引用日記②

 ともかく、庭というのはひとつのとても深い意味をもった概念で、それを植物や岩や石や水の流れなどを組み合わせて表現するときには、私たちのよく知っているあの庭園としての庭がつくられてくるし、空中に自由自在にボールを蹴り上げるスポーツとして表現されるときには、「蹴鞠の庭」などと呼ばれるものができてくるし、商品が自由に交換されていく空間は「市の庭」と呼ばれることになる。
〔中略〕
 法廷は「裁きの庭」である。この「庭」の中に立つと、いままでどんなに権勢をふるっていた人でも、お金持ちだった人でも、だれもが平等に「法の正義」にしたがわなければならない、というのが定めである。「庭」という言葉のついた場所は、こうしてたいがいが人間を超越した原理や力の支配している、自由と平等のゆきわたった空間としてつくられてきた。

中沢新一『アースダイバー』(講談社、2005年)

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