『Nuclear War: A Scenario』
書籍情報
あらすじは以下だが、英語なので日本語でも補足を。
すごく端的にいうと、「北朝鮮がアメリカに核ミサイルと思われるものを打った」という仮定シナリオのもと、発射時点から実際に着弾したりするまでの流れをこれ以上ないほどに具体的に描きながら、核自体の強さやそれにまつわるアメリカの対核防衛体制やその意思決定フローの事情などについて語っていく本。
なぜ読んだか
英語の勉強も兼ねて英語の本を読んでいこうと思い、せっかくだからまだ邦訳が出ていない最新のものを読んでみようと思った。
そしてノンフィクションのジャンルを読みたいと思い、今売れているらしいこの本を選んだ。
記憶に残ったこと
核兵器はやばい
「核兵器はやばい」とそんなことはわかってはいるつもりではあった。今の核兵器は「長崎に落とされた核爆弾のXX倍の威力があり、…」みたいな話はまたに聞く。そのため、情報としてその威力の大きさは得ている。しかし、それが実際に落とされたときにどの規模でどのような悲惨な状況がおきるかというのは具体的にイメージする機会はすくない。この本では、中心地からどの距離で具体的にどのようなことがおきるかといったことも具体的に描かれる。
と書いたが、この本のすごいところは、具体的なその被害の内容を描写するのみではなく、その前後でのアメリカの意思決定についても小説かの如く再現を試みているところである
対核ミサイルに対しての迎撃意思決定の残酷さ
アメリカは自分の国に向かってくる核ミサイル(と思われるもの)に対してのリアクションを決める必要がある。それは実際に着弾してしまうとその威力により迎撃体制がくずれうまくいかなくなる可能性も高いため、着弾する前にリアクションを決める必要があるとのこと。そして、この意思決定は大統領個人に最後は完全に依存するらしい。どうやら大統領と常にともにいる付き人が保持しているカバンの中の核ミサイル用のコードを伝えることでGoサインを出すというすごく原始的な形らしい。
しかし、この意思決定の異常性は一人の正常な個人が行えるものではない。というのも、この迎撃をするということだけで人が「数百万人、数千万人やそれ以上の規模で死ぬこと」が確定するものであるからだ。もちろん放射線によりその地域一帯が人が住めない場所にもなる。そして北朝鮮にのみ攻撃するつもりだとしても、そんなピンポイントに攻撃することはできない。そうすると無関係なその隣国にも大規模な被害者がでる。それほどにこの意思決定のもちうる影響は莫大なのである。
また、あくまでこの意思決定は「相手のミサイルが着弾する前」に行う必要があるのである。そうするといくら可能性が高くみえるとはいえ、センサーの誤作動、ミサイルの目的地が実はアメリカではないという可能性もある。極論、ミサイルの弾頭に仕込まれているのが核かそれ以外かというのは着弾する瞬間までわからないのである。そういった状況なのにもかかわらず、大統領は判断を求められるのである。不確実な状況の中、まだ本当に攻撃が、核戦争の可能性が確定していない中で、大統領がGoを出すということは核戦争がそもそもなかったという可能性がゼロになることを指し、核戦争が確実に始まってしまうことを指すのである。
そして、そもそも、迎撃しようがしまいが基本的にもうアメリカとして生き残る術がないこともほぼ確定している。その中で迎撃をするというのは単に道連れにする行為とも言える。(アメリカ以外の国にとっては、核ミサイルをしようした攻撃国に対して報いがあることは、その後の世界の抑止力維持には意味があることかもしれないが。ただそれも核攻撃のあとにこの世界が維持されればという前提ではあるが。)
これ以上に苦しくゴールのない意思決定など人間にあるのだろうか。
感想
本としては非常に面白いのだが、さすがにこの具体性で核脅威を見せつけられると気持ちが落ちた。そして、今このときも世界を終わらせる脅威が常に発動させられうる中で私達は生きているのだなと思った。
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