QR決済は流行らない
こんばんは、いづつです。5月の転職を機に、出題範囲が明確だったコンペ形式による上品な競技場から、自由すぎる乱戦場に飛び込んだことを自覚して、望むところだったはずなのに上手くやれていなくてもどかしい最近です。
そんな個人的近況とはまったく関係なく、今回はQR決済って不便だよねという話がしたくて仕方ありません。
■今の想定用途でQR決済は流行らない
最近、小売りビジネス各社はビッグデータ自前調達のためと思われますが、独自の決済サービスを持ちたいようで、QR決済のサービスが乱立中。ポイントメリットや手数料無料などで体力勝負に出ている各社から、何を焦ったのかセキュリティ管理の劣悪さが露呈し短期間で撤退を決断した例の件ようなお粗末なものまで、あまりに多くてよくわかりません。しかし、知名度がどうであれ、今の想定用途のままではQR決済が日本で流行ることはないと思っているのが私です。
そもそもQR決済のこの不自然な盛り上がりは、中国で急速に普及したのが日本に知れたことがきっかけ。中国では単純に現金より電子データのほうが信用と便利性が勝るから普及したわけですが、日本の場合、幸か不幸か現金の信用は世界屈指の高さなので、利便性だけで勝負しないといけません。小売各社がどんなにビッグデータが欲しいと思っても便利じゃなければ大衆は使ってくれないのですが、残念なことに日本にはとっくの昔から便利なキャッシュレス決済手段があり、使う人は既に使い倒してQR決済に勝るのでそこから切り替える理由がありません。
■だってSuicaのほうが便利じゃん
それは、交通系プリペイド電子マネー、東京で言えばSuicaやPASMOです。なぜQRより便利なのかとか問うまでもなく、コンビニで支払う姿を比較すれば一目瞭然。
- QR決済
(1) スマホを取り出す
(2) スマホを起動する(必要ならロックを解除する)
(3) 決済サービスのアプリを起動する
(4) QRコード表示画面にする
(5) 店員がコードを機械で読み取る
- Suica決済
(1) Suicaを取り出す(と同時に)店員が金額を読み取り機に転送する
(2) Suicaを読み取り機にかざす
見よこの差を。QR決済使う人たち、なんでそんな面倒くさいことやってんの。レジ打ちが手際のいいおばちゃんだったら、何も考えず1万円札出すほうが早いですよ。
スマホを出してアプリを起動するという手順がとにかく煩わしい。だから決済とかいう以前の問題で、ポイントカード機能のアプリすら私のスマホやタブレットには入っていない。入っているのは、法律の問題でそれがないとサービスが利用できないネットカフェ系だけです。
他の例いきましょう。私は平日の朝食を松屋で食べるのがルーチンなのですが、その券売機でも差が出ます。
- QR決済
(1) 注文品を選択する
(2) 決済方法としてQRを選択する
(3) スマホを取り出す
(4) スマホを起動する(必要ならロックを解除する)
(5) 決済サービスのアプリを起動する
(6) QRコード表示画面にする
(7) 機械にコードを読ませる
(8) 機械がうまくコードを読んでくれないので、諦めて財布を出す(以下略)
- Suica決済
(1) 注文品を選択する
(2) Suicaを取り出す
(3) Suicaを読み取り機にかざす
見よこの差を。QR決済使う人たち、なんでそんな面倒くさいことやってんの。
ついでに愚痴を書くと、現金で食券を買いたい人は2台ある券売機のSuica非対応機のほうに優先的に向かってほしいのですが、私の直前に入店した現金派は9割がなぜかSuica対応機に向かいます。嫌がらせでしょうか。
■QR決済の本質は決済ではなく送金です
どこが生き残るとかいう問いに対してそれ以前の話がしたくて、それは世の中、QRの良さをきちんとわかっていないよね、ということ。
QRコードは、読み取り機械がスマホのカメラしかないようなインスタントな状況で最も活躍するツールだと思います。この手段の先輩である中国ではレジのような機械導入という高いイニシャルコスト、スペース占有、現金の盗難を避けたい個人商店で、その代替手段として店主のスマホと客のスマホで完結できるからQRが普及したのです。店と個人というよりは個人間の送金として利用され始めたのが初動ということ。この場合は店主が金額と送金先情報が含まれたQRコードを表示して、客がスマホでそれを読み込んで送金するという、ユーザースキャン型。商品にぶら下がっているQRコードをスキャンして送金してくれればそれを提供するというシンプルな取引に向いています。
日本でもお祭りの露店なんかでは超優秀な決済ツールだと思うので早くそういう光景が見たいのですが、残念ながらいまだに現金ばかりが動きます。これはもう利便性とは別の理由で、収益隠しに違いないと思っています。日本では非課税になる雑所得枠が年間20万円なので、それ以上稼ぎたいとなると取引記録が電子媒体に残っては困りますよね。
防ぎづらい脱税の話は余談でいいとして、こういう個人間送金の使い方から広まって、同じアプリでQR表示と読み取りを逆にしても使えるじゃんという発想でストアスキャン用途が生まれました。しかし、ストアスキャンはユーザースキャンによるQR決済の普及に便乗しただけで、それ単独では大して利便性にアドバンテージがありません。ユーザー側が個人間送金でAlipayやWeChat Payを使い慣れすぎて財布なんか持ち歩きたくなくなったから、大型小売店でも採用しざるを得なかっただけです。日本の小売業はユーザースキャンが普及すらしていない状況でストアスキャンだけを普及させようとしているので、そりゃ無理筋ですよと。
■QR決済ビジネスが狙うべき客は、個人商店
QR決済が最も輝くのはユーザースキャンの利便性が高い個人商店。ここが狙うべき、宣伝していくべき相手です。お祭りの屋台でもいいし、コミケやフリマの出店者でもいいです。流行らせたければこういう人たちにアピールしてください。ちなみに個人商店をターゲットにしても、SquareやAirレジのような地味な競合がいますけどね。スマホだけで完結できるというQRのアドバンテージを生かせないようではいけません。
とにかくQR決済のアドバンテージを正確に把握していないのに、隣国で流行っているからと安直な発想でやろうとする小売業たちよ。自社のサービスを使いたいと思うかと自問してはどうか。大事なことなのでもう一度書いて終わります。
QRよりSuicaのほうが便利じゃん。
Yoshiyuki Izutsu
https://www.linkedin.com/in/yizutsu/
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