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文字メディアの“ライター&編集者”が動画に向いていると感じる理由。動画メディアの時代こそ「テキスト操り力」がマジで大事

けんすうさんのポストが個人的に刺さったので、ウェブメディアの編集出身で現在は動画ディレクターの仕事をしている自分の気持ちをまとめてみたいと思います。

ツイートの内容をざっくり要約すると、

1. 文字メディアの人気が落ち続けている、と体感
2. それゆえにライターや編集者(手法として“文字”を扱っているプロ)は不安になる
3. しかし動画の業界こそ、編集的なスキルがめちゃくちゃ求められる
4. なのにYouTubeやPodcastにはそういう役割がいない
5. ライターや編集者がそっち方面でやってみると、すごく結果が出るのでは?
6. むしろ時代は編集者。編集者的な人の存在感はどんどん増している

という内容になっています。

自分は珍しく、このポストで触れられている“編集的なスキルを持っている動画ディレクター”に当たります。なのでこの意見にはめちゃくちゃ同意です。よく社内でも「編集者こそ動画をやるべき」と伝えてきました。

編集者としての自分の体験から、なぜ編集者が動画に向いているのかまとめます。

🤨 「編集者はテキストしか扱えないのか?」と感じた体験

私は2016年からWebメディア「ギズモード・ジャパン」の編集者としてキャリアをスタートし、サイトに掲載する記事の企画、構成、取材、編集作業(校正みたいなもの)をやっていました。

なんですが、「記事しか作れないのって変だよね」とずっと違和感を抱えていました。僕が入った8年前ですら、もう文字読むのキツいよね、と思っている人は多かったです。でも編集者とは文字を扱う職である、という認識がどこかであったので、動画にはノータッチで2年ほど編集者として修行を積んでいました。

私は中高生のときにYouTuberを見まくって、あらゆる情報をYouTubeで摂取してきた“動画ネイティブ”第一世代です。そういった背景もあり、特にノウハウはなかったのですが、ノリと独学で動画を作り、ギズモードのYouTubeチャンネルにアップしました。

▲現在、登録者数が80万人弱のチャンネルの「ギズモード・ジャパン」で初めて自分で作った動画。当時はただの編集者だった。

きっかけこそ「昔から動画を見ていた」という話なのですが、そこから上手くいったのはやはり自分が編集者としてのスキルを積んでいたからだと思います。

🎥 なぜ編集者が動画に向いているのか?

編集者が動画制作に向いている理由を説明するために、編集者の2つの特徴について触れます。

1つ目は、業界の育成力の高いことです。僕がまさにそうだったのですが、出版や新聞などの業界は歴史が長いので、新人はとにかくみっちり教育されます。文章の読みやすさ、文章の構造など「なぜそう書いたの?なぜこうなの?」と先輩からなぜなぜ攻めされます。その理由は、文章は一個の単語が抜けるだけで読みやすさが激変するからです。私もよく「手ぐせで書くな」と注意されました。話すように書くと全く伝わらないので、伝えるための書き方というのを徹底的に叩き込まれます。

2つ目は、編集者は論理性が高い傾向にあることです。文章で意見を主張するか、情報を伝えるには、必ず論理性がベースに必要です。人間が積み上げてきた言語のルールを理解して、「伝えたいことがちゃんとそのルールに則っているか?」を確かめるスキルが、1つ目に関連して編集者はめっちゃ高いです。

編集力もピラミッド。ぜひ周りの編集者の方にもシェアしてください(著者作)

編集のプロになればなるほど、このピラミッドの一番下の部分に時間を使っています。

なぜなら創造性が100点の記事があったとしても、論理性が30点なら、それは30点分しか創造性が伝わらないからです。読者に読んだときに、純度100%でなるべく面白く伝えるのが編集者の本分であり、そのためのスキルをたくさん持っています。

そしてこれは動画でも同じなのです。書き言葉と喋り言葉という違いはあれど、ベースの論理性は同じです。動画ならでは話の持っていき方、みたいな固有のテクニックはあるっちゃあるのですが、それよりもっと大事な「頭で考えていることを他人にちゃんと伝える力」がすでに編集者にはインストールされています

✂️ 編集者はカットが上手い

私がもっとも編集出身のディレクターと、動画出身のディレクターで違いを感じるのはインタビュー・対談系の動画です。

例えば「PIVOT」や「キオク的サンサク -記憶的散策-」「丸山ゴンザレスの裏社会ジャーニー」のようなチャンネルです。一字一句まできっちりとした原稿がないフリートークスタイルの動画のことです。

どこで一番違いを感じるかというと、カットの質です。ありがちなのが、「あー、えー」といったフィラーワードや、言い直した言葉だけを時系列順にカットするだけの編集です。

ただ、(文字メディアの)編集者的にいうと、必ずしも時系列順で伝えることが面白いわけではないはず。収録したときは「A→B→C→D」でも、完成版ではBパートとDパートは話が似てるから、まとめて「A→BD→C」にしたほうが面白いケースがあります。編集者は、話の関連性を見つけるスキルが高いので、インタビュー動画を編集者に編集してもらうと、短い時間で面白いところが凝縮した動画になることが多いんです(もちろん、順序を組み替えることで話者の意図からズレないように注意しています)。

これは、編集者がインタビュー系の原稿を詰めるのに慣れているのが影響していると思います。編集者は、“話してる内容はめっちゃ面白いけど、話が長い人”をたくさん取材しています(失礼ですが、面白い人ほど話は上手くなかったりするんです笑)。そういう面白い人を、読者にも純度100%で面白いと思ってもらるよう、ポストプロダクションでなんとか形にして公開までこぎつける仕事が本当に多いんです。

なので編集者はこういう言語をベースにしたインタビュー動画や対談動画、はたまた一人語り系の動画(製品レビューとか)にめっぽう強いです。自分で撮ったり編集したりしなくても、例えば原稿を作ったり、企画を構成するという形で動画に関わることもできるので、必ずしも動画を撮ったことがないから動画メディアに関われないということではありません。

さらには、動画の業界では一定数「ノリで作る人」というのが存在します。言葉のカッティングが甘かったり、ポストプロダクションでなんとかするスキルを持っている人が実はまだそんなに多くない印象です。ここは編集者の席が空いています。

これはカット=時間を詰めるものと捉えているのか、カット=論理を組み替えるもの、と捉えているのかの違いだと思います。報道的な映像であれば前者の意識も必要ですが、面白く見続けてもらう必要があるコンテンツなら後者の意識でカットしたほうが面白い動画になる場合が多いように思います。

🎓 編集者として動画をやる感覚

冒頭のポストに関連してですが、実際に文字メディアの売り上げは落ちています。現状維持することで精一杯、文字メディアだけで伸びているところはかなり少ないです。

ところが私が担当していたギズモード・ジャパンの動画メディアは、YouTubeは現在80万人弱、TikTokも50万人弱のフォロワーがいます。なので「ギズモードは読んだことないけど見たことはある」というファンが今はかなり多いんです。ちなみに20歳の妹もギズモードを知っていました。テキストメディアしかやっていない時代から知っている人はびっくりだと思います。

この状況を作るためには、やはり動画が必要でした。どんなに記事を洗練させたとしても、記事メディアだけ難しかったと、自分で両方やってみて感じます。テキストで若い人の心を掴む、というのはあまりにも膨大な投資が必要だからです。

とはいえ、文字メディアは弱いのか、と言いたいわけではありません。媒体の良し悪しとか、「動画ができないとヤバい!」ということではなく、本来的に編集者の思考というは、媒体が変わっても、時代が変わっても、天変地異が起きても、かなり汎用性があると思うのです。

自分が編集者から動画ディレクターにシフトしても、編集長とのミーティングで話すことはいつも「動画を使って、どうギズモードのブランドを作っていくか」ということばかりでした。ブランド戦略を綿密に考えたうえで、伝わるものを作るという作業は、たとえ最終のアウトプットが文字でも動画でもPodcastでも全て同じなのです。

動画ディレクターとして働いていたときも、ずっと「編集者をやっている」という感覚で居たので、編集者というのは元々そういう職なんだと思います。

🌍 “専門家”ほどキツくなる世の中へ

私の経験上、まだ「テキストメディアは編集者のもの。動画メディアは動画出身の人のもの」という感じで捉えている人が多いように思います。どこかで、媒体と業界がセットであるという意識がまだ強いのだと思います。でも今は、誰が何をやっても良い時代です。

例えば、テキストコンテンツから始まったWebサイトも、YouTubeチャンネルを持っています(ギズモード・ジャパンオモコロなど)。雑誌から始まったメディアもYouTubeチャンネルを持っています(WiredVogueなど)。一方で、映像畑のテレビ局がニュースサイトを運営することもあります(NHKニュースFNNTBSなど)。

このような状況を「媒体の手法化」と勝手に呼んでいます。あくまで動画やテキスト、音声、は職業や業界ではなく、情報を伝える手法でしかないのです。

逆に言うと、必ずしも「動画制作の手法を知っていれば、面白い動画コンテンツが作れる」「ライティングや編集の手法を知っていれば、面白い記事が書ける」というわけではないということです。

手法の専門家で居続けることは、一部のトッププロを除いて、ポジティブとは言えない時代に突入していくのだと思います。

🧠 「媒体の手法化」はAI時代でどんどん進む

その背景には、iPhoneで誰でも簡単に撮影できるようになった、Adobeが月額1万円以内で使えるようになった(昔は数十万で購入する必要があったと聞いています)といった、参入障壁となっていた道具やノウハウのディスラプトが大きく影響していると思います。

これは生成AIによって今後も加速していきます。すでに使えるツールに目を向けても、Adobeの動画編集ソフトには「文字起こしベースの編集」という機能が去年追加されました。

これはAIが、動画で喋った言葉をすべてテキストに書き起こします。このテキストをトルツメしたり、段落・文節を入れ替えると、そのテキスト通りに動画も編集されるという機能です。インタビュー記事を作るかのように、動画を作れます。

そして動画は撮る必要すらなく、文字を元に作るものになるというのは、OpenAIのSoraRunwayで作られた映像を見たことある方はご存知かと思います。

そうすると必要なのは、頭のなかで面白い企画を思いつく能力と、それを言語化する能力です。もはや編集者の得意な領域に、動画業界のほうから食い込んできます。

これから多くの人が言語化力、文章力のトレーニングを始めるようになると思います。頭にあることを言語化したり、相手に応じて伝え方を調整する能力はすべての制作の基礎になっていくことでしょう。

✍️ 編集者・ライターが明日からできること

という話を踏まえて、もしこれをライターや編集者が読んでいましたら、明日から何ができることをまとめて締めたいと思います。

会社に勤めている人

参加しているプロジェクトで動画が絡んでいる案件があれば、どんどん手を上げて良いと思います。未経験とか気にせず行きましょう。それに不安を感じる上司より、新しいことに挑戦してくれることに嬉しさを感じる上司のほうが絶対に多いです。

ただ、「メディアがYouTubeやTikTokを始める」ということはすでに成熟し切った感があるので、始めること自体にレバレッジは効きづらい状況にあると思います。なのでむしろ慎重にやってみましょう。自分で撮ったり編集することに固執しなくて大丈夫です。むしろそれは実装のプロ(カメラマン・編集マン)がいるので、自分は発想・発注のプロになりましょう

まずは「何が揃えば制作が進めやすいのか」という要件をプロに聞いてください。料金や締め切りなど、テキストの発注と共通しているところもありますし、動画の完成尺やテロップの量など、動画固有の要件もあります。プロは発注側が少々無知でも怒りません。なのでとりあえず聞いてみてください。周りに動画のプロが居なければ、僕にDMでご連絡ください。良い人を紹介します。

フリーランス・自営業の人

とにかくなんでも良いので動画を撮ってみてください。顔出しはしなくても良いです。おすすめは、自分の好きなものや最近ハマっていることなど、熱量を持って話せることです。それを誰かに布教するようなイメージで喋って撮ってみましょう。例えば、「筋トレにハマってるんですが、筋トレをすると早寝早起きになるんです。だから筋トレをしましょう」みたいなイメージです。

撮ったものはどんなソフトでも良いので編集してみましょう。動画編集が初めての方は無料のCapCutCanvaCapsuleといったウェブツールで編集してみてください。TikTokのアプリで撮ればそのまま編集できるので、それでもOKです。

作業はカットだけで良いです。字幕やBGMは入れなくてOKです。まずは自分の話が一番面白く聞こえるよう、要らない話をカットしたり、話の順番を変えてみたりしてみましょう。一番のオススメは1分の尺にまとめることです。1分の尺にまとめることができれば、ショート動画として立派に成立します。大体1分の動画は400~500文字で構成できるので、フリーで話すのが苦手な方は原稿を作って撮ってみてください。

そして完成したら誰かに見せてみてください。布教が成功したら、もうあなたは動画のプロです。そのままYouTubeとかTikTokにアップロードしちゃっても良いです。もし長期目線でのアドバイスが欲しい方がいましたら、私にDMしてもらえればお返事します。「じゃあこういう発信を続けてみませんか?」みたいなことはアドバイスできます。

ここまで長文と読んでくださりありがとうございました。
手法のプロではなく、発想のプロになりましょう!


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