見出し画像

【僕ヤバ感想】Karte.12 僕は眠れない

 日常の一コマ。学校というものから離れると縁が遠くなる「保健室」。今回は滅多に見えない、山田の市川に対する認識が伺える。

 市川は片頭痛もちらしい。頭痛というのは厄介で、本人はしんどいけれど、なかなか外からはそのしんどさが見えない。

 この回で、市川は山田の存在を想像だけではなく、五感で「実感」したのではないかなと思う。もちろん今までも視覚で認識しているし、会話したりもしているけれど、どこか山田の存在を「自分とは関係のない世界に存在するもの」と、どこか実感を伴わない感じであったかもしれない。でも実際の山田は、汗もかくし、生理痛にも苦しむ生身の女子である。
 市川なら、女子には生理があることは知っているだろうけれど、その事実と「山田は今、腹痛である」ということが結びついていない。のが、山田のジャージを通じて「生身の人間」であることを少し意識し、自分では気づかなくても山田を「遠い存在」ではなく「身近な存在」に感じたかもしれない。私の妄想。

 山田はかなり市川に気を許しているのが伺える。市川を完全に「知っている人」の内側に入れている。
 これ、山田にとっては相当特別な存在であると思う。山田は「陽キャ」であるとか、「スクールカーストの頂点」などと評されているけれど、実際のところは、いつもいる友人以外に自分から絡みに行く描写は殆ど見られない。下級生のファンや、ナンパイに対してもすべて受け身。自分から積極的に交友関係を広げようというタイプではない。そんな山田が市川とは自分から会話をしようとしている。それはすごく特別なことなんだけど、市川には多分「陽キャだから僕にも話しかけるのだろう」と、見えているのだろう。

 山田は「腹痛」と市川に伝えても、それに市川が「はぁ」とあっさりとしか反応せず、しかも山田とは逆の方向を向いてしまったことが嬉しかったんじゃないかなと思う。私は中学生の頃、女子が腹痛、というだけで男子が「アレだよ」」とか言う会話を聞くのが嫌だった。
 その感謝の表れが「薬を分けてくれる」行為に繋がったのかもしれない。もし市川が好奇心むき出しにしていたら(性格上ありえないとは思うけれど)、山田は市川に対する興味などを一切シャットアウトしかねないほど、結構微妙な話題であると思う。今回のエピソードで、山田はまた一歩市川に気を許したかもしれない。

 見方によっちゃあ、今回は山田のほうが市川に優しく接している。市川の行動は無知からと山田に対する遠慮から来ているものだけど、山田は薬を分けるなど、一歩踏み込んだ思いやりを見せる。今まで食い意地や、雑な性格、そして人見知りといった面が強く描かれてきた山田だけど、この回の山田は優しい。これは山田が持つ本来の性格であって、気を許した人しかそれを知らないとかだったらすごく熱いね。

 市川は片頭痛ということもあって、この回ではどこでも「ズキズキ」という擬音が市川につきまとっているけれど、その「ズキズキ」は多分ある段階から心の「ズキズキ」に変わっている。

 「必然性のないことはしない」と、いろいろ言い訳をしてても、不可抗力?で山田のジャージが自分の上に降ってきたときには「これは必然」と言い訳してしまう市川(誰に言い訳してるんだろう)。こんなに頭の中で目まぐるしく自問自答していて、頭痛は平気なんだろうか。

 あのあと、市川は預かった山田のジャージをどう返したのだろうか。机の上に置いたのか。市川はきちんと畳んで持っていってあげてるんだね。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?