落語「ボーナス調べ」
※志ん朝シショーの「大工調べ」を聴いた後で読んでいただくと、よりお楽しみいただけるかもしれません。
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ボーナスは、どの人にとってもありがたいものでございます。
人によっては、ボーナスが入ってくることを当て込んで、品物の方を先に買っちゃうなんてこともありましょう。まぁ、私のことなんですけども。
家のローンの返済にだって、ボーナス払いを組み込んだりして、なるたけ早く返済を終わらせようと躍起になるわけです。まぁ。ウチのことなんですけども。
何かってぇとアテにしているボーナスが、現金ではなく現物支給になったりしたら、コレは大変なワケです。
なにせ、こちとら先に品物買っちゃってるし、ローンにも組み込んじゃってますから。
死活問題なワケですよ!!!
ちょっと熱くなってきましたよ!
なんか分かんないけど。
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与太郎:ただいまぁ~。
ヨメ:おかえりなさい。
今日はボーナスの日よね。
ちゃんともらえた?
与太:え、う、うん。
もらうにはもらったけど…。
ヨメ:なに? 歯切れが悪いけど。見せて。
与太:見たいの? どうしても? 怒らない?
ヨメ:はっ? どういうこと?
いいから見せて。早く!ちゃっちゃと!!
与太:もう怒ってる…。はい。
ヨメ:……。……。……。なにこれ?
与太:キムチとチョコレート。
ヨメ:見りゃ分かるわよ。
何でキムチとチョコレートを
持ってきてんのかって聞いてんの。
与太:いや、あの、それがボーナスだって。
社長が言うもんだから。
ヨメ:それであんた、おめおめ帰ってきたの?
バカッ!どうすんのよ!
ボーナス払いのものが色々あるのに!
キムチとチョコでどう払うってのよ!!
与太:キムチじゃ質屋に入れられないよねぇ。
ヨメ:当たり前でしょうが!
今から社長の家に行って直接話し聞くわ。
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ピンポーン
社長夫人:あら、与太郎さん。奥様も。
いらっしゃい。
ヨメ:いつも主人がお世話になっております。
社長さんはご在宅でしょうか?
夫人:主人ですか? はいはい。おりますよ。
ヨメ:ちょっとお話しがございまして。
夫人:ここじゃなんですから。
どうぞ、お上がりになってくださいな。
ヨメ:お邪魔します。
夫人:あなた、
与太郎さんと奥様がお見えですよ。
社長:やぁ、どうも。いらっしゃい。
ヨメ:夜分に失礼致します。
社長:お母さん、お茶を頼みますよ。
それで、どうしました?
ヨメ:今日いただいたボーナスのことで。
ちょっとお聞きしたくて。
社長:ボーナス…はぁ。
ヨメ:うちのが持って帰ってきたのが、
キムチとチロルチョコでしたので。
何かの手違いかと思いまして。
社長:あ、いえ。手違いではないです。
ヨメ:むしろ手違えであって欲しかった。
どういうことですか?
社長:いえね、うちも零細企業でして。
苦しいんですよ。経営が。
ヨメ:あぁ、経営のご苦労もございましょう。
それにしてもチョコとキムチってのは、
一体どういうご了見で?
社長:チョコっとキムチ(気持ち)
ヨメ:やい!クソっ!!!! ※大声
社長:お母さん、逃げなくていいんだよ。
何も奥さんも、
取って食おうってわけじゃないんだ。
逃げるなら一緒に逃げようじゃないか。
薄情だね、お前さんも。
どうしたんです。
急に大きな声を出したりして。
ヨメ:大きな声は地声だ!
まだまだ迫り上がるぞ、この豚野郎!
社長:ぶ、豚って。
仮にも社長のあたしをつかまえて
豚とは何ですか。
ヨメ:豚みてぇにブクブク太ってやがるから
豚野郎ってんだ!
豚が嫌なら貧乏人の気持ちも汲めねぇ
眼も鼻も血も涙もねぇ
のっぺらぼうの丸太ん棒だ!
呆助、藤十郎、ちんけいとう、
株っかじり、芋っぽりめ!!
チョコとキムチで
『チョコっとキムチ』だぁ?
くだらねぇダジャレで
はい、さようでござんすかって
頭を下げるような おあねえさんとは、
おあねえさんの出来が
ちょいとばかり違うんでぇ。
だいたいキムチをケチってひと口パック、
チョコがチロルチョコってのも
気に入らねぇ。
キムチだったら‟こくまろ”
チョコは‟ゴディバ”か‟ロイズ”ぐらい
寄越せってんだ。
私腹ばっかり肥やしてやがる、
てめぇの所業を並べて聞かせてやるから
青くなったり、赤くなったりするなよ。
社長:あたしゃトマトじゃないよ。
ヨメ:桜田淳子の気まぐれヴィーナス
みてぇなこと言うない。
社長:あたしが何をしたっていうんですよ。
ヨメ:何をしたかって?
従業員に払うもんも払わねぇで
よくも言いやがる。
夏と冬のボーナスカットして、
てめぇらだけで正月はハワイ、
盆はドバイに行ってんのを知ってんだ。
やい、そこのババアが似合いもしねぇ
ブランドバック持ってんのも
月々の給料をケチってるからだろうが!
何がケリーバックだ。
ケロヨンみてぇな面ぁしやがって。
税金もチョロまかして、
ババアのジミーチュウの靴箱に
二重帳簿を隠してんのを知ってんだ。
社長:に、に、二重帳簿って。なんでそこまで。
ヨメ:国税局に畏れ多くもと訴え出れば
両の手にワッパが掛けられるんだ。
てめぇが払うもんも払わねぇから
一家で首くくったうちが何軒もあるんだ、
この人殺し!
おぅ、与太ぁ。おめぇも何か言ってやれ。
与太:もう、帰ろうよ。
ヨメ:バカ野郎!
あたしがここで何してるのか
分からねぇのか。
与太:なんだか喧嘩みたいだ。
ヨメ:喧嘩んなっちゃってんだ、立派な。
こんなデブに好き勝手されて
腹が立たねぇのか。
与太:腹立ててもいいけど…。
ヨメ:義理で腹ぁ立てんな。
行きがけの駄賃だ、何か毒づいてやれ。
与太:よ、よし、毒づいてやるぞ。
やい、社長さん。
ヨメ:‟さん”なんぞ、いらねぇ。
与太:あ、はい。やい、社長。
税金ごまかして、こんな立派な家を建てて
おめでとうございます。
ヨメ:何を言ってんだ、しっかりしろ。
与太:しっかりするぞ、コノヤロー。
やい、社長。豚肉より牛肉を食べさせろ。
ヨメ:そうだ、もっと言ってやれ。
与太:冬のボーナスは棒とナスだったろう。
あれは焼きナスにして
おいしくいただきました。ごちそうさま。
ヨメ:バカ!礼を言ってどうすんだよ。
そうだ、冬は棒とナスだったよ。
毎度、毎度、くだらねぇダジャレで
茶ぁにごしやがって。
与太:お茶がにごってるぞ。
ヨメ:お茶ってのは、にごってんだよ。元から。
与太:そうだ、にごってるんだ。
このお茶はお抹茶ですか?
大変おいしゅうございます。
ヨメ:バカ!ほめてどうすんだよ。
与太:チロルチョコはビスチョコが大好きです。
ありがとう。
ヨメ:またお礼言っちゃったよ。
与太:来年のボーナスは麻婆ナスがいいです。
ヨメ:リクエストしてんじゃないよ。
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これから、この嫁がお上に訴えて出ます。
「ボーナス調べ」の序でございました。
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