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あまりにも猫の口から漏れる春 駅ビルや汗ばみながら畳む布 新米のやけに立ち止まりたくなる 冬紅葉きみに耳たぶあるような
髪洗いながら転職活動す 眠きこと鉛のごとし夜の秋 水のなかに水こぼれゆく谷崎忌
黒板に白墨涼しアラカルト 赤椅子は等間隔や夏の果 コンプレックスと差し出す冷奴
水落ちるほど杉のびる夏木立 滝は針ひとの気配として供花 西日さし行きしと同し運転士
茄子の味あつまれそうでむずかしい 夕凪に黒糖パンをあたためて 短夜はカオマンガイのなかにある
青蜻蛉そろそろ変化が必要だ ともだちの多さ かかとの爽やかさ ケインズか秋思のせいにしてしまえ
やることをやったら食べるわらび餅 花・水・木 重なり合っているベン図 疲れてる踊を見るのが好きだ僕も
映ったら教えてという大晦日 凍て星やかつて憶えたかった歌詞 初御籤ひきつづけてるような恋
雪解けの音のそっくり猫となる やや沖にソフトクリームみたいな火 半券を返す手順や木染月 折紙に十一月のねむりかた
シャッターを切るとき日傘を持ってあげた 夏終る夢で見た誰かの裸足 小鳥来ておなじ名前で呼び合って 正統のおかげで異端はあると処暑 スリットの揺れとしてある秋うらら 通過駅の球場光る白露かな 不安さに時間を止めて秋の夜は
卒園式的な人混み横切って 来年の春まで届けブーメラン 空っぽのペットボトルのような夏 蟬時雨かと思ったら蟬時雨
立冬のまた遠くなる河口かな 存在しない妹と見る遊覧船 梅咲いて添付ファイルの重くなる
死ぬときは噓つき放題春の暮 大試験十七歳のリテラシー オーディションされてるみたい青葡萄 アイスコーヒー感謝するのがむずかしい 愛は火に恋はオクラに喩えられ 夏雲や誰かと喧嘩したくなる 遠因のひとつとしての夏未明 海の日の田舎の旅館で見るテレビ 炎熱や危篤の祖父に会いに行く