頭痛予防のためのセルフケア 東洋医学編
今回は東洋医学の考え方によるセルフケアについてお話させていただきます。
東洋医学的な頭痛の考え方は、氣の詰まりや氣の滞りであり、その背景には氣の不足があるというお話を以前の記事でさせてもらいました。
したがって、頭痛予防のためのセルフケアとしては、氣を補充する、ということになります。氣を補う、というと、何か修行をしなくてはいけないかというと、そんなことはありません(笑)。
氣の補充方法の基本は、呼吸、食事、睡眠、温めること
呼吸は余計な氣を出し、新たに清らかな氣を体に取り入れる行為です。食事は食べ物という氣の塊を取り入れる行為です。睡眠は体の活動状態が極めて低下した状態の中、呼吸を行うことにより氣が回復する行為です。温めるというのは温かいものから氣をもらう行為です。
この中でもセルフケアとしておすすめするのは、呼吸と温めることです。
食事は重要なのですが、「氣を増やす食材を積極的に採る」「体を冷やす食材を避ける」などの薬膳的な方法を最初からやろうとするとどうしても無理が出てきますし、そのように制限をかけたり考えることを増やすことは、結果的に自分の氣のめぐりが悪くなったり氣の消耗につながってしまうので、基本的にはおすすめしません。
逆にいうと、「食べたいものを食べてますか?」「食べたいものはありますか?」ということはカウンセリングでお聞きすることにしています。こういった質問でその人の氣の状態を捉えることができるから、というのがその理由なのですが、またその話は別の機会にしたいと思います。
ひとまず、好きなものを食べて構わない、と考えてください。美味しく食べられているのなら問題ありません。
睡眠も非常に重要です。睡眠時間を〇〇時間とる、というよりは、「結果として朝すっきり起きられていなければ、睡眠により回復できていない」、とシンプルに捉えましょう。十分な睡眠を妨げる要因についてはまた別の機会に。呼吸と保温のセルフケアを行っていくと、睡眠の質も高めることにつながります。
ということで、呼吸と温めることによるセルフケアの具体的な方法について説明させていただきます。
呼吸で余計なものを排出し、氣を充足
冒頭でお話したように、東洋医学での呼吸は、余計な氣(=日々の活動の結果生じた濁った氣;濁氣といいます)を外に出し、清らかな氣(=天の氣といいます)を取り入れる営みです。
この「濁氣」には、感情の変化の結果生じたものも含まれます(もやもやした気持ちなど)。したがって、「ため息」をつくことは非常に重要です。幸せは逃げていきませんので、どんどんため息はついて濁った氣を外に出しましょう(笑)。同様の理由から、誰かに話しをする、ということもまた大切です。
それでは詳細な方法について説明していきます。
まずはしっかり吐くことにより濁氣を出し切った呼吸を行います。
椅子にすわり、足は床につけましょう。(写真①)お尻の骨の下の一番出っ張っている坐骨ですわります。背筋はピンと伸ばさなくて結構です。楽にしましょう。軽く鼻から吸い口からゆっくり息を吐き、吐き切ります。吐ききるとその後は自然に空気が入ってくるのを胸やお腹で感じましょう、あくまで自然に空気が入ってくるのを感じて、頑張って息を吸わないように心がけます。この深い呼吸を5回ほど行います。
次は姿勢を変えて行います。写真②のような姿勢をとりましょう。この姿勢にすると、肩甲骨が開きます。おへそをのぞきこむようにして、背中から腰までを丸めてしまいましょう。こうすることにより、肋骨の前側の動きが制限され、横隔膜が働きやすい環境となります。呼吸を行うと①の姿勢と比べて今度は、背中や腰、お腹の動きが大きくなるので、そのあたりの動きを感じましょう。自分で背中や腰、お腹を動かす必要はありません、呼吸により、その部分が動いているなあと感じられればOKです。先程と同じで、しっかり吐き切る呼吸を10回行いましょう。
行うタイミングはいつでもいいです。2種類の呼吸方法を続けて行わなくても構いません。気づいたときにこまめに行うのがいいと思います。
お腹の湯たんぽで体を緩めながら氣を補充
温めるためのおすすめの道具は湯たんぽです。私は治療院で湯たんぽを使うときもあるのですが、天然ゴム製のsanger社のものを使用しています。
湯たんぽを置いて温めるという行為は、お湯がもつ氣を分けてもらうことを意味します。氣を分けてもらうので温かいと感じる、という具合に考えるわけです。
温める場所は気持ちがいいなと思うところだったらどこでも構わないのですが、おすすめはお腹です。
お腹という人体の区域には、洋の東西を問わず、消化吸収を行う臓器が主に収められています。
東洋医学では消化吸収という機能は、飲食物から氣を生成することを意味し、五臓(ごぞう;東洋医学上の臓器:肝心脾肺腎)の脾(ひ)が担当します。したがって、お腹に氣を分けてもらうことは脾が氣を分けてもらうこととなり、脾が働きやすい状態なることを意味します。
このことにより、東洋医学的にはお腹の湯たんぽには2つの効果が期待されます。
1つ目は脾が働きやすくなることにより、飲食物からの氣の生成効率が上がるということです。体を温めてあげること自体に、氣を増やす(氣をもらう)効果があるので、さらに氣を増やす効果が期待できることになります。
2つ目は心と体の緊張を緩める作用です。この作用については正確には五行論(ごぎょうろん;森羅万象を木火土金水の5つのエネルギーのエレメントにより説明するもの)についての理解が必要になるのですが、それについてはまた別の機会にお話できればと思います。
この作用をシンプルなイメージで表現すると、キーワードは「変化」です。
脾が飲食物から氣を生成する働きを有するということは、食べ物を氣に「変化させる」機能があるということです。
これは、食べ物という氣の塊を一度「リセット」して、体のエネルギーとして働く氣に変化させる、ということを意味します。
お腹を温め脾の働きを促すということは、実は体全体で考えると、体を「リセット」する意味があります。このイメージが心身の緊張状態を「リセット」して緩める作用ということになります。
「ストレスによる過食」の東洋医学的解釈もこの脾の緩める働きによりなされます。ストレスに環境に対応するための心と体の緊張状態を、脾を思いっきり働かせることにより食べたくなる、ということなんですね。
体が緩めば氣も増えやすい状態になるので、お腹の湯たんぽは緩み効果に加えて氣の補充効果と一石二鳥です。夕食前か就寝前のリラックスタイムに行うのがおすすめです。お腹の温かさを感じてゆったりしてください。時間は適当で構いません、「もう必要ないかな」と感じられるのが大切ですが、最初はわからないと思いますので、15分ほどやってみて、「もっとやっていたいな」と思えたらもう15分行いましょう。もちろんスマートフォンは使用せずに。氣が散ってしまいますので(笑)。
1種目2週間継続して、体の小さな変化に氣づきましょう
変化を感じられなければ、何かしらのケアを受けることも考えてみましょう
以前の記事と合わせて現代医学および東洋医学的な頭痛の原因に対して、4つのセルフケアをご紹介させていただきました。これら4つすべてをやる必要はありません。どれか取り入れやすそうなものを試してみて、気持ちいいなと感じられたらまずは2週間継続しましょう。
継続していると、頭痛の程度や頻度が目に見えて減少する前に、目覚めのすっきり感や便通、体のこり感など、日々の生活のなかで変化が感じられるようになってきます。
大きな変化は、次の季節に現れてきますので、2週間の継続で何かしらの変化がみられましたら、セルフケアを続けてください、そのときは種目を増やしてもいいと思います。
小さな変化に氣がつく、ということが大切なのですが、氣の消耗が強いと自分のことの小さな変化には氣づきにくいものです。身の回りで起こる、わりとどうでもいいことが氣になってしまうのですが。。
もし2週間で何も変化が感じられないようでしたら、そのようなときは鍼灸など、何かしらのケアを加えて、セルフケアが効きやすい状態にお体を整える、ということを考えていいのだと思います。
この記事の執筆者
萱間洋平 かやまようへい 1980年浦和生まれ
神奈川県立横浜緑ヶ丘高校卒業→慶應義塾大学理工学部物理学科卒業→製薬会社勤務→鍼灸あん摩マッサージ指圧師免許取得→鍼灸学校教員免許取得→慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程修了→慶應義塾大学医学部漢方医学センター非常勤講師(鍼灸外来)→ヘルスケアデザインラボ代表
ランニングと料理とサウナが好き