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戦略サファリ|経営戦略の種類と研究戦略

企業における研究マネジメントの考察(9)
企業における研究部門のマネジメントについて考えたことを整理しています。

前回、研究戦略の目的は、予測困難な将来の成長市場における「問題児」を作ることだと説明しました。では、それに適した戦略とはどのようなものでしょうか?

今回は、戦略を分類したミンツバーグの「戦略サファリ(第2版)」(2012)を参考にして考えてみます。

経営戦略の種類

戦略サファリでは、経営戦略研究を10スクール(学派)に分けて、それぞれに生物のメタファーを割り当てています。多くの生物がいるために”サファリ”と呼んでいるようです。

10個のスクールとは、①デザイン、②プランニング、③ポジショニング、④アントレプレナー、⑤コグニティブ、⑥ラーニング、⑦パワー、⑧カルチャー、⑨エンパイロメント、⑩コンフィグレーション、です。

戦略サファリでは「環境に応じて採用すべき戦略スクールが異なる」と結論されています。それでは、研究戦略に適した戦略スクールはどれなのでしょうか?

まずは、10個のスクールを個別に概観してみたいと思います。

1. デザイン・スクール

デザイン・スクールは、フィリップ・セルズニック著「組織とリーダーシップ」(1957)とアルフレッド・チャンドラー著「組織は戦略に従う」(1962)を起源としています。スクールの概要は、監訳者ツアーガイドに凝縮されているので、ガイドから抜粋して引用します。

デザイン・スクールとは、戦略形成における最もベーシックな考え方を提唱するスクールである。それは「SWOT分析」を基本モデルとし、企業の内的能力の強みと弱み(Streangths & Weaknesses)、企業を取り巻く外的可能性の機会と脅威(Opportunities & Threats)を「フィット(適合)」させることにより戦略を形成するというものだ。

「SWOT分析」が、事業計画書の中で単なる情報をはめ込むだけの”テンプレート”と化してしまっているのをよく見かける。大事なことは、現状の強みや弱みを分析する必要はあるが、戦略の実現によって将来の強みをいかに創造する事ができるのか、ということに尽きる。

ミンツバーグは、従来の「SWOT分析」に非常に重要な要素を2つ付加している。1つは、組織を担う人の信条である”経営者の価値観”、そしてもう1つは、組織と経営責任者が考えるべき”企業の社会的責任”である。

当スクールにおいては戦略とはグランド・コンセプトであり、指針を示すバイブルなのだ。つまり、それによって組織が形作られ、戦略を実行できると考えられている。

ミンツバーグ等は、デザイン・スクール・モデルに最適な状況の1つとして、組織の重大な変化の分岐点、あるいはまったく新しい組織が発足する場合と述べている。

しかし一方で、戦略作成と実行を分離したことにより、実行の中から学習する組織学習の考え方を阻害し、明確な戦略を打ち出しながらも、実行プロセスにおいて柔軟性を排除することに繋がっている、という批判もある。つまり、机上の空論を招きかねないということだ。

出典:ミンツバーグ「戦略サファリ(第2版)」(2012)第2章

まとめると、以下のようになると思います。

戦略とは
 ・グランド・コンセプトであり、バイブル
 ・内的能力と外的可能性の「フィット(適合)」

戦略形成者
 ・経営者

戦略形成手法
 ・SWOT分析

良い点
 ・戦略形成のベーシックな考え方がわかる

問題点
 ・戦略形成と実行の分離により、机上の空論を招きやすい
 ・SWOT分析がテンプレート化し、将来の強みの創造にまで至らない
 ・SWOT分析には、”経営者の価値観”と”企業の社会的責任”の観点がない

最適な状況
 ・組織の重大な変化の分岐点
 ・新しい組織が発足する場合

2. プラニング・スクール

このスクールで最も強い影響力を持つのは、アンゾフの「企業戦略論」(1965)です。同様に、監訳者ツアーガイドから抜粋して引用します。

1960年代にデザイン・スクールとほぼ同時期に出現したプランニング・スクールの中心テーマは、「形式化」にある。その基本モデルでは、SWOT分析に始まり、時間軸と組織のヒエラルキーに沿って、目標・予算・プログラムに関する運用プランに落とし込まれていく。デザイン・スクール同様、戦略作成は実行と切り離されるが、デザイン・スクールのようにトップマネジメントが戦略計画の主体ではなく、専門のプランナー、すなわち企画スタッフが主導権を持つ。

しかし、形式的プランニングへの過度の依存により、(中略)戦略の中身に関する十分な議論のないままに、形式的なプランニング・プロセスに沿って経営計画を長期・中期計画、そして年度計画へと機械的に落とし込んでいく作業の戦略上の危険性が、認識されるようになったのだ。(中略)戦略なきプランを戦略と呼んでいるが、形式化を最優先するあまり中身を問題にする事がまったくできていない。

プラスの意味での功績は、企業がある規模を超え安定成長を目指す際に、共通のプラット・フォームを作り上げる点にあり、(中略)完全に否定される訳ではない。ただし、革命的な変革期や既存事業とは異なる新規事業を模索・展開する際には、今までの延長線上にリニアに線を引き延ばすだけでは、戦略には決してなり得ないのだ。

出典:ミンツバーグ「戦略サファリ(第2版)」(2012)第3章

まとめると、次のようになると思います。

戦略とは
 ・形式化された計画、長中期計画や年度計画など

戦略形成者
 ・企画スタッフ

戦略形成手法
 ・計画から目標・予算・運用プログラムへと機会的に落とし込む

良い点
 ・大企業における共通プラットフォームを与える

問題点
 ・形式化への過度の依存し、中身の問題を考えない
 ・計画どおりに進めることを重視するため、変革期には役に立たない
 ・新規事業の模索・展開には役立たない

最適な状況
 ・大企業が安定成長を目指す場合

3. ポジショニング・スクール

言わずと知れたポーターの「競争の戦略」「競争優位の戦略」によって注目されたスクールです。これも、同様に監訳者ツアーガイドから抜粋します。

ポジショニング・スクールは、(中略)戦略それ自体の重要性を強調し、戦略のジェネリック化を押し進めた。その名のごとく、経済市場におけるポジションの確立にフォーカスしたものである。

このスクールでは、市場競争原理の働く環境において包括的なポジションを選択するために、特に分析に集中し、産業構造の分析から戦略ポジションが導かれ、ひいては組織設計に影響を与えることになる。ここでの主役は、(中略)大量のハード・データを処理し、計算するアナリスト(分析者)なのである。

このスクールの考え方は、分析や計算に偏った比重を置き過ぎており、成功する戦略実現に不可欠な、柔軟性やダイナミックな学習プロセスを無視している。しかし、戦略構想の簡潔な概念を提供している点ではその貢献度は多大であり、戦略の基本理解を深めるベンチマークを提供している。

変革の時代にあっては、スピーディな戦略形成・実行が「分析」によって阻害される危険性が高く、すべてを網羅する包括的な戦略では捉えにくくなっている

そもそも分析は、未来予測を含め、すべて過去のデータに過ぎないという前提を忘れてはならない。(中略)未来予測は、(中略)不連続であり、ノンリニアな変化をするのだ。

科学的という大義名分のもと、”見えないものを見ない”ことで自らをジェネリック戦略の枠組みに陥れ、”将来を創造する”ことを阻害し、差別化がますます困難な状況に自らはまっていくのだ。

効率だけを重視し、過去の延長線上にだけ解を求めようとしても、戦略自体がコモディティ化するだけで、どこにも未来はない

出典:ミンツバーグ「戦略サファリ(第2版)」(2012)第4章

まとめると、次のようになると思います。

戦略とは
 ・経済市場におけるポジション選択

戦略形成者
 ・アナリスト(分析者)

戦略形成手法
 ・データ分析、計算

良い点
 ・戦略構想の簡潔な概念を与える
 ・戦略の基本理解のベンチマークになる

問題点
 ・分析や計算に比重を置き過ぎ、柔軟性や学習プロセスが無視される
 ・分析に時間がかかり、スピーディな戦略形成や実行が阻害される
 ・過去のデータに重きを置くため、将来を創造することが困難
 ・戦略がコモディティ化し、他社と差別化できない

最適な状況
 ・すでに長期間存在し、これからも急激な変化はしない経済市場

4. アントレプレナー・スクール

このスクールの起源は、シュンペーターの「創造的破壊」(「資本主義・社会主義・民主主義」)にまで遡ります。これまで同様に、監訳者ツアーガイドから概要を抜粋します。

戦略形成におけるアントレプレナー・スクールとは、戦略形成を文字どおり起業家精神に学ぶことである。1人のリーダーの直感・判断・知恵・経験・洞察といった人間の知的活動における戦略形成、および戦略的ビジョンに焦点を当てたのである。

このスクールの中心となるコンセプトは、大胆さと洞察力に溢れるリーダーのビジョンにある。ビジョンとは、「それが本当にビジョンなら、忘れはしないだろう」(ウォーレン・ベニス)というように、明文化されなくとも組織への強力な浸透力を持つものである。

起業家とは、新たに事業を起こすベンチャー的起業家だけでなく、広くは企業内企業かも含んでいる。経済学者コールは起業家を4つに分類している。計算高い発明者、インスピレーションに溢れた革新者、超楽観主義的推進者、強い企業の創設者、である。

また、スティーブンソンとガンパートによれば、起業家は「戦略的状況判断」に際して、”機会となりそうな環境変化に対して常に適応する”が、管理者は”経営資源を使い果たすような脅威からそれを守り、防御的手段に出る”と定義づけ線引きしてる。

アントレプレナー・スクールは、時代環境と企業の置かれた発展ステージによって求められる戦略形成の在り方に重要な視点を提示している。その一方で、戦略形成がたった1人のアントレプレナーの意識や行動、(中略)その代替性の欠如という重大な欠陥も明らかにした。

1人の起業家の力に依存しすぎ、組織全体への学習に結びつきにくいことから『ビジョナリー・カンパニー』のコリンズとポラスは、”ビジョンを持っているリーダーに頼るよりもビジョンのある組織を構築するほうがよい”と主張している。

起業家精神とは、不確実性や不連続な変化をチャンスと捉え、リスクを恐れない度胸を持ち、成功するまでモノゴトを成し遂げることだ。(中略)「起業家的人格」として、「カリスマ的で人を説得することがうまく、情熱に満ち溢れ、世界を変えられるという壮大な志にエネルギーを注ぎ込む」という点が挙げられる。

出典:ミンツバーグ「戦略サファリ(第2版)」(2012)第5章

まとめると、次のようになるでしょうか。

戦略とは
 ・ビジョン、パースペクティブを実現するもの

戦略形成者
 ・起業家

戦略形成手法
 ・環境変化への適応
 ・起業家の意志と情熱

良い点
 ・ビジョンに執着するので、環境変化に適応して行ける

問題点
 ・戦略形成がたった1人に依存していて、代替できない
 ・ビジョンへのフォーカスが、新たな学習を妨害してしまう
 ・1人に依存するため、組織全体の学習に結びつきにくい

最適な状況
 ・不確実で不連続な変化が起こりやすい環境

5. コグニティブ・スクール

このスクールは、認知心理学をベースにした戦略研究です。ここでも、概要として、監訳者ツアーガイドを引用します。

起業家の心の中を分析することによって戦略形成のプロセスを解明しようとするのが、コグニティブ・スクールである。つまり、このスクールにおける戦略とは、戦略家の心の中で創造されるものである。

戦略家のマインドを解明するために認知心理学を応用し、人間の認知領域において、ビジョンや戦略が一体どのようなプロセスで形成されるのかを探求する。

このスクールにとっての戦略形成は、複雑で創造的な行為であり、いまだに十分解明されるには至っていない。

少なくとも戦略形成を捉える視点に関して、「客観的世界から主観的世界への架け橋」の役割を果たしていると言えよう。コグニティブ・スクールは、(中略)個人という観点から、創造的戦略家、そして成功する戦略家や経営者の資質・条件を、深く考えるきっかけを与えてくれる

意思決定における「錯覚と自己正当化」という観点では、「情報が増えるということは、必ずしも意思決定の精度を上げているわけではないが、自分は正しいという自信は強める。ただし、実際に手にした情報は殆どが余分なもので、付加価値はない」(中略)一見、合理的でシステマティックな意思決定をしていると思い込んでいるマネジャー自身が、過密だが中身の薄い情報によってコントロールされ、情報の餌食になっているのに気がつかない

人は見たいように見る。つまり、状況と結果の間に勝手に都合のよい想像上の因果の線を引いているだけなのだ。

過剰生産によって招かれた「ハイパー・コンペティション」は企業の合従連衝と戦略のコモディティ化を加速する。するとマネジャーは、競争の本質から目をそむけ、自分の範囲の中で整理可能なプロセスや方法論に没頭する。それが、ますます偏向した認知、歪んだ認知を量産し、本質的課題からマネジャーを遠ざけてしまう事がある

出典:ミンツバーグ「戦略サファリ(第2版)」(2012)第6章

このスクールは、戦略はどうあるべきかを問うておらず、戦略が生まれる基礎を研究するものでした。

戦略とは
 ・心の中で創造されるもの

戦略形成者
 ・戦略家

戦略形成手法
 ・未解明

良い点
 ・戦略家の資質・条件を考えさせる
 ・意思決定における注意点がわかる

問題点
 ・未だ、解明には至っていない

最適な状況
 ・不明

6. ラーニング・スクール

このスクールは、1960年代初頭にリンドブロムが唱えた「非連結的漸進主義」から「論理的漸進主義」「戦略ベンチャリング」「創発的戦略」に続き、ピーター・センゲ等の「組織学習」、野中郁次郎と竹内弘高による「知識創造」、プラハラードとハルメルによる「コア・コンピタンス」や「ダイナミック・ケイパビリティ・アプローチ」、「カオス理論」などが影響しているそうです。以下では、これまでと同様に、監訳者ツアーガイドから抜粋し引用します。

ラーニング・スクールは、(中略)創発的に現れた戦略を、いかに組織という集合体の中にパターンとして根づかせていくかに焦点を当てたものである。つまりここでは、創発的戦略と組織学習が主要なテーマとなり、戦略を個人および組織の学習プロセスとして捉えている。

ただし、(中略)組織学習を成功に導くための統合的なフレームと、現場の最前線に落とし込んでいくシステムが欠落している

このスクールは、戦略を処方箋的な規範てとしてではなく、経験に基づく記述を基礎に捉えており、実際の戦略が、組織の中でどのようにして形成されているのかについて深い分析と洞察を加えている。

「ホンダのアメリカにおけるオートバイ市場戦略」を、計画的でコントロールされた戦略の成功と見るのか、当初の計画的戦略の失敗を超えて学習した創発的戦略の成功例であると見るのか、(中略)BCGの分析的アプローチをホンダのマネジャーの実話と対比させながら、痛烈に批判している。

組織学習の限界と問題点に触れながらも、すべての実践的な戦略行動は、計画的コントロールと創発的学習の組み合わせであることを強調している。

しかし現代では、(中略)戦略がコモディティ化するスピードは益々速まり、ゆっくりとしたラーニングが機能しにくくなっている。一方、経営スキルの高度化と多面的リスクに対する分析・判断が、戦略実行の成否の鍵を握っている。それには、スピード感溢れる学習力と軌道修正力が同時に求められる。

特に、見えない差別化に直結する暗黙知を形式知に変換するためには、ミドルマネジャーがキーロールを果たす。(中略)リーダーシップの役割とは、計画的戦略に没頭することではなく、新たな戦略が出現するように戦略的学習プロセスや環境をマネッジすることにある。

出典:ミンツバーグ「戦略サファリ(第2版)」(2012)第7章

ビジネスケースとしても有名なホンダのアメリカ進出は、BCGが計画的戦略によって成功したと分析したのに対して、実際には経営陣は大型バイクの販売を目論んでいたのに現地では小型のスーパーカブにニーズを見出し(創発的戦略)、反対する経営陣を説得して販売し始めた、というものです。

また、このスクールでは、戦略は最初に過去からのパターンとして現れ、後に、場合によっては将来へのプランとなり、最終的に全般的な行動を導くパースペクティブへと進化するものと考えます。

さて、引用に出てきた組織学習の限界とは、ラーニング・スクールが少しずつステップを進める漸進主義であるため、次のような場合で不具合を起こすことです。

(1)組織を救えるような戦略ビジョンを持った強力なリーダーがいない場合、必ずしも最初に戦略が存在するわけではないため、わけもわからず何とかやり遂げるだけの組織になってしまう。

(2)学習を強調しすぎると、うまく機能するものから離れて、新しいとか面白そうという理由で推進してしまい、戦略的漂流(次第に、漸進的に、気づかないうちに確立した戦略から離れていくこと。茹でガエル状態。)になるかもしれない。

(3)漸進的な学習は、特に意図することなく、少しづつ望まないポジションにおびき寄せられ、誰にも望まれていない戦略を生み出すこともある。「核戦争と出産は『ちょっとやって様子を見よう』という戦略には相応しくない」

以上と、本文も合わせてまとめると、次のようになります。

戦略とは
 ・計画的コントロールと創発的学習の組み合わせ

戦略形成者
 ・ミドルマネジャー

戦略形成手法
 ・ビジョンと漸進的な組織学習

良い点
 ・戦略形成に現実性を与えている

問題点
 ・ビジョンがないと、コントロール不能に陥りやすい
 ・学習を聖杯化すると、いつの間にか目的とかけ離れてしまう
 ・誰も望まない戦略を生み出すこともある

最適な状況
 ・病院のような、知識が広範に分散し、高度に複雑化した組織
 ・真に新しい状況に直面した組織
 ・環境がダイナミックで予測不可能な場合


7. パワー・スクール

パワー・スクールは、パワー(影響力)を行使して、いかに戦略を実現しやすい状況を自ら作り出すのか、を研究するスクールです。監訳者ツアーガイドから抜粋します。

営利企業が市場における競争優位のポジションを獲得する戦略を実現するには、組織内の利害関係や外部組織との利害関係を、自らのパワー(政治や権力を含む影響力の行使)によって有利な方向へと誘導することが不可欠になる

戦略形成において政治的パワー・マネジメントは、極めて重要な要素であり、それらを除外したプロセスとして戦略形成を捉えることは、現実的には無意味

パワー・スクールにおける戦略は、計画的というよりは創発的プロセス寄りであり、また、パースペクティブというよりは、ポジションやプロイ(策略)としての戦略として出現することが多い。

ミクロ・パワーとは、組織内部の個人やグループの、合法的あるいは非合法的活動も含む政治的な活動である。一方マクロ・パワーとは、戦略形成時に、組織が積極的に外部環境や他の組織をコントロールしたり、もしくは協力するプロセスから、自らを有利な方向へと導くための活動を指している。

ミクロ・パワーとは(中略)組織は(中略)1人ひとりの個人から構成されている(中略)一方で、「弱いリーダーであっても、指揮命令系統が明確であれば、強い従属者を抑え込むことはできる」。

ミドルマネジャーの位置づけは、「情報ネットワークの中枢に存在し、変化や学習を促進する重要な存在であると同時に、戦略代替案を擁護し、情報を統合し、抵抗性を促進し、具体的戦略を実行する」こと

マクロ・パワーは、市場環境や競合との力関係の変化から様々な軋轢が生ずる変革期の真っ只中にいる企業にとって、豊富な戦略的方法論を提供してくれる。例えば、(中略)「アライアンス(戦略同盟)」や「戦略的アウトソーシング」は、コアコンピタンスの概念とワンセットで捉える必要がある。

企業間の相互依存関係が複雑になるほど、従来のコンペティション(競争)からコラボレーション(共創)型戦略形成プロセスが、重要性を帯びてくる。また重要な概念として、コーペティション(協合)=「競争相手と協創かつ競争しあう」があある。

出典:ミンツバーグ「戦略サファリ(第2版)」(2012)第8章

戦略とは
 ・競争優位のポジション
 ・パワーの行使と政治

戦略形成者
 ・ミクロ:ミドル・マネジメント
 ・マクロ:トップ・マネジメント

戦略形成手法
 ・ミクロ:組織内部の政治的な動き、指揮命令系統、社内政治
 ・マクロ:組織外部との共創・協合、ステークホルダー分析、社外政治

良い点
 ・経済活動と政治活動の両面に目を向けさせる

問題点
 ・軋轢や分裂に注意を払い過ぎ、形成される戦略パターンを見過ごす
 ・組織において、多大な損害と歪みをもたらすこともある
 ・対処しなければならない他の問題を曇らせる(違法な結託など)

最適な状況
 ・組織内の利害関係や外部組織との利害関係をコントロールしたい場合
 ・力関係が変わり軋轢が生まれる重要な変化の時期
 ・大規模な成熟した組織で、外部交渉力が高い場合(マクロ・パワー)
 ・複雑で分散化したプロフェッショナル組織(ミクロ・パワー)
 ・閉塞状態の期間
 ・物事が変化しつつある時

8. カルチャー・スクール

カルチャーは、1980年代の日本企業の成功によって、戦略マネジメントの分野で発見され、その重要さゆえに脚光を浴びるようになりました。

ミンツバーグ等はカルチャーの構成要素を、世界に対する解釈とその解釈を反映する行動として捉えており、それは、社会的プロセスの中で集合的に共有された信念として凝縮するとしている。

世界に対する解釈と行動の結合が緊密になればなるほど、共有化された信念は、伝統や慣習、行動スタイル、さらには企業の持つストーリーやシンボル、そして製品といった目に見えるものまでにも強く反映され、企業文化として根付くことになる。

カルチャーは、組織全体への強い伝播力を有すると同時に、組織に対し独自性を与える。結果としてそれは、組織に戦略的安定性をもたらす反面、時には戦略的変化に対して抵抗・拒否を示すことにもなる。

パワー・スクールが自己の利益にフォーカスし、戦略的「変化を促進」する際の政治的影響力を扱うのに相対して、カルチャー・スクールは組織の共通の利益にフォーカスし、戦略的「安定を維持」する機能を有する。つまり、パワー・スクールとカルチャー・スクールは表裏一体の関係にあるといえる。

特にグローバル市場で戦うためには、従来のカルチャーの戦略的慣性を克服すると同時に、いかに新たな「柔軟性と革新」のカルチャーを創造できるかが鍵となる。

バーニーによれば、「カルチャーが模倣に対する最も効果的で継続性のある参入章壁」となる。カルチャーのもつ独自性と曖昧さが、戦略の模倣・再現を困難にするという訳だ。

出典:ミンツバーグ「戦略サファリ(第2版)」(2012)第9章

戦略とは
 ・暗黙的パースペクティブ

戦略形成者
 ・組織全体

戦略形成手法
 ・社会的な相互作用のプロセス、暗黙のうちに共有される信念や理解

良い点
 ・独自の企業文化による持続的競争優位性(コア・コンピタンス)の確立

問題点
 ・M&Aや環境変化で変革が必要でも、変化に対して抵抗が起こる
 ・信念を断片的にしか説明することができない、曖昧なまま
 ・作るのは難しく、壊すのは簡単
 ・自前主義に陥りやすい

最適な状況
 ・変化が不要な時期
 ※ただし、変革が必要な時期にも示唆を与える

9. エンバイロメント・スクール

このスクールでは、進化論のような「条件適応理論」に基づいています。

エンバイロメント・スクールは、従来のリーダーシップや組織に取って代わって、はじめて「環境」を戦略形成上の主語に置いた。そこでは、環境が戦略を規定し、組織はあくまでも環境に従属する受動的なものとなる。

リーダーシップとは、環境を把握し、組織が適応していることを保証するものに過ぎない。

エンバイロメント・スクールでは、「戦略の選択」は、環境が一義的に決定する

安定した環境は、よりプランニングを好むとし、組織はある種の生態学的ニッチへの駆り立てられるとしている。

戦略マネジメントは「最善策が1つだけ」あるものではなく、環境のさまざまな側面に起因して、”時と場合”によって変化するものと捉えている。外部環境の不確実性に対処するためには組織を分化し、CEOはこれら分化した各組織を統合するような管理体制を敷くことが重要である

組織の基本的な構造と特徴は、その組織が誕生してからすぐに決定されるものであり、環境が組織の適合条件を決め、その条件を満たす組織が生き残り、そうでない組織は排除されてしまう

「組織には本当の意味での戦略的選択はなく、どこかに『環境の命令』がある」という考え方は批判されてきたが、(中略)戦略家の影響力が弱まっている現状を鑑みると、このスクールの重要性が増している

出典:ミンツバーグ「戦略サファリ(第2版)」(2012)第10章

戦略とは
 ・環境への適合

戦略形成者
 ・環境

戦略形成手法
 ・環境に対する反応の中での組織形成

良い点
 ・環境によって適切な戦略が変わることを示した

問題点
 ・環境の特質が抽象的
 ・すべて環境に合わせるので、選択肢がない

最適な状況
 ・不明(すべては環境次第だから)

10. コンフィグレーション・スクール

このスクールは、前述のすべてのスクールの考え方を、適切な状況に応じて使い分けることを提示しています。

「変革をどうマネッジすべきか?」という課題に対し、組織が置かれる状況をどう捉え、次への変革のプロセスをいかにコントロールするのかという考え方を示したものと言える。

組織には大きく2つの局面がある。1つは、コンフィギュレーション(配置構成の状態)と呼ばれる、組織とその周辺の状況が置かれたある特定の安定した状態である。もう1つは、トランスフォーメーション(変革)と呼ばれる変化のプロセスで、このプロセスにより組織は現在のコンフィギュレーションの状態から次の小ンフィギュレーションの状態へと飛躍・変化する。したがって、戦略形成とは、あるべきコンフィギュレーションの状態にトランスフォームするためのプロセスそのものとなる。

コンフィギュレーション・スクールは、戦略マネジメントに不可欠な静的・動的局面に関して、前述のすべてのスクールのメッセージを統合しながら、1つの方向へと調和させる枠組みを提示している。つまり、各スクールに代表される考え方は、”適切な時と文脈”に応じて選択される訳だ。例えば、創業時のベンチャー企業は、起業家的リーダーや単純な組織のもとに実行可能性が高い戦略に依存する傾向がある(アントレプレナー・スクールの選択)。

出典:ミンツバーグ「戦略サファリ(第2版)」(2012)第11章

戦略とは
 ・組織変革のプロセス

戦略形成者
 ・変革推進者

戦略形成手法
 ・組織の置かれた状況に応じて、各スクールから選択する

良い点
 ・変革のプロセスを示したこと

問題点
 ・簡素化され過ぎて現実的ではない

最適な状況
 ・量子的飛躍(変革)が起きている時

研究戦略はどのスクールが適切か?

ミンツバーグは、最後にすべてのスクールを、組織のライフサイクルに合わせて次のように纏めています。

組織の発展段階における戦略形成としてのスクール

前回、考察したように、研究戦略は将来の問題児を作ることが目的でした。将来の市場がターゲットなため、研究戦略では常に予測不可能で真に新しい状況に直面することになります。また、研究は大抵知識が分散化しており、プロフェッショナル組織に近いものです。

したがって、研究戦略にはラーニング・スクールが適切と考えられます。

ラーニング・スクールの戦略は、計画的コントロールと創発的学習の組み合わせであり、必要条件はビジョンが存在することでした。そのため、いかにビジョンを示し、計画的コントロールと創発的学習をどのように組み合わせるのか、といったことが研究戦略のポイントになってくると考えられます。

例えば、プロフェッショナル組織としての病院が「患者を治す」という共通の目的のもとに組織化されているのに対して、研究部門は大学の研究室のように研究チーム毎に異なる目的を持っている場合があることです。このような場合、特にビジョンによる目的の意思統一が必要になるでしょう。




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