ソーシャルディスタンスが作りだすサービス
緊急事態宣言の解除、休業要請の解除にむけ、それぞれの業界から営業再開にあたってのガイドラインが公表されています。そして、それらには消毒の徹底、事業者とお客の体温測定、換気、接触の防止などとともに、可能な範囲でのソーシャルディスタンスの確保のための施策が記されています。
これらの施策の中で、もっとも難しく、判断が難しいのが、ソーシャルディスタンスをどの程度徹底するのかということのようです。特に鉄道やバス、航空機といった公共機関、劇場などでの公演、では提供するサービスのキャパシティに対する充足率が売上・利益に直結しているため、ソーシャルディスタンスを確保するということは、現在の提供単価ではビジネスとして成り立たない可能性があるということです。
交通機関は、赤字覚悟でソーシャルディスンスの確保に踏み切るところも出ています。これは、サービス提供の継続という社会的使命を果たすことを優先するということなんだろうと思います。下記はJALにおける当面の対応ですが、一方でIATAはソーシャルディスタンス確保は必須ではないという声明を出しています。これは確保が必須になれば航空業界は成立しないという危機感ではないかと思います。
機内におけるソーシャルディスタンシング対応について (@JAL Web Site)
鉄道やバスは、日頃から満員での運行を前提としており、これを認めるのかどうなのかは大きな課題のように思います。少なくとも着席ベースであれば、大概の場合は向き合う形での距離は保たれるので、その程度の乗車率に抑えるのかどうかは大きな課題でしょう。ただ、通勤電車は比較的頻繁にドアの開閉があること、窓を開けることができることが多いことは、メリットでしょうか。
新幹線などの長距離列車の場合は、一方向に向かって座ることが多いので、向き合うリスクは低いように思いますが、航空機と同様の対策をすると、乗車率を半分程度に抑えなければならないかもしれません。
公演やイベント、スポーツについてはどうでしょう。
プロ野球の開催で先行した台湾では、当初は無観客試合からスタート、そして今はソーシャルディスタンスを確保するため入場制限をしての観客試合となっています。使用できない座席にはその旨の表示がされ、ニュースでの映像で見る限り数席にひとりくらい割合しか入れていないように感じました。
ドイツも今週末からサーカーリーグを無観客で再開しました。プロスポーツは興業収入という観点で見たときには、リアルな入場料金だけでなくテレビ等での放映料もあります。一方でコストは選手の年棒が大半と見られ、これは固定費ですから、売上を多少でも確保するため、無観客もしくは入場者を大幅に絞って再開という選択肢があるのでしょう。
いっぽうで、各種のライブや公演については、一部を除いては観客の入場料が収入のすべてになりますから、仮に席数を半分にするのであれば料金は倍に、1/3にするのであれば3倍にしないと採算が取れないということになります。プロスポーツと異なり、イベントプロモーターが主催することが多い音楽公演などでは、出演者のギャラや施設使用料などほぼすべてが変動費ですから、チケットを2倍、3倍の価格で売ることができなければ、その分はすべて赤字になりますので、イベントを企画開催すること自体が難しいということになります。日頃からチケットにプレミアがつくような一部の人気アーティストでしか成立しないのではないでしょうか。
仮に出演者が自ら企画して、自らの収入を大幅に減らすことで公演としての利益をトントンにすることができるのであれば、もしかしたら成り立つかもしれません。これもまた、そんなことができるのは高い出演料をもらえていた一部のアーティストだけでしょう。
一番厳しいのは芸能、芸術の世界でしょう。知り合いの能のシテの方によれば、すでに夏までの公演はすべて中止を決定、その後についても、ソーシャルディスタンスを確保しようとするならば、赤字覚悟かチケットを倍以上にしなれければ成り立たない、しかしそれではチケットを買ってもらえないだろう、とのことでした。
チケット価格をそのままもしくは多少の値上げに抑えるためには、有料のオンライン配信というのを企画、販売していく方向にならざるを得ないのかもしれません。またライブ配信である必要はなく、映像や音声のコンテンツとして販売でもいいでしょう。課題は、ライブであることのプレミア感(臨場感、一体感)がないコンテンツにどれだけのニーズがあるかということでしょうか。
でもまずはやってみないとわからないですよね。実際、すでに多くの落語家が有料オンライン配信を始められていて、これを楽しんでいるかたもそこそこいらっしゃるようです。
ソーシャルディスタンスが作りだす世界では、外食も交通機関も、そしてライブ・公演も、リアルな時間と空間に対するサービスはプレミアム化するということ、そしてオンラインやバーチャル空間でのサービス化が加速するということなのだと考えられます。
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