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企業における研究マネジメントの考察

自分が企業の研究部門に所属しているため、企業における研究部門のマネジメントについて考えたことを整理しています。

はじめに

通常、研究は、予算を与え、研究者の裁量で研究を進め、成果を報告させる、といった流れで進められることは、どの研究機関でも変わらないと思います。しかし、これだけで成果を最大化できるのかというと疑問が残ります。そもそも、大学における研究の主な成果は論文出版ですが、企業における研究だとあえて公知にしないこともあり、成果をうまく定義できない場合があります。また、計画通りに進め、予定通りの結果が得られることが、研究の最大の成果と言えるでしょうか?むしろ、社会に貢献するような大発見は、計画に無く、想定外で、失敗した実験から見つかることが多々あります。では、計画外を計画し、想定外を想定し、実験をうまく失敗するには、どうすれば良いでしょうか?それは、どのくらいの割合にすれば良いのでしょうか?どうすれば、それを高頻度に起こすことができるでしょうか?

経営のマネジメントや事業のマネジメントに関する書籍はたくさん出版され、多様な理論や方法論が知られていますが、企業における研究をマネジメントする方法論はあまり多くありません。そこで、企業における研究マネジメントについて考察していきたいと思います。

最初は、そもそも研究とは何をする活動なのか?について考えます。

経済協力開発機構(OECD)による研究の分類

OECDは、研究を目的別に「基礎研究」と「応用研究」と「開発研究」の3つに分けて、それぞれ次のように定義しています。

基礎研究
「特別な応用、用途を直接的に考慮することなく、仮説や理論を形成するため、若しくは現象や観察可能な事実に関して新しい知識を得るために行われる理論的又は実験的研究」

応用研究
「基礎研究で発見された知識を利用して、特定の目標を定めて実用化の可能性を確かめる研究、及び既に実用化されている方法に関して新たな応用方法を探索する研究」

開発研究
「基礎研究、応用研究及び実際の経験から得た知識の利用であり、新しい素材、装置、製品、システム、工程等の導入又は既存のこれらのものの改良をねらいとする研究」

しかし、例えば、新しい製品のために新しい素材の特性を同定する研究は、目的からみると開発研究ですが、実行していることは基礎研究ですので、この定義で良いかというと疑問が残ります。

もう少し簡単に、基礎研究は「分からないを分かるに変える(知識化)」研究、応用研究は「役立たないを役立つに変える(実用化)」研究、開発研究は「良くないものを良いものに変える(高度化)」研究の方が端的で良い気がします。

大学研究と企業研究の共通点

大学などの研究機関における研究と民間企業における研究では、その目的は基本的には異なります。大きくは、大学での研究は「学問への貢献」を目的にしているのに対して、企業での研究はその企業の「ビジネスへの貢献」を目的にしています。

もちろん、経営学や商学などビジネスへの貢献を目的とした大学での研究もありますし、企業でも学問に貢献した研究も多く存在します。しかし、企業では自社のビジネスに結びつかない研究には予算が下りませんし、大学でも論文を出版しないと実績になりません。やはり、大学は「学問への貢献」が主目的、企業は「ビジネスへの貢献」が主目的と考えて良いかと思います。

しかしながら、大学であろうと企業であろうと、研究は「新奇性」が無ければ研究とは呼べません。前節の定義に従えば、基礎研究は新奇な知識を、応用研究は新奇な応用方法を、開発研究は新規な改善方法を、見つけ出そうとしています。応用方法や改善方法も何らかの知識に基づいて構築された知恵と考えれば、「研究は新奇な『知』を発見し広める活動」とまとめられるかもしれません。

科学研究と工学研究の違い

科学(サイエンス)と工学(エンジニアリング)は、理工系としてまとめて扱われることが多いですが、その研究スタンスは異なると思っています。基本的に、科学は「どのような仕組みになっているのか?」を問うのに対して、工学は「どのような仕組みを作ればよいか?」を問うていると考えているためです。言い換えると、科学は「不思議の解明」が基本的動機なのに対し、工学は「問題の解決」を基本的動機にしていると考えています。応用物理学などの応用科学は、科学と工学の中間に位置し、解明された「知の活用」が基本的動機と言える気がしています。

筆者は物理学者なので、物理学で考えてみます。

物性物理学は、物質の特性を明らかにする学問です。物質の由来する未知の現象が見つかると、その現象がどのような仕組みで起きているのかを研究します。まず、現象を構成する物質(原子や分子)を特定し、物質の間に働く相互作用(力)を仮定し、あるいは現象を引き起こす実験条件を仮定し、未知の現象を再現できるか検証します。これを繰り返して、未知の現象を引き起こすメカニズムや条件を解明します。例えば、スピントロニクスで重要な純スピン流という現象が発見されたトポロジカル絶縁体の研究では、相対論的量子力学に由来するスピン-軌道相互作用がその現象を引き起こすメカニズムとして研究されていました。このように、科学では「不思議(未知の現象)の解明」が主目的になっています。

応用物理学は、物性物理学などで解明された現象を活用したトランジスタなどのデバイスや道具を開発する研究などが行われています。物質を重ね合わせる厚さや、電流を流した時の抵抗値など、道具として使える条件を明らかにしたり、その道具を作り出す手順を明らかにしたりしています。例えば、スピン流を利用したスピントランジスタ(電流が流れないため消費電力が激減するデバイス)の研究では、数年前は薄膜積層型で作成し、薄膜の厚さをどのくらいにすると良いか、などが研究されていました。ここから、応用科学では「活用方法の解明」が主に行われていると言えそうです。

工学分野にはあまり明るくないので、定義をWikipediaから引用します。それによると、工学は以下のように定義されています。

”エネルギーや自然の利用を通じて便宜を得る技術一般”(平凡社『世界大百科事典』1988年版)
”数学と自然科学を基礎とし、ときには人文科学・社会科学の知見を用いて、公共の安全、健康、福祉のために有用な事物や快適な環境を構築することを目的とする学問(工学における教育プログラムに関する検討委員会、1998年5月8日)。ブリコラージュを含む、現実に問題を解決する方法の体系

やはり、「問題の解決」に主眼が置かれていることは間違いなさそうです。

このことから、科学には不思議が必要で、応用科学には活用先が必要で、工学には問題が必要だということも分かります。

自然科学と社会科学の違い

自然は時とともに移り変わりますが、人が存在するか存在しないかに関わらず、自然法則は宇宙のどこでも変わりません。これに対し、社会も時とともに移り変わりますが、構成要素が人である社会の法則は時代とともに変化していきます。この研究対象が、変化するのか、変化しないのかという違いが、自然科学と社会科学の大きな違いだと考えられます。

自然法則は、アインシュタインの相対性原理によって宇宙のどこでも同じ法則が成り立つことが提言されています。相対性原理は、これに基づく一般相対性理論がほぼ確からしいことから保証されています。一般相対性理論は、予測された重力レンズの観測やブラックホールの観測から実証されていますので、自然法則は宇宙のどこでも同じことは事実と考えて良いと思います。

社会を構成する人と人との関係性は、「サピエンス全史」(ユヴァル・ノア・ハラリ、2016)で指摘されたように、国家や身分制度といった”想像上の現実”に大きく左右されます。そのため、現代人の行動法則に基づく行動科学は、思想が全く異なる古代人にはおそらく適用できないでしょう。したがって、社会科学は、自然科学のように1つの例外も許さないことは現実的には不可能であり、適用条件が必要になります。

まとめ

以上から、研究は次のように分類されるのではないでしょうか。

研究の分類


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