【日記】Jリーグと甘美な人生 「サガントス」ってどこの国のチーム?
「Jリーグはレベルが低いから見ない」という言葉をよく耳にする。かく言う自分も中学生のときにこの台詞を言って、今でも忘れられない羞恥の記憶をこの身に刻みつけることになった。
欧州サッカーは今と違って深夜にBSで放送されていた。それを何とく見始めたのが今に続くフットボール観戦との出会いだ。それからウイイレにハマり、FIFAにはまり、最初に好きになった選手はアデバヨールだったのを何故かはっきりと覚えている。学校でも休み時間はサッカー好きの同級生と色々な選手や試合の話題で盛り上がった。漠然と欧州サッカーのカッコ良さに惹かれていた。
そんなある日の休み時間のことだ。席が隣だったアルビサポーターの女の子Nちゃんに昨晩のプレミアリーグの試合がどんなに凄かったのか物知り顔で語って聞かせていた。Nちゃんは毎週末ビッグスワンに通うほどのアルビ好きだった。しばらく頷いて話を聞いていたNちゃんが突然こんなことを聞いた。
「Jリーグの試合は観ないの?」
すると近くにいったサッカー部のSくんが横から割り込んできて言った。
「ヨーロッパのサッカー好きなやつに限って知ったかぶりするやつが多いし、Jなんて全然知らないからな」
「そうなの?」Nちゃんが言った。
「実はあんまサッカー知らないやつが多いよ」
「知ってるよ!」僕は叫ぶように言った。
「じゃあ問題出してやるよ」
「いいよ、何でも答えるよ」僕は半分ムキになっていた。
「じゃあ簡単なやつな、わからなかったらマジで恥ずかしいやつ。サガントスはどこの国のチーム?」
Nちゃんが不思議そうな顔をしてSくんの顔を見ていたのが思い出される。
その時の僕は「サガントス」という響きに全く聞き覚えがなかった。頭のなかは焦りに焦り、当てずっぽうに言ってやるか、どうにかして誤魔化すしかないと考えていた。
「ヨーロッパのあんまり強くないチームでしょ?」と結局僕は言っていた。Nちゃんはきょとんとした顔をした。
「ほらね」とSくんが呆れた顔をした。
Nちゃんが少し遠慮がちに「サガン鳥栖は日本のチームだよ」と言った。
僕は恥ずかしくなって苦し紛れの言葉を言い放っていた。「Jリーグはレベルが低くくて観ないから、そんなチーム知らないよ!」その時のNちゃんの悲しそうな顔を今でも忘れることができない。
それから少しして、父親に誘われて初めてアルビの試合を観に行った。たしか、浦和とのホームゲーム。初めての観戦はホームS席だった。試合には負けてしまったがスタジアムの臨場感と熱気には凄まじいものがあった。
もっともっと色々な試合を観るようになった。親に頼み込んでJスポーツに加入した。ビッグスワンにも何度も足を運んだ。録画放送で観た「イスタンブールの奇跡(04/05シーズンヨーロッパチャンピオンズリーグ決勝・リバプールvsACミラン)」であっという間にリバプールというチームに魅了された。リバプールの試合をできる限り毎試合見るようになった。携帯電話を手にしてからは色々なことを調べた。
何より心を惹かれたのは、サポーターの情熱と、その情熱が築き上げた歴史だった。「You’ll Never Walk Alone」の大合唱の意味を知った。地元のKOP(リバプールファンの呼称)がカッコよくて仕方がなく、心から憧れた。それと同時に、自分の地元にあるアルビレックス新潟もJリーグも全然知らない、知ろうともしない自分が情けなく、とてもカッコ悪く思えた。
あれから15年以上の時が過ぎた。片隅のにわかサポながらずっとリバプールとアルビレックス新潟の試合は様々なかたちで毎週欠かさず見続けてきた。全然フットボールに詳しくなったわけではないけれど、自分の生活の基底部分に間違いなく根付いてきたものだ。何度眠い目をこすって、学校や仕事へ行っただろう? 第一志望の受験前日の夜でさえ、泊まっていたホテルで、深夜までスマホの画面を見つめていたものだ。
アルビが勝てば酒が美味い、リバプールが勝てば一週間はご機嫌だ。アルビが負ければ、夕食は不味くもなるし、リバプールが負ければ、最悪で陰鬱な一週間を迎えることになる。
フットボールは人生とともにあるからこそおもしろい、と思う。色んな見方がある、特定のチームを追いかけるだけが見方ではない。趣味を超えて、心に自分のクラブを抱える「人生」は辛く苦しいものにもなりうる。だから決してオススメはしない。そんな生き方はバカのすることだとすら思える。そこに一度足を踏み入れれば「やめる」だとかいった概念は存在していないのだから、逃げることも、隠れることもできないのだ。
けれど、これだけは言っておきたい。重要なことだ。あなたに問う。そこに足を踏み入れること以上に甘美な人生など果たしてあるのだろうか?
終わり。