「インスリンの働き」初級講座③ ブドウ糖の取り込み
前回はブドウ糖が骨格筋の細胞に取り込まれるメカニズムについてお話ししました。
念のため、確認ですが……
あくまでこれは
骨格筋の細胞での出来事です!
骨格筋以外の主要な臓器や組織は、インスリンがなくてもブドウ糖を取り込むことができます。
インスリンに頼り切っているのは、実は骨格筋だけなのです。
なぜ他の皆さんは、
インスリンなしでいけるのか?
骨格筋が使っている扉(GLUT4)とは違う扉を採用しているからです。
たとえば、脳細胞に多いGLUT1は初めから細胞膜の上にいるので、インスリンの助けはいりません。
GLUT2も初めから細胞膜にいるので、インスリンを必要としません。
こちらは、状況に合わせてブドウ糖を細胞に入れたり出したりする、双方向のゲートになっています。
細胞外のブドウ糖濃度が細胞内の濃度より高い時は、ブドウ糖は細胞の外から内へ移動します。
濃度差が逆になると、ブドウ糖は逆方向へ移動します。
このGLUT2の作用によって、肝臓では細胞外と細胞内のブドウ糖濃度がいつでもほぼ等しくなっています。
肝臓にGLUT4はないので、肝臓はブドウ糖を取り込むのにインスリンを必要としません。ただ、間接的にはインスリンのサポートを受けています。
どういうことかと言うと…
肝細胞の細胞膜の上にもインスリン受容体があります。この受容体にインスリンがカチリとはまると、グリコーゲンの合成が促されます。
肝臓内でうろついていたブドウ糖がどんどんグリコーゲンに変えられていくと…
細胞内のブドウ糖が減りますから、(GLUT2によって)ブドウ糖が取り込まれやすくなります。
主な臓器がどのGLUTを使っているかを、簡単にまとめておきました。
GLUT1 インスリン不要 脳や赤血球に多い。
GLUT2 インスリン不要 肝臓、腎臓、小腸上皮細胞などに多い。
GLUT3 インスリン不要 神経細胞に多い。
GLUT4 インスリン必要 骨格筋に多い。脂肪細胞や心筋にも。
「使えるGLUTはおひとり様1種類まで……」
といった、セコいルールはありません。
心臓や脂肪組織は、2種類のGLUTを併用しています。
ですから先ほど、2枚の札を上げていたのですね。
脂肪細胞でのインスリンの働きについて、補足説明しておきましょう。
脂肪細胞の場合、インスリンは2つのルートでブドウ糖の貯蔵を促します。
1つは、骨格筋と同じくグリコーゲンにして貯蔵。
もう1つは、ブドウ糖を脂肪に変えて貯蔵、です。
糖質を摂り過ぎた時に、体脂肪が増えてしまう理由の1つがコレです ↓ 。
インスリンは別のルートでも体脂肪を増やします。そちらは「インスリンの働き初期講座⑤」でお話しします。
最後に、ブドウ糖とインスリンのかかわりをまとめておきましょう
食事から摂った糖質は、消化されて大部分がブドウ糖になります。
ブドウ糖は腸から吸収され、まず肝臓に運ばれます。
肝臓に入ったブドウ糖の約3割は、肝臓の中で貯蔵されます(グリコーゲンのかたちで)。
残りのブドウ糖は、全身を巡る血液循環へ送られます。
食後は血液循環にブドウ糖が増えるわけですが、その約8割を骨格筋が引き取ってくれます。それによって、血糖値が下がります。
脂肪細胞も、サブのブドウ糖(+脂肪)貯蔵庫になります。
その他の臓器には、「ブドウ糖の倉庫」的な性質はなく、今必要なだけのブドウ糖を少量ずつ取り込んでいます。
食後に上昇した血糖値(=血中のブドウ糖濃度)は、ピークを過ぎれば下降カーブに入ります。
なぜ、血糖値が下がっていくのかというと、繰り返しになりますが、血中のブドウ糖を骨格筋が引き取ってくれるからですね。
食後に血糖値をうまく下げられるかどうかは、どれだけ骨格筋がブドウ糖を引き取ってくれるかにかかっています。
そして、骨格筋のブドウ糖の取り込みは、インスリンによってスイッチのオンとオフが切り替えられています。
そういう仕組みですから、血糖値を下げるカギを握っているのは、インスリンだと言えます。
インスリンは、
血糖値を下げること
のできる唯一のホルモン
人体には、血糖値を上げるホルモンは10種類くらいありますが、下げるホルモンはインスリンしかありません。
もし、血糖値が高すぎる人がいたら、考えられる状況は2つあります。
1つ目は、インスリンが足りないこと。
2つ目は、インスリンがうまく働いていないこと、です。
これは、インスリン抵抗性が高まっている状態です。
インスリン抵抗性のトラブルは多くの人が抱えていて、肥満、メタボ、生活習慣病のリスクを高めると考えられています(詳しくは「インスリン初級講座⑦で」)