まどろみとまばたき
寝そべる犬の吐息をふくらはぎに感じながら雨の音を聴く。外は嵐、部屋は暗し、犬は愛おし、さながらいとおかし。
高い天井に見える壁の模様が、台風の進路予測図に見える。風が唸りを上げて雨戸を揺さぶり、鈍い金属音が断続的に轟く。犬は静かに寝息を立てている。
臆病な保護犬を迎える覚悟をした。母胎感染のバベシア症でハゲ散らかし、見るものすべてを警戒していた犬は、昼下がりの嵐の中でも眠れるようになった。その夢を邪魔しないよう、時間をかけて寝返りをうつ。
尖った石が敷き詰められた冷たい水底を、裸足で歩いている。つまり「今は耐えられる程度」の不快感。足の感覚が麻痺するのか、苦痛故に陸に上がるのか、今はまだ分からない。或いは、耐え続けた結足の角質が途方もなく硬くなって、本当になんともなくなる未来もあるかもしれない。
いずれにせよ、大気に触れた身体は暖かく、凍えずに生きていられることが救いである。そして同時に、ひどく残酷だ。
強さとは、どうしてこんなにも、遣る瀬無いんだろう。
暗い部屋の中。iPhoneの光を反射するシルバーのネイル、雨戸を殴る風の音、ふとももに当たる愛犬の寝息、柔軟剤と混ざった獣のにおい。今わたしが最大限に受け止められる、わたしだけの世界。
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