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感想: 大怪獣のあとしまつ
1.はじめに
あけましておめでとうございます。年始からこんなもん見るのかとお思いの方、大正解です。年始に見るものではありませんでした。かといってこの映画をいつ見るべきなのかと言えば、366日いずれにも該当はしないでしょう。
正直ナメていました。実写デビルマン、実写進撃の巨人、実写鋼の錬金術師といくつもの実写クソ映画を見て、耐性が付いたのだと誤解していました。違った。我々は2時間の拷問を4時間掛けて解剖、解体し、その全てを一通り見届けました。終ったの午前3時。F**K。
この感想は「大怪獣のあとしまつ」のネタバレを多分に含みます。まあ今更AmazonPrimeVideoで見る人達にネタバレもへったくれもないと思いますが、念のため。
1.1 結論
結論から先に言います。この映画は見るに堪えない映画です。そして、私はこの映画と制作陣が嫌いです。その理由は、この映画が「受け手をナメた態度で作っているから」です。もうこれは、良い悪いの話ではありません。好きか嫌いかの話です。
あれほど豪華な役者を揃えたり、CG技術を駆使して怪獣を見せているのだから、その潤沢な資金を使ってプロの監督・脚本・制作を雇ってほしかったなと思っています。
2.火の鳥 クソ映画編
私はこの年末年始に何を思ったか、「今日は何の映画を見ましょうか?」などとTwitterにいくつものアンケートを投稿しました。その日見る映画のジャンルも、タイトルも、ほとんど全てをフォロワー諸氏に委ねました。おまえがクソ映画を見て喜ぶものにおまえのオールを任せたのです。
明日破魔矢買ってくるんで、フォロワーの中にいらっしゃる火の鳥は名乗り出てくださいね。「大怪獣のあとしまつ」決定です pic.twitter.com/KJfNHtlA1A
— Yuki Asamura / 浅村 悠紀 (@yk_asamura) January 2, 2023
その結果がこれである。
3.三本の矢
視聴開始から3分。人生で初めて、映画で心が折れました。まさかとは思った。思ったけど開始3分が本当にきつい。この時私は感じました。「うすら寒い」と。「制作陣はこれを本気で面白いと思って作っているんだ」と実感させられ、私は見るのを止めてしまいました。
ごめんなさい
— Yuki Asamura / 浅村 悠紀 (@yk_asamura) January 2, 2023
開始3分で心が折れました
スコールさんと院京北さんの力を借りて三人がかかりであとしまつします
心が折れたその時、友人のスコールさんが「いま引き返せるならウォッチパーティで一緒に見ましょうか」と提案をくださいました。そこに共通の友人である院京北さんを加え、三人がかりでこの映画にあとしまつを付けることになりました。我々三人は一緒にデビルマンも鋼の錬金術師(1作目)も見た仲です。あとしまつくらい余裕だろうと、高を括っていました。
ちなみに、スコールさんも映画の感想記事を書かれています。私もいま、そっちに行くよ。この気持ちへのあとしまつを付けたらすぐに。
4.感想になれなかった悲鳴
十分に洗練された感想は、悲鳴と区別がつかない。
我々はこの映画をぶっ通しで見ることが出来ませんでした。見るにあたって疑問が多すぎるのです。逐一止めては「あれ何!?」「これいる?」「は?」などと己の感性を確かめ合わないことには、正気を保っていられませんでした。
その結果、2時間の映画を4時間かけて視聴し、映画が1時間進んだところで休憩を挟むこととなりました。こんなのってないよ。
後始末を1時間見ました
— スコール (@skal8) January 2, 2023
現状の感想をまとめました
助けてください pic.twitter.com/TYtbLwCRe2
後始末を全て見終わりました
— スコール (@skal8) January 2, 2023
我々の視聴中に漏れ出た悲鳴の数々をまとめました pic.twitter.com/1ngMVPTK7y
スコールさんが発言をまとめてくれていました。ありがとうございます。ひでえ発言集だ。
5. 感想:なぜ私はこの映画が嫌いなのか
5.1 何をやりたかったのか何も伝わらないから
この映画、結局何がやりたかったんでしょうね。そういえばなんですが、これを書いている段階で初めて本予告を見ました。
めっちゃシリアスだ。これだけを見せられたら、その前に放映されていたシン・ゴジラも相まって「怪獣を倒したその後をなんとかする特撮もの」だと思うことでしょう。そして動画中ではこの映画を「空想特撮エンターテイメント」と銘打ってます。
映画を見た一人として言いますが、特撮要素いらなくない? じゃあ「空想エンターテイメント」ですかね。エンターテイメント要素あったっけ? 面白くなかったもんな……。じゃあ「空想」か。この映画は「空想」です。
結局、この映画で誰に何をどう見せたかったのか、この物語で何を伝えたかったのか、何も分かりませんでした。この映画はギャグなのかシリアスなのかラブロマンスなのか、家族向けなのか大人向けなのか、何も分からないんですよ。どんな人達に何を伝えたいのか、それが伝えられていないんです。で、何がやりたかったの?
![](https://assets.st-note.com/img/1672817564137-4LbqopXWUp.png)
ちなみにですが、本映画のプロデューサーへのインタビュー記事があります。こちらによると、この映画は「風刺的な政治シミュレーション」と「コメディ」を主題としているそうです。リンクはこちら。
製作当初から、(1)「風刺的な政治シミュレーション」と、(2)「コメディ要素」この2つが肝となる映画だと考えていました。宣伝展開に置いてもこの2点を全面に出していくことでそれぞれのファンの方に向けて、訴求を図ったのですが、(1)の要素がお客様に強く印象に残ったこともあり、公開初日から(1)を期待した方が劇場にお越しいただいたかと思います。結果、(2)の要素があることで、「思っていたものと違う」という印象を持たせたと考えています。
個人的に、上記の本予告から感じるのは(1)でも(2)でもありません。「大怪獣をどうにかするシリアスな特撮もの」であり、ぶっちゃけ「シン・ゴジラの後追い」です。そう意図していないと言われても、予告編で"日本政府の各役職"を、"大きな明朝体"で示しているあたり、どう見たってシン・ゴジラのそれだろ! と感じています。それぞれのファンの方に向けて訴求を図った? 本当にですか? あの本予告で?
そもそも、大きな怪獣を出した時点でシン・ゴジラとはどうやったって比較されます。(1)と(2)を押し出したいのなら、もっと本編のノリを反映させるべきでしょう。それこそうんこ・ゲロ論争を予告編に入れたら良かったんですよ。間違いなくこの映画の方向性は「これはシリアスじゃなくてギャグなんだな」と伝わった事でしょう。確かにこれならそれぞれのファンの方に向けて訴求を図れますよ。ひょっとしたらそもそも誰も見に来なくなったかもしれませんが。
よく言われている「話の着眼点は良かったのに」については、私も思います。被災からの復興という物語性があるように誤認させているあたり、質が悪いなと思いました。
5.2 制作陣が受け手をナメているから
この作品の全体に漂う雰囲気。それは「この映画、面白いやろ? 俺天才やん?」という制作陣のナメた気持ちだと思っています。
ウケると思って書かれている下品な台詞や回りくどい比喩。話の中で今の状況や大事な事は説明されないのに、誰も興味のない所を無闇に擦り続ける。うんこかゲロかなんてどうでもいいんですよ。キノコまみれになった男の黒モザイクに二度も三度も触れなくていいんですよ。
そんなことより今何が起きているのか、ダムを爆破して怪獣を押し流そうとした作戦は成功だったのか失敗だったのか、序盤で怪獣の体液を浴びた山田涼介達3人がキノコまみれになってないのは何故なのか、それを教えてくれよ! というシーンが最初から最後まで続くんです。
これらに関しては制作陣が「僕ちんの言いたいこと分かるでしょ? 僕ちんのユーモアセンス凄いでしょ? いや分かんないかなぁ~これくらい分かってくれると思ったのにな(笑)」という態度で作っていれば、そりゃあ伝わらないだろうな、と思いました。インタビュー記事を読んで、「ああ……これ、制作陣はウケると思ってたし、受け手をナメていたんだな」と実感しました。
私は創作をする人間のひとりとして「受け手はナメられると気付く」と思っています。安易に「オタクくんこういうの好きでしょ?」「こういうことすりゃウケるやろ?」ってお出しされる物々は、いつだって面白くないんですよ。面白いもの作ろうと思って作られた訳ではないから。
5.3 制作陣が「伝わらなかった」というつまらない言い訳をしているから
インタビュー記事の初めに戻りますが、1番制作陣が期待していた反応は下記だそうです。
正体を明かせないアラタが、怪獣の死体処理を託されたことをきっかけに、元恋人のユキノとともに雨音の妨害を押し切り、人間のまま『あとしまつ』できるのか、この三角関係に関して反応を期待していました。
……そうだったの?
元恋人とのラブロマンスも、雨音がなぜ執拗に妨害をするのかも(嫉妬だったっけ?)、なぜ人間のまま『あとしまつ』したいのか・しなければならないのかも、全部そうだったっけ……という感想しか出てきません。
なぜそもそもアラタは正体を明かせないんですかね? 作中で何もデメリットも示されていませんし、作中でも「アラタは光に包まれて数年行方不明になっていた、あの光は何だったんだ」程度の説明しかされていないんですよね。
結局、あの光の巨人のパロディは、デウス・エクス・マキナとして、舞台装置としてしか存在していないんです。制作陣の言う「神風が吹かないと解決しない」という風刺(ちゃんと風刺になっていますか?)のためだけに存在している。おそらく制作陣に「最初から巨人になれ」と言っても「そうしたら映画が3分持たないだろ」と返ってくるんだろうな……と思います。この映画に必要なものは物語的な必然性ではないんです。制作陣に言わせればうんこかゲロくらいのものなんじゃないですか? かといって彼らが伝えたかった要素は何も伝わらなかったんですけどもね……。
予告編ではシン・ゴジラに続くシリアス大怪獣ものの雰囲気を装い、その実ただただ滑り倒したうすら寒いギャグ映画についてですが、これについてプロデューサー達はこの様に説明しています。
ただ、本作は「時効警察」の三木聡監督作品、さらに、タイトルが平仮名で「あとしまつ」と表記していたり、大怪獣<希望>が片足を上げてユーモアな死に際になっているあたりから、完全にシリアスな作品ではなくコメディ要素もあることが観客に伝わると考えていましたが、これまた予想以上に伝わりませんでした。
だそうです。へえ。コンセプトを受け手に伝えられていないのはどうなんですかね。「分かれよ! 察しろよ!」ということでしょうか。受け手はエスパーじゃないんですよ……。このあたり、「何を見せたいか・この映画で何をしたかったか・伝えたかったか」という部分は、今まで色々映画を見てきて、大なり小なり差があれど「大体の映画は最低限出来ている」と思いました。この映画は伝える努力を怠っているので、むべなるかなという気持ちです。伝える気持ちがあるならナレーションや総理のボヤキのひとつでも入れて「水で押し流す作戦は失敗だった」と入れるでしょう。ディスコミュニケーション……。
5.4 ユーモアセンスに品性がないから
開始3分で脱落したシーンは、「緊急警報のアラートで同窓会が騒然となるが、ジョークグッズで鳴らしたものだったので『おいおいwww』と茶化す」シーンです。これ何が面白いんですか?
緊急警報の音が緊急地震速報のアラートにかなり近い音であり、聞く人が聞けば地震や災害の記憶がフラッシュバックするんだろうな……と思います。他の映画では事前に「緊急地震速報の音が作中で鳴ります」と注意書きを入れる様に、気を使う必要のある描写だと思うんですよ。それを、ジョークグッズで「はい冗談wwwばっか本気にすんなってwwww」みたいに茶化すのはちょっと分かり合えないなと思いました。このあと2時間こんな理解し合えないユーモアセンスと付き合っていかなきゃいけないのかと思うと心が折れました。品性は金で買えないよレオリオ。
その他のギャグセンスについても、うんこ・ゲロ論争、セ◯クスの回数で語る費用論、黒モザイクのキノコ、陰毛だとよく泡立つという謎理論、大怪獣のおなら、見たくもないババアのパンチラ、不倫キス、小学生レベルの内閣会議、無闇に多用されるスローモーション、北朝鮮のアナウンサーおばさんの擬人化、グズグズの冷凍みかん(※伝わらない例え)、国防軍のクソみたいな旗……。
結局、この映画はどの客層に向け作られた映画なんですか?
6.総評
人生で初めて「この映画嫌いだな」って思いました。良い悪いじゃなくて好き嫌いの評価軸でした。必ずしも創作とは「ウケを狙わず純粋に絞り出された創作性」によって作られるものではなく、どのように客層にアプローチするのか(つまり、売れるものを作るのか)も大事だとはよく理解しています。その上で思うのは、「受け手をナメるな」です。
(※この段落は筆者の主観による文章なので、話半分に読んでください)
別の映画の話をして恐縮ですが、感想に「令和のデビルマン(実写)」とよく言われていますね。寝言はデビルマン(実写)を見てから言え。私はデビルマン(実写)を大変に好きな作品のひとつだと思っていますが、その理由はあの映画が「ウケを狙ったりせず監督が作りたいものを作った結果」だと自分は受け取っているからです。単純に作りたいものを作った結果クオリティがドブのように低いだけで、受け手をナメていた訳ではないんだろうな……と感じています。虚無ですけども。
デビルマン(実写)を指標にして揶揄する人はデビルマン(実写)エアプだと思っていますので、まずは見ような。
(※筆者の主観おわり)
ちなみに、この映画を見終えたあと、AmazonPrimeVideoで無料配信されていたので、一緒に見たスコールさん・院京北さんと共に『シン・ウルトラマン』の例のシーンだけ確認しました。地上に残すとあとしまつが大変ですもんね。
ところで、この映画の制作陣はいつ"あとしまつ"されるんですかね? 続編ともども続報をお待ちしております。
引用
トップ画像: 映画『大怪獣のあとしまつ』公式HPより
大怪獣のあとしまつ - AmazonPrimeVideo
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映画『大怪獣のあとしまつ』プロデューサーを直撃「予想以上に伝わりませんでした」 | ORICON NEWS