庭、あるいは保坂和志論①
午前中、夏子は青空文庫で寺田寅彦の「庭の追憶」という短い随筆を読んで、自分の実家の小さな庭のことを思い出していた。高知にある夏子の実家の庭には一本の花梨の木が生えていた。秋になると黄色くてゴツゴツした花梨の実が枝の先にぶら下がったり芝生の上に転がったりしていて手に取って鼻を近づけてみると独特の甘い匂いがした。蜂蜜に漬けて食べたりすることもあるとあとで知ったけど、当時はあんまり食べものとは思ってなくて玄関のところに置物みたいに飾ったりしていて実際食べたこともたぶんなかった。当