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【僕ヤバ感想】Karte.71 僕は山田と

 今回読んで、感じたのは「透明感」だった。山田、市川、そしておねえみんなの心情が透き通っていて、真っすぐで、「綺麗」な話だった。あまりの透明感にこちらまで浄化されそうだった。

 パパは、市川が家に来たのを、「折角の休日、親子で一緒にいるのに娘は友だちを連れてきてパパと遊んでくれない。だけど娘は、パパの遊び相手のために男の子も連れてきてくれた」と思ってたのかもしれない。「娘よ、パパのためにありがとう・・・!おかげでゲーム仲間が出来た!」って思ってたら、娘は己の私利私欲のために市川を呼んでた、という。
 でも、市川が来たのはパパと遊ぶためではなく、杏奈と共同作業(?)するためだと知った瞬間、あれは娘のジャージだった?は?娘の彼氏?なぜ娘のジャージを?もううちに上げてた?そしてどういう関係?で驚いてお風呂にも入らず寝てしまったのかな。
 バレンタイン前後と言うことはかなり寒いし、仕事で疲れて帰ってきたらなおさらお風呂に入りたいだろうに、相当ショックだったのか。
 杏奈(全員山田なのでこう書く)とパパの関係は見る限り友好的で、思春期女子にありがちな「パパとは口を聞きたくない」がなさそうな、非常に仲の良さそうな親子。だからこそ、娘は何でも話してくれていると思っていたのに、いつの間にか異性の友だちがいた。
 娘が大好きな男の人はパパだけかと思っていたら…これはショックかも。市川がパパとフレコ(わかんなくてググった)交換したとしても、ゲーム中にさりげなく娘との関係を聞かれたりするのかしら。それともパパはゲームの遊び友達を確保するために、敢えて娘のことはおくびにも出さず、逆に市川に無言のプレッシャーを与えるのかしら。

 山田ママによる市川の評価。見守ってんなー!後述するけれど、市川にとってのおねえのような、ただしおねえよりさらに大人な(当たり前)後押しの仕方。娘の成長と楽しそうな日々が嬉しそう。

 市川は今回、山田の両親を会ったことで、前にかすかに感じていた寂しさがちょっとぶり返したのかな。山田はいつか別の世界に行くのだろう、という。
 市川も家族に十分愛されているし、山田の家やその帰り道に萌ちゃんや芹那がフォローしてくれたように、みんなに気にかけられていると思うのだが、やっぱり自分のことはあまり見えないか。

 市川は甘酒の影響なのか、あるいはずっと緊張していたアウェイからホームに戻ってきたことによる気の緩みなのか、今まで見た中で一番しゃべる。おねえをうざったがりながらも甘えてる。強がっていても、末っ子だなあと思えるシーン。

 おねえは酔ったふりをしてからかおう、と思っていたら、思いかけずも弟の本音がポロポロ。
 「変に後押ししたくない」というのが、逆説的ながらもいい「後押し」。恋愛に限らず、何でもかんでも他人がぐいぐい押せばうまくいくというものでもない。だからおねえは恋愛について後押しするのではなく、市川が自分の心に向き合うこと、変化を受け止めることを後押しする。
 今までだったら濁川くんと心のなかで話して、お互い自分自身だからだんまりになっちゃいそうなところを、おねえという実在する人物が、生きた回答をくれる。
 生きた回答だから、市川もとうとう、今まで声に出すことはなく、矩形の吹き出しにすら出たことがなかった本音を「透明な吹き出し」でこぼすのだ。この本音をこぼす市川が、つらそうで、健気で、でも一生懸命で、こんなのおねえは愛しくって仕方がないだろう。一方の山田は本命への下準備をして浮かれている。
 恋は楽しくて、つらい。山田も前に、市川が離れかけたことでつらい思いもしているからなあ。

 「恋愛」という二文字で考えると、山田はずっと「恋」で、最近そこに「愛」が混じってきたところがあるけれど、市川は山田に笑顔でいてほしい、という、「愛」がどちらかと言うと大きかったというか、「愛」で独占欲を含む「恋」を隠してたところに、「恋」がとうとう顔を出してきた。そしてそれを本人も認めている。
 相変わらず独占欲……恋の方が強い山田が、今日作った試食ケーキをおねえが食べちゃったことを知ったらどうなるんだろう。「じゃあまた作ろうよ」とか、チャンスに変えそうなたくましさがあるよね。山田の「愛」が大きくなったら、市川が恋に対して逃げ腰になるのを理解したり、受け止めたりするのかな。

 透明な吹き出し。これまでも時々見かけたけれど、吹き出しが透明になっていることで、私にはそのセリフが何かを取り繕うものではなく、すっと、心の奥底から出た言葉に見える。その人物の心、本音が透けて見えるような。

 透けて見えると言えば市川の右目。
最近、「右目が見える時は、本心が透けて見える時」なのかな、と思っている。
 おねえに自分の本心をさらけ出した時。山田の袖を引いて質問に答える形で自分の願いを伝えた時。
その時にちらっと右目が覗くのだ。普段隠している分、見えた瞬間に、本音まで顔を出しているような印象を受ける。

 今回、その透けて見えた真剣度が特に伝わってきてぐっときたのは、最後に市川が山田の袖を引くところ。
 あの距離だったら、別に声に出すだけでも市川の意見は伝わったはず。でも袖を引いて、山田を振り向かせて、しっかり顔を見上げて、目を見て言うのだ。だからもう「意見」ではなく、あれは市川の「意思」。
 山田が望む満点の答えを出したわけだけど(山田の聞き方は、市川からの否定を引き出すためだけ、で、本心では本命以外作る気がないと思う)、本人は「自分のわがままをぶつけてしまった」って思ってそうなところが、市川の謙虚なところでもあり、もどかしいところでもある。
 市川はどうしても、山田との関係を悲観的に考えるけれど、山田が薄情ではないことを誰よりもよく知っているわけだし、そんなふうに山田を評価するのは違う、といつか自分で気づくのだろう。あの山田から一方的に離れようとした時と同じように。

 矩形の吹き出しが今回は少なく、今までは矩形の吹き出しの本音と、実際に声にする発言にずれがあったりもしたけれど、今は矩形は、発言の「裏付け」にもなっている。心と行動が一致してきたのか。

 ただ、私は最後に言いたい。市川ママの意見に完全同意。少なくとも義務教育の間は、休日に友人のうちにお邪魔する時、必ず親に言って手土産を用意してもらったほうがいい。
 でないと市川のママ、「今度保護者会でお目にかかった時に山田さんのお母様に『先日は大事なお休みのところ、息子が手土産も持たず伺ってお手数をおかけいたしました。』とでも挨拶しなくちゃー!」と思いかねない。親は子どもの見えないところで結構あちこちに頭を下げてる。

 今、個人情報法保護法とかでなかなか相手の連絡先わからないし、特に山田と市川、小学校が違うから、ママ同士、お互い距離を測りかねてるところあるからね。

 まあ、「僕たちの付き合いに親が口出すなよ」と思うのが中学生。その立場にならないとわからないことは多いし、そして大人になると、その立場で感じたことを忘れてしまって、つい口を出してしまうのだ。

 そして口を出せば杏奈ちゃん……お菓子作り料理本見るなら「カンタン」なんて言葉に踊らされず、きっちり基礎を丁寧に書いた料理本の方が役に立つと言うか、パパに習ったほうがいいよ……そしてパパになつく娘で、ショックを和らげてあげて。

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