情報と知識の違いとは?ーDIKWピラミッドー
企業における研究マネジメントの考察(5)
企業における研究部門のマネジメントについて考えたことを整理しています。
今回は、これまで何気なく使っていた「知」の種類の違いについて考えていきたいと思います。特に、情報と知識を違うものとして扱います。
知の階層構造
情報学や認知科学では、情報と知識を分類しています。まだ、研究者のコンセンサスは得られていないようですが、データ(Data)・情報(Information)・知識(Knowledge)・知恵(Wisdom)の頭文字をとってDIKWと呼ばれています。そして、人間が情報をどのように昇華しているのかを、マズローの「基本的欲求の五段階説」のように、ピラミッド型で図示したものが下記になります。
知識と知恵の段階は、研究者によって主張が別れる点で、定義も研究者によって異なります。特に、知識を得たからといって、正しさを判断できるわけではないため、知識と知恵の間には断絶があると考える研究者もいます。その中で、Ackoffは、論理を組み立てられる段階「理解(Understanding)」が入ると主張し、上図もAckoffの主張を採用しています。
データ(Data)
Ackoffは「From Data To Wisdom (1989)」の中で、データを「物やイベントの性質を表す記号」と定義しています。Rowley(2006)では、データは「離散的で、客観的な事実または観察であり、構造化も解析もされておらず、文脈と解釈の欠如により意味も価値もない」ものとしています。研究者の間では、データは「意味を成さない」情報というのが共通認識になっています。
例えば、健康診断で測定される身長や体重は、高さや重さを表しているものの、誰の値なのかが分からなければ、単なる数値にすぎません。この場合、身長や体重は、測定された単なる事実を表すデータにすぎないということになります。
また、「りんご」「みかん」といった名称は、果物を表していますが、「りんごの旬は12月である」といった意味を成してはいません。このような名称は、単なる記号であり、データということになります。
情報(Information)
これに対して、情報は「5W1Hの質問に答えられ」、「描写を含み」、「意味を成す」ものと、AckoffやRowleyは説明しています。この他にも、「有用である」(Bellinger,2004)や「意思決定と行動に使える」(Liew, 2007)という説明もあります。古典的には、「意味や目的で方向づけられたデータ」(Wallance,2007)という定義もあります。いずれにしろ、何かしらの「意味を成している」データの集まりと考えることができるでしょう。
前述の健康診断の例で言えば、「鈴木くんは、身長が160cmで、体重が65kgである」と言われると、文脈が存在し、鈴木くんの体型を描写しているため、情報と考えて良いと思います。
知識(Knowledge)
一方、知識は、主観が入るため、一般的にはとらえどころのない概念と考えられ、大きくは3つに分類できます。1つ目は、体系化・構造化された情報で、複数の情報と文脈や経験や価値観を関連付け・合成などで処理された知見です。2つ目は、実践経験や学習によって得られたノウハウや、応用できる形になった手続きです。3つ目は、個人が正しいと感じる信念構造で、価値観や哲学を伴って内面化された情報です。例えば「人間は考える葦である」というように命題として表現されることがあります。
例えば、「鈴木くんの体重65kgは、身長が160cmの人の平均体重58kgより重たい」という記述は、身長に対する平均体重という形で構造化されており、さらに平均体重と比較することで平均より重いか軽いかを判断するという手続きが行われているため、これは知識と考えることができます。
理解(Understanding)
なお、Ackoffは、知識を分析思考によって複数の情報に分解され、how-toの形で教育で伝えられるものとし、理解を統合思考によって複数の知識が論理づけられ、whyに対して解説できるものとしています。これは、他の知識の定義における客観性と主観性を分離し、手続き部分を知識とし、主観的な解釈の部分を理解として分けたと見ることができます。ここでは、Ackoffに従って、知識と理解を分離し、知識を体系化・構造化・手続き化を通して、人に教えることができるようになったもの、理解を知識を論理で結びつけ、人に論じることができるようになったものとします。
身長体重の例で言うと、「鈴木くんの体重65kgは、身長が160cmの人の平均体重58kgより重たく、BMI=25.4で生活習慣病リスクが高まるBMI=25より高いため、肥満である」は、身長体重の知識と生活習慣病の知識を結びつけ、論理立てているので、Acknoffの言う理解になります。
知恵(Wisdom)
知恵は、理解を評価したもの(Ackoff,1989)や、行動の理由となるもの(Zeleny,2005)、あるいは善悪・正誤・倫理などの判断を伴うものなどと定義されています。これらを合わせると、正しさを評価・判断し、行動に移せる直前の知見と考えることができます。
身長体重の例では、「鈴木くんの体重65kgは、身長が160cmの人の平均体重58kgより重たく、BMI=25.4で生活習慣病リスクが高まるBMI=25より高く肥満であり、将来の疾病予防のためにダイエットしなければならない」は、前提として肥満=悪という信念による評価がなされており、ダイエットしなければならないと判断が伴っているため、知恵と考えることができます。
知の創造プロセス
最後に、知の階層はデータを知恵に変換するプロセスとしても考えられることを記しておきます。
数値などに表出化された複数のデータを解釈することで、意味を持たせると情報になります。複数の情報と、経験や学習・訓練を通して得られた情報や知識を合わせ、体系化することで知識になります。体系化・連結化された知識に論理が存在し、理由が分かることで納得できたものが理解となります。理解に対して、人間が潜在意識としてもつ信念や価値観・倫理観・道徳観と照らし合わせ、評価されたものが知恵となります。
また、このプロセスは、前回概観したSECIモデルの一部を詳細化したものとみることもできますし、組織学習の循環プロセスに当てはめることもできます。
まとめ
DIKWモデル、特にAckoffによると、知は5階層に分けられます。
(1)データ ・・・ 文字や数字などの意味を持たない記号群(渡せる)
(2)情報 ・・・ 解釈し、意味付けされたデータ群(伝えられる)
(3)知識 ・・・ 指針を持って体系化された情報群(教えられる)
(4)理解 ・・・ 評価され納得された知識(解説できる)
(5)知恵 ・・・ 倫理や道徳などで評価された理解(判断できる)
また、これをプロセスとしてみると、SECIモデルの連結化と内面化のプロセスと符合します。