TOP』(以下RTTT)より前に映画は決まっていた。 「映画」を作れる人と作りたいと思っていて、葉っぱさんのOPやPV等の画面作りを見て、映画(映画の画面)を作れる人だと感じたから。

山崎淳さん
溝口:
Cygamesの10周年ムービー(『Follow Your Fantasy』)で、"華"があると感じた。 艶があり、女性特有の丸い部分、可愛い部分を表現するのが非常に上手い。 山本さんが無茶苦茶するだろうと予想してたので、バランスが取れると思った。


あしたのジョーに似ている

小黒:
『あしたのジョー』に似ている。
山本:
リファレンスを探している時に少し参考にした程度。 タナベさんの小屋は『あしたのジョー』に出てくる橋下のジムを参考にしている。
溝口:
コンテを見た瞬間に「これジョーじゃん!」ってなった。
山本:
鉛筆調で「最強は俺だ」と叫ぶジャングルポケットを担当した佐藤利幸さんに 「今石(洋之)さんじゃーん」と言われた。

個人的には『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』や『遊☆戯☆王5D's』のような乗り物の作品を意識していたけど、客観的には『天元突破グレンラガン』なんだなと、佐藤さんに言われて気付いた。

山本健監督について

小黒:
熱血モノを作りたくてしょうがない人なのかと思ってる。
山本:
元々『君に届け』や『うさぎドロップ』のようなさりげない日常や可愛いアニメやりたくてProduction I.Gに入った。 ジャングルポケットのキャラクター設定がヤンキーに決まっていた為、そこから繋げていっただけ。自分の意志とか若さみたいなものが見せられたら成功かなと思ってる。
溝口:
技法が優れていて、リファレンスも多岐にわたる。 エゴではなく作品に合わせてくれる。
山本:
音響監督の鶴岡(陽太)さんには「作家だね!」と言われている。
溝口:
作家性を押し出しているわけではなく、コンテンツを意識して自然と作家性が滲み出ている感じ。 山本さんがやりたいことをやってくれれば成功すると思った。 コンテの前に漫画も描いてもらってる。
山本:
皐月賞のネームを描いてた。ゲームの技も取り入れたりしている。
溝口:
漫画を描いてもらったお陰でやりたいことを初期段階でスタッフと共有出来た。
山崎:
山本さんを初めて認識したのは『約束のネバーランド』の1話。 表情が本当に良くて、この感じがウマ娘に乗ったら素晴らしいことになるなと。

https://x.com/hdjxne3jagh7nsa/status/1085139241980424192

向き合い方

山崎:
葉っぱさんはアドバイザーみたいに隣にいていつもアドバイスしてくれる。 描いていて徐々に熱いものを作ろうと思ってきた。 『RTTT』の鼻は光ってるけど『新時代の扉』は影になってる。

©Cygames, Inc. ©2024 劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」製作委員会

山本:
映画を意識している。
山崎:
ダブラシは美少女調味料とも言われていて、『RTTT』には付けているが『新時代の扉』にはダンツフレーム以外は基本付けてない。そこは大きな差だと思う。
小黒:
WEB版のウマ娘と同じ(キャラデザの)人で驚いた!
山崎:
(絵が山本さんと)混ざってきたよって言われた。
山本:
自分の絵がぐにゃぐにゃなので、山崎さんにちゃんとした立体にしてもらって美少女感を出してもらった。
山崎:
山本さんは絵のセンスがありすぎてみんなが影響されている。 もっとダサくすれば更にキャッチーな絵になると思ってる。
溝口:
Eveの葉っぱさんは特に顎が尖ってる。なんでか聞いたら「『エヴァQ』(『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』)の本田(雄)さんは顎尖ってっるじゃん。あれが最高じゃん。」って返ってきた。

山本:
『約ネバ』のキャラデザも顎が大きかったからその影響もある。 演出修正入れすぎているから顎が尖ってないか心配はしている。

仕事ぶり
溝口:
素晴らしかった。二人三脚でずっとやってこれた。 けど『プリコネ(プリンセスコネクト!Re:Dive Season2)』のOPで2ヶ月間音信不通になったことはあった。
山本:
『86-エイティシックス』(OP2)と平行していた時期で『プリコネ』は1年くらい余裕あったから許して。

絵コンテについて

山本:
200カット4日で上がったりもしたが、ダービーでアグネスタキオンがジャングルポケットを見つめるところは描き直したりした。(原画担当はホネほねさん?)

溝口:
石井(俊匡)さんのパートは少し遅れていた。
山本:
石井さんは個人的にファンなので、忙しい中頼んでやってもらった。 遅れてもやむなし。 合宿より少し前から菊花賞でマンハッタンカフェにジャングルポケットが負けるとこまでが石井さん。
ナレーションパートは吉成鋼さん、ライブパートはよは(中山直哉)さん。
吉成さんはコンテガン無視。「変えて良いんで」と伝えてはいた。 歴代のウマ娘達がOLしていくところはオリジナル。

ライブについて

山本:
インド映画みたいな最後に踊る感じを意識した。意味は分からなくて良いやと。 ここでクレジット流そうとしてたけど、「うまぴょい」流すのは絶対だったのでそれは出来なかった。
溝口:
アグネスタキオンの復帰を想定したライブ。本編と地続きという想定で明らかに走っている。

印象的なアニメーター

山崎:
淵本(宗平)くん。 皐月賞のアクション作監を担当しているけど絵がかなり残ってる。 『RTTT』4話Bパートのコンテも担当している。

山本:
天才。 ダービーも淵本演出の絵になってる。
山崎:
『RTTT』のときからファン。
山本:
演出は実質0.5作監みたいになってる。 スケジュールが理由で背景原図を作監を経由せずに演出の段階で修正して美術に回してる。
山崎:
作監が少ないけど最後まで出来た要因でもある。
溝口:
山本さんが演出で全修正したりしてる。 結構上手い人連れてきたと思ったけど鬼神のごとく全部直してた。
山崎:
「すげぇレイアウトきてる、神!」ってなったのも直してた。 直し方は凄い。局所的な修正ではなく前後関係も意識した的確な修正で勉強になる。
溝口:
(全修されて)ショックを受ける人はいるけどみんな喜んでくれてる。
山本:
恩田(尚之)さん、小島(崇史)さんとか今後これ以上の人たちで作れないんじゃないかと思ってる。
小黒:
誰が(メンバー)集めた?
溝口:
俺です。山本さんや山崎さんはファンが多い。 小島さんに関しては1年間営業を続けてようやく参加していただけた。
山本:
メインで参加してる作品がない期間は修行期間にしているらしい。
溝口:
コンテを見た段階でこの人に頼もうというイメージがあった。 挿入歌のパートは杉田(柊)さん、有馬記念のテイエムオペラオーは前並(武志)さんで決め打ちでやってもらった。

山本:(この辺り曖昧)
アバンのレースは全部(海外の方?)さん。自分だったらあそこまでカメラを振ることはしないので面白いと思い修正はしなかった。

11/18追記:情報いただきました。

まゆとかげ(坂詰嵩仁さん、榎戸駿さん)はダービーの最後。決め打ち。 J.C.STAFFの若手の鈴木(悠起)くんはダンツフレームとジャングルポケットのエフェクトが印象的。『アクセル・ワールド』の阿部望さんのような最近あまりみないエフェクトを描いてる。

小黒:
エフェクトはシーンによって違いますよ。
山崎:
アニメーターによって味がめちゃめちゃ出てるのであまり壊したくない。 動きとか芝居感もなるべく修正しないようにしている。
山本:
弥生賞のアグネスタキオンがカフェの幽霊に追いつくとこは(聞き取れず)くん。 『鉄腕バーディー DECODE』の山下(清悟)さんのようなグニョグニョにしても良いと言ってる。
溝口:
アニメーター個人の良さを活かした上で修正している。
山崎:
(曖昧) のりゆき(今岡律之)さんはフジキセキとジャングルポケットのやり取り。タナベさんにお礼を言う辺りは決め打ち。 のりゆきさんは『ワンエグ』6話が印象的。コンテとシンクロしているのりゆきテイスト。

山本: 笑った歯に黒い部分が残るのが良い。

https://twitter.com/e_eel/status/1479987935986728963

意識したこと

小黒:
出崎(統)演出なんですか?
山本:
意識していない。
溝口:
美術の串田(達也)さんが出崎さんを思い出したと言っていた。 全然違うけど熱量が共通している。
山本:
自分は京アニを意識していた。リズとか。
一同:
???
小黒:
トリガーは?
山本:
全く考えてない。動画に参加していただいてるくらい。 佐藤さんに言われてようやく認識したレベル。
小黒:
『あしたのジョー』を目指した今石さんみたいになってる。
溝口:
山本さんは『冰剣(冰剣の魔術師が世界を統べる)』を作れば良いと言って
いた。

山本:
全体的に『冰剣』を意識してる。Dパートも冰剣を意識した省エネ。
溝口:
『冰剣』を意識しているとは一切思わなかった。コンテの段階から違う。
山本:
アグネスタキオンの研究室は3Dでレイアウトを作れないから、そこは上手い人にやってもらってる。それくらいじゃないかな。

山崎:
間違いなく『冰剣』ではない。 葉っぱさんのコンテはキャッチーで表情も的確で面白い。
小黒:
カットの切り返しとかシーンの繋ぎはカッコいいですよ。

映画志向はあったか

山本:
媒体が映画だったので意識はした。 本当は萌アニメめっちゃやりたいけど全然こないんだよねぇ。 監督をやるなら次はオリジナルのスポーツものが良い。
溝口:
山本さん、山崎さんに次回作のオファーを出したがフラレた。 今でも一緒に仕事がしたいと思っている。
山崎:
ウマで絵が気持ち良かった。 今回のようなパッション滾る表情を描く機会がない。 自分はオーダーに従い、コツコツ真面目にこなすのが向いているのかもしれない。 今後は気に入った監督や作品に参加したい。

最後に

溝口:
自分の好きな人達を集めた宝物のような作品。
山本:
見返して「若いな」と客観的に見て思った。 作品としては理想値の最大を出せた。
山崎:
アグネスタキオンの走るとこで泣いた。 本当に面白い映画。

その他

  • 及川さんのウマ娘TVシリーズは三人とも大好き。

  • 山崎さんと山本さんは『恋する小惑星』で初めて一緒に仕事をした。

  • ジャングルポケットが主人公なのは分かっていて、「ヤンキー漫画の強いやつ」というメーカー側からの設定があった。

  • 山本監督は脚本作りから参加。レースの構成は最初に決まった。

  • 小黒さんが飲み会で溝口Pの熱い山本健語りを聞かされたのが今回の企画のきっかけ

  • ジャングルポケットが自販機の横に座っているあたりは殆ど葉っぱさん。

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