引用日記⑲
山城と番場によれば,「少年たち」の章で注目すべきなのは,実はジューチカという犬の「復活」の場面である。イリューシャはもともと,野犬の一匹をジューチカと名づけてかわいがっていた。けれどもあるとき,スメルジャコフに唆され,針の入ったパンを食べさせてしまう。ジューチカは泣き叫んで走り去り,そのまま消えてしまった。病床に伏せたイリューシャは,そのことをずっと気に病んでいる。そこでコーリャは,そっくりな犬を探し出し,イリューシャに贈ることにする。発見された新しい犬はペレズヴォンと名づけられ,ジューチカではないことになっている。しかしイリューシャは,ペレズヴォンをひとめ見てそれがジューチカだと確信し,たいへん喜ぶことになる。その犬がほんとうにジューチカだったのかどうかは,だれにもわからない。研究者のあいだでも(そのような研究がされていることそのものが驚きだが)諸説あるらしい。
東浩紀『ゲンロン0 観光客の哲学』(ゲンロン、2017年)
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