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第162回アニメスタイルイベント 『中村豊の作画を語る!』

開催日:2019年10月6日(日)開演13時00分
会場:LOFT/PLUS ONE
出演:中村豊さん・井上俊之さん・沓名健一さん・ 甲斐泰之さん
   小黒祐一郎さん(司会)

2018年のベストトークイベント候補。
特に2部は世に形として残らないのが本当に勿体ないと思うくらいの貴重かつ濃い内容だった。
去年の春に行われた『第142回アニメスタイルイベント・アニメの作画を語ろう 2018年春』と同じ井上さんが語りまくって沓名さんが解説する布陣。濃くないわけがない。普段のトークイベントメモの文字数は概ね2500~3000字だけど、今回は約9000字。
ここでは自分が取ったメモを出来る限りアウトプットしていく。

※情報量がとにかく多かった上、会話的な部分も多く含まれておりメモしきれていない部分もあるので、不足部分や誤った解釈・誤情報などがありましたらコメント下さい。

以下敬称略

中村豊さんの印象・原体験

井上:
最初(ビバップ)は侮っていたけど、年齢を知って驚いた。自分よりもっと若い世代だと思っていたら、50代だった。
豊さんを認識したのが『カウボーイビバップ』で、当時は20代前半だと思っていた。
天才的なアニメーターだと思っていたけど、下積み時代があったのも驚いた。『カウボーイビバップ』の時は今の豊さんみたくなるとは思っていなかった。

『カウボーイビバップ』の頃はまだ生意気な若手といった印象で、「ライバルが一人増えたかな?」くらいにしか認識していなかったけど、映画『エスカフローネ』から自分の想像を超えてきて、『ストレンヂア』を見てから天才性を感じて、「これからは僕が追いかけていくのかな」と思った。インタビューを読んで更にその天才性を磨き上げていることを知った。

中村:
(井上さんは)ずっと追いつけない存在なのに…。
井上:
中村さんに謙遜されるのはちょっと…。

会話(メモ漏れ多数)
沓名:
当時は中学生でアニメが動く事がカッコイイという意識はあったけど、まだ作画オタクになる前だった。
『天空のエスカフローネ』の最終話(26話)の中村さん担当パートは作画オタクになる前から繰り返し見ていた。
『カウボーイビバップ』も良いと思ったカットを繰り返し見ていたら、後々その担当パートが中村さんだと知った。テレビの方で既に存在が凄かった。

当時は今とはアプローチが違うけど、純粋なアニメーターとして活躍されてた。 
井上:
僕もある程度そういう風に見ていた。
中村:
サンライズに拘束されている時期で当時は遊びの感覚があったので、「拘束されている以上はそれなりの仕事をしないといけない」といった責任を少し感じていた。
『天空のエスカフローネ』は周りにうまい人が多かったので、右往左往しながら「追いついていかないと」と思っていた。
『カウボーイビバップ』はある程度ゆとりがあったので、キャラアクションとしっかり向き合えた。
小黒:
もっと「うひょーー」系の人かと思ってたけど、実際は凄く真面目な人。
沓名くんは今は真面目だけど、元は「うひょーー」系でアニメ業界のテロリストだった。
沓名:
脅威を感じたけどすぐに敵わないと思い、別ベクトルで攻めていった。

脅威に感じた人・二原システムについて

井上:
豊さんが脅威に感じた人は?
中村:
りょーちもくんや沓名健一くんとか。
井上:
磯(光雄)くんは?
中村:
『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』で1カットだけ動画を担当して、「サンライズにはガンダムをこんなにもうまく描ける人がいっぱいいるんだな。」と当時は衝撃だったけど、担当したカットの原画マンが磯さんだった。
あとは山下清悟さん。松本憲生さんは見た瞬間から”神様”だと感じた。うまい人はうまい。しかも早く描ける。
井上:
中村さんにはもっと多くの原画を…。
小黒:
その為に作ったと言っても過言ではない南さんの二原システム。
中村:
結局それも自分が一原を引っ張ってしまうので駄目だった。
うまい方であれば、新たに良い変化が生まれたりするけど、そうでない(中村さんの作画を理解していない)方だと「やっぱりなぁ…。」と落胆してしまうこともある。理解出来ない人が多いのもある。
井上:
中村さんの二原は僕がやりたいぐらい。凄く勉強になると思う。
沓名:
トレースしてたけど、本当に楽しかった。
井上:
中村さんの二原でも上達する為に得られるものが一杯ある!
自分は仕事は出来るけど、その限界は知っている。だから準一流のつもり。初期の豊さんの様な純粋なアニメーターとしての状態がずっと続いている。
コンテ、演出が要求している通りの無難にやる能力はある。
中村:
でもスケジュールは守らないと駄目じゃないですか。
井上:
商業アニメーションの域を超えているので、短時間で出来るものではない。この問題は南さんになんとかして欲しい。
中村さんは作品・シーンを盛り上げる為に尽くされている。それをご本人も自覚的だったのも凄く嬉しかった。
小黒:
最近は1作品の”豊”濃度が薄くなってきてる。
中村:
実はヒロアカの劇場で制作さんが50カット振ってきた。
井上:間髪入れず
少ないね。
中村:
僕は無理だって言ったけど、制作さんが結構押してきて、作監の林祐己くんが「これは無理だろ」と怒ってくれた。
井上:
じゃあ僕が制作します。
僕が制作しつつ豊さんの二原をやる。
中村:
そんな事やらせるなら200カット井上さんにやらせる方が絶対に良いじゃないですか。
井上:
僕がそんなにやっても面白くない。

(カットを多く)担当した作品について

中村:
『ソウルイーター』は南さんから沢山やったと言われた。『かりあげクン』は100カット。

井上:
中村さんの仕事を追う際は早送りの3倍速・4倍速で見てる。その速さでも中村さんのパートがくれば気付ける自信がある。
ヒロアカは瞬きすると中村パートに気付けないので危ない。

小黒:
『クッキングパパ』では車が走るパンチの効いたカットを担当してる。
中村:
それは小船井充くん。
小黒:
(別の作品で)リベンジします。
『Gガンダム』、『忍空』は?
中村:
80カット。単価が高くなるにつれカット数は少なくなってきた。

四角の破片について

沓名:
ルーツはどこから来てるのか。なかむらたかしさん、うつのみやさんの流れだとは思う。
井上:
僕もその流れだと思ってた。
中村:
昔見た『ガリバー旅行記』(ガリバーの宇宙旅行)を思い出した。幼い頃に見た作品で、当時「アニメーションは四角くして良いんだ。」と思ったのが残っている。

井上:
『ガリバー旅行記』は作画的にイケてるカットが多い。

中村さんの四角は回転させたりするのを踏まえた四角だと思っていた。
破片は吉成曜くんとかが、とても複雑な立体を描いていて、「よくそんなことするなぁ」と思っていた。そのアンチテーゼ的な部分もあるのかと。
なかむらたかしさんの作画だと立体が空中で消えていくし、80年代は誰も四角い破片はやらなかった。そこからうつのみやがやり出して、今は落ちて回転して転がる。大変な事してくれたなと。大変迷惑。
沓名:
豊さんは精密にはやらない。
井上:
アニメーションの嘘がとても詰まっている。
中村:
手前と奥で誤魔化したり、省略的な表現はやっている。
井上:
描く能力も勿論凄いけど、どれだけ効率よく見えるかを考えられていたり、そういうのはセルワークとかを見ればよく分かる。
タイムシート、セルの重ね方とか見習う事が多い。

インパクトフレームについて

沓名:
白地に実線のインパクト。似たようなのは過去にあったけど中村さんがやり出しただろうと。
井上:
鉛筆で描いた木炭デッサンの様なものをそのままスキャンしている?
中村:
吉成曜さんが『天元突破グレンラガン』でやっていた。タッチを流行らせたのは森久司さん。

沓名:
大元は『BLOOD THE LAST VAMPIRE』の磯光雄さん。大平晋也さんもずっとやっていたけどハイコントラストは意識していないと思う。森久司さんの恐竜が吹き飛ぶパートなどは、中村さんの様なインパクト。

中村:
影響は滅茶苦茶ある。
沓名:
『バットマン』で橋本晋治さんのインパクトっぽいカットがあったけど、
中村:
それは見てないですね。
井上:
面白い爆発を描いてる。彼の天才性が良く出ている。タイミングが良いよね。
沓名:
絵自体はリアルではないけど、現象としては凄くリアルに描かれている。『AKIRA』の井上さんのエフェクトもそっち系でしたよ。

Q:最近影響を受けた事

『羅小黒戦記』
井上:
サイキックバトル(モブサイコ100やワンパンマン)を解釈して表現されている。遜色もない。スタッフも20代が殆どで美術監督は25歳の美人の女性。”ユタカイズム”を当たり前の様に使いこなしていた。中村豊さんや松本憲生さんを見て育った世代。
中村:
予告しか見れていないので凄く見たいと思っている。
井上:
演出的な部分やストーリーを見せるうまさも凄く感じた。日本は戦力が分散されていてこういった作り方は少し難しい。どうしてこれができないのかと、凄くもどかしい。
松本憲生くんを一人主役に据えた作品が見たいし、そういったもので良い。純粋に楽しめる作品が出来るはず。

Q:注目しているアニメーター

中村:
うまい人だらけなんで「この人」と特定出来ない程沢山いる。
井上:
海外も豊さんのフォロワーが沢山いすぎて追い切れないしもう追わなくても良いかなと。
沓名:
中村さんフォロワーは増えてきたけど、井上さんの様な仕事を出来る人が少な過ぎて危機感がある。
井上:
(自分の仕事は)筋トレすれば出来るレベル。
沓名:
井上さんの方が僕らより天才的な表現をされている。持っている技術のベクトルが違う。
僕もトライしてみたけど破綻なくやるのは無理だと思って挫折する。
中村:
それが出来ないから試行錯誤している。
井上:
根気があって破綻なく描ける人が少なくて本当に困っている。本当は今までやってこなかった様なエロやグロテスクといったジャンルのアニメをやって余生を過ごしたいけど、結局自分が一番力仕事をしている。
沓名:
僕達の様な中村フォロワーが増え過ぎて、このままでは駄目になるんじゃないかと。
井上:
いや、豊さんの様にアニメーションを”豊か”にしている。

井上:
中村さんは物凄いカロリーの仕事をやり続けている。本当に体力がいる。
中村:
井上さんも同じだと思いますけど、僕はモチベーションが下がらない。

Q:エフェクトについて

沓名:
『カウボーイビバップ』は立体的だけど近年は映像で流れるとリアルに見える。絵としては2D。
井上:
『ガイキング』で突然そういった傾向が見られる様になった。磯くんの影響はない?

中村:
磯さんを真似しようと思った時期はあったけど描けなかった。当時、色んなところから「四角いね」と言われていたので、「じゃあ煙も四角くすっか」と思ったのがキッカケ。
井上:
実写の様なエフェクトを描く松田宗一郎さんの影響はある?
中村:
あるけど、アニメーションはファンタジーだから煙もどうにでもなるなと思った。
参考映像は見るけど、アニメだから忠実に再現したりはしない。
井上:
ヒントにはしていると思っていたけど、アニメーションの嘘を本人も自覚してやっていたんですね。
中村:
大張さんの煙もうまく模倣出来なかった。

Q:一緒に仕事をしたい監督

中村:
ジブリは絶対やりたくない。ああいう作画にしなきゃいけない。あれは本物(軸がしっかりしている井上さんの様な人)じゃないとやっちゃいけない。
沓名:
宮崎さん大平さん好きですし、
井上:
中村さんが参加されれば喜ぶと思いますよ。人柄含めて宮崎さんなら気に入ると思う。
中村:
これで宮崎さんに怒られたら「井上さん!!」ってなります。

Q:気になるアニメーター

中村:
『モブサイコ100 Ⅱ』5話や『Fate』に参加されたアニメーター。
井上:
(恐らくweilin zhangさん)日本のアクションアニメーターは緩い絵になりがちたけど、weilin zhangさんや中国のアニメーターはアクションでも緻密な絵を描いている。
中村:
モブサイコは本当は参加したかったので歯痒い思いをしていた。(諸事情で参加できず)

Q:カリスマアニメーターについて

中村:
僕は色物、井上さんは本物なんで。
井上:
あの(数々の名)シーンを持つのはカリスマですよ。今日から新カリスマで。
中村:
それは「ここでこうやらないと、この作品に華を添えられない」と思ってやっているから...。じゃあ、今日から”シン・カリスマアニメーター”でいいです。


第2部

ポージングのルーツについて

沓名: 
『天空のエスカフローネ』26話
ずっとカッコいいと思って見ていたし、今でも見直す機会がある。本編は見てないけどこの最終回だけは見た。
今回もトレスして気づいた点が沢山ある。
ケレン味の作り方、ポージングが大張さんぽい。

中村:
20歳くらいの時に見た『勇者シリーズ』のバンクシーンの印象が強く、該当シーンは無意識に描いている。
大張さんは『勇者シリーズ』以前のお仕事は見た事がなかった。子供向けでちゃんとしていて落ち着いた作画だけど、ケレン味も残っている。

今のスタイルについて

井上:
金田さんのフォロワーが多くて、当時はあの天才が描く作画は発展させようが無いと思っていたので、今のような発展は予想だにしなかった。
中村:
憧れていて描いてもいたけど、その人達のレベルの先には行けないなと察した。
『カウボーイビバップ』でリアル系を意識し始めて、リアル系に行くには大張さん達のベクトルを消さなきゃいけないと思ったけど、それが出来なかった。結果的にリアル系と大張さんのベクトルが混ざった。
うまくなかったが為に、あの先のレベルにいかなかったから今のスタイルがある。
井上:
アニメーションとしてのケレン味を僕は意図的に排除してきたけど、近年はもっとアニメ的でも良いと思い始めてきた。

羽山さんの影響

井上:
『ひみつのアッコちゃん』は必見。 
中村:
パンチが入る前にえぐりが出る。
学ランの影付けがエフェクトっぽいので、その影響もある。
井上:
エフェクトは凄く自由だし、四角くてグラフィカル。WEB系にも通ずるものがあり、やはりそういった面でも52歳とは思えない。
沓名:
実写のエフェクトのエッジは結構いい加減で、宮沢康紀さんもそういった傾向があり、そこに通ずるものもある。
井上:
宮沢さんはなかむらたかしさんの大ファン。

人体アクション、安藤正裕について

沓名:
回転の使い方が巧み。
回転しながら回転するアクション。
新体操っぽい。
今まで回転アクションは沢山あったけど、安藤さんは複雑な回転を取り入れてきた。

『魔術士オーフェン』のOP
沓名:
敵を見ていない。
ブラインドで投げている。投げ方もカッコいい。
カットの繋ぎ方、追加の仕方は安藤さんの影響があるのではないかと。

井上:
安藤さんのそういった要素に繋がるとは思わなかったし、発展させようとも思わなかった。
安藤さんはリアルだけでなく、ケレン味も含めた作画で競い合うようなスタジオ「あんなぷる」出身。
中村:
安藤さんはしなやかさがあり、美しい。

井上:
カポエイラの実写を見ている?
中村:
そこまで見ていない。でも、安藤さんから影響を受けて新体操を見始めた。
沓名:
安藤さんはジャンプ時に発生する塵の散らせ方がカッコいい。
井上:
エフェクトとか汗やよだれみたいな液もとにかく量が多いんだよね。

中村さんのアクションについて

沓名:
ギャグにならないギリギリのライン。真面目に考えるとまずやらない。
井上:
まず思いつかない。思いついてもやらないようなアイディアが沢山。
良くなる・面白くなる確信がないと中割りに出来ない。

『クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡』
沓名:
安藤さんのカットの割り方、入れ方でやっぱりアクションカッコいいなと改めて感じる。
井上:
ベタ打ちで表現できてこそアニメーターと思っていたし、アンチ乱れ打ちだったけど、最近は乱れ打ちもいいなと思い始めてきた。

『カウボーイビバップ 天国の扉』
中村:
安藤さんへのアクションは「クレヨンしんちゃんみたいにお願いします」とオーダーしたけど、上がってきたカットの殆どか顔がしんちゃんみたいになっていて、これは川元さんに任せるしかないなと。
井上:
でも最近はデッサンなどの要素は大事ではないと思い始めてきた。
沓名:
今は整合性が取れるようになってるけど、それが出来なった時はなんとなく、それっぽく見えるようにしていた。
中村さんは技術があるにも関わらずらそれを意識的に向き合ってやっている。それが滅茶苦茶凄い。描けてしまうとそれが出来なくなる。

『ガイキング』
沓名:
角を折って蹴る流れ。コンテには無いアップの避けるカットを追加している。キャラのテンションとシンクロさせたカット。

中村さんはコアな方向に行き過ぎない様にしている。自分の原画主義ではなく、色んなアニメーターの作画要素を欲しいところに挿してミックスしている。色んな要素を俯瞰して見ているから実現出来ているのではないかと思っている。
井上:
担当されたカットが作品の為になっている。
沓名:
ある種、アニメーターの鑑。

ギリギリを攻めるポージング
『コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜』
井上:
ギリギリ過ぎる。遂に中村さんイッちゃったかなと思うくらい。
沓名:
このポージング。
甲斐:
普段からこんな感じ。
(中村さんが実際にそのポーズをする)

井上:
アクションを描かれる松本さんや中村さんは実際に運動神経も良いの?
沓名:
松本さんは出来そうだけど、中村さんは駄目みたい。松本さんは実際に動くと松本アクションっぽくなる。

甲斐:
仮面ライダーのベルトとか着けて、「これ、かっこいいでしょ?」と言ってきたりして、普段から人を楽しませようとする意思がある。
中村:
ギリギリを攻めている自覚はある。
井上:
それを戦略としてやっているのが凄い。
中村:
「中村さんは空気が読める」と言われてた。上がりを出す時、ヤバいなと少し思ったら低姿勢でお願いする。

井上:
うつのみやは本当に空気が読めなくて、いい加減気づけよって思ってる。自分の仕事に確信を持ってるから貫けている。
中村:
最近勘違いしている人が多いけど、アニメーターは監督のフィルムを間借りして、フィールドを使わせてもらっている立場。
コンテを勝手に変えることについては、そこは違うとハッキリ言っておきたい。

中村:
兄貴がヤバいことをしていつも母親に怒られている姿を見てきた。それを反面教師にしてきた習性もあって、とてもうまい先輩達も演出に逆らったりしている姿が理解できなかった。
沓名:
松本さんは若林さんと組んでいて「ズルイじゃん」って思ってる世代もあるかもしれないけど、現場を作るアプローチを今の若手は分かってきている。

演出家 中村豊

メモ不足
沓名:
うつのみやさんはうますぎるが故に抽出し過ぎてディテールが無い。
中村さんの場合は洗練させない事に徹底しているように思える。自分は描けないという体でネタ出しに時間をかけている。
毎回対象にゼロベースで向かい合っているのが本当に凄い。
中村:
完全なものはないし、それを補うのに抽出していく。失敗したらメモをして記録すれば同じ間違いはしないだろうけど、失敗する度に試行錯誤していて、それにも楽しさみたいなものがある。
井上:
中村さんは理屈じゃない部分の印象の表現をうまくサボっている。
中村:
出来なかったが為の試行錯誤。出来てしまう人になりたいとは思うけどなれない。けど、それがうまくいったのかなと。

沓名:
俯瞰して表現を見ている。
中村:
組み立て時も大ラフから考えて、動きのイメージがない変な絵も入れていく。
その変な絵をどう繋げていくか、そういったところを工夫する。それ故に、無理やり収めてしまっているなと思うカットもある。
沓名:
宮崎さんが「綺麗に繋げてしまうと訳が分かってしまうので、フィルムのテンションが下がる。だから訳の分からない絵を挟んだりしてテンションを保つ」と言っていた。
井上:
現実的には予測出来ない部分を挑戦しようとしているのでは。
沓名:
次回作でそれをやるって言ってた。

インスピレーションについて

沓名さんの『鉄腕バーディー DECODE:02』の作画を見て。
甲斐:
トンネルの中で骸骨に向かって女が走るカット。キャラクターに光が当たったりしているのをカッコいいと言っていたけど、『僕のヒーローアカデミア』の轟のカットで「遂にあれが出来たか!」と言っていたのでネタを日々蓄積している。

中村:
新しい発見や自分にない発想はピースとして蓄えている。もともと自分が凄いと思ったアイディアなので、良い作画に出来るのではないかと思ってる。
甲斐:
結構理詰めで考えている。
『STAR DRIVER 輝きのタクト』の1話もこんなに勢いよく衝突してるのに衝撃は無くて良いのかと話していたけど、そもそもコンテではそこまで勢いついていなかった。結果として、衝突の大きさに合わせて衝撃を追加している。

中村:
他の人に話しをすれば更に閃きが生まれる。
アニメーターは"アレンジャー"だと思っていて、「あの人がこうするなら、自分はそれを更にこうする」みたいに。レベルの高い人と話して更に発想を得ることが出来る。

甲斐:
『血界戦線 & BEYOND』5話の車が変形するシーン。BGをじわーっと色変えしたり、作画だけでは表現出来ない部分の意図は?

中村:
熱量的な問題と、背景をイメージBGにする事で車が変形してのびる事に対して、現実では起こり得ない事象に違和感を覚えさせないように心がけた結果。

その他

一ノ関圭さんについて
井上:
我々の世代では知らない人はいない。僕の中では歴代1位の漫画家。
『茶箱広重』
天才を継いだ3代目の苦悩、三代目の人が二代を名乗る。
自分達が入った世代はアニメ史に残る天才達が沢山いたし、自分の下の世代はあっという間に自分達を追い抜いていく。
天才達に挟まれた世代なので、二代目広重に自分を置き換えていた。

Q:ハマっているコンビニスイーツ
中村:
セブンプレミアム中心に。

他Q&Aテンポが早くてメモ漏れ

シャツについて
中村:
本当はもっと緻密なエフェクトを描いていたけど、アニメスタイルに没られた。
アニスタ:
「こんなのはオレたちの中村豊じゃない!」
中村:
クソ忙しいのに、イラつきながら描き直したのが今のデザイン。

井上:
沖浦の回転は重い。リアルでやると快感が少なくなる。

※メモ漏れや解釈違いも含んでいます。
指摘や訂正、追加の情報などありましたらコメントにてお知らせください。

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