弱者に優しい社会?!②~ツギハギだらけの家、バリアフリーの凸凹道~
香港は、車椅子の人、杖を突いた人、身体をガクガクさせながら歩く人もたくさん普通に街に出ています。私が来た当初は、香港には身体の障害を抱える人が特別多いのかと思いましたが、そうではありませんでした。
(ネットでリサーチするも、結構古いデータばかりしかなく、2021年は何人、みたいにシンプルに表示してあるものも見つかりませんでした。なので、同時期のデータ比較というのができなくて恐縮ですが)
これによると日本は国民全人口の約7.6%
これによると香港は全人口の約8.1%
障害の種類なども考えるとややこしいのでココはざっくり流します。
とにかく、日本の街が色んな障害を持った人たちで溢れているという光景があまり思い浮かばないのですが(私の地元が田舎だから特に、という事もあるとは思います。)香港では皆、普通に混在といった感じです。
もちろん、根本的な自動車保有率の違いはあります。日本は田舎ともなると車は「一家に一台」どころか「一人に一台」です。そして高齢化が進む現在歩いて10分くらいのところにあるスーパーにも車で出かけるという事は珍しい事ではありません。
イメージとしては香港は日本の東京大阪的な、交通網が発達して自家用車を持たなくても動ける地域という認識が必要ではありますが、大事なポイントとして、少なくともそういう不自由がある人達が街に出ても、普通に用が足せる仕様に社会全体がなっているという事です。
今の日本社会は「現役生産者層」にも手厚くはなく、しかし、現役生産者層以外の人々に対しては本当に有り得ないほど冷たい社会のように感じます。
でも、手厚くないと言っても基本、色々なファシリティーは「現役生産者層」、もっと言えば健常者が生活を送るのに便利なように出来ています。
道は段差だらけで、公共施設にさえエレベーターやエスカレーターが完備されてなかったり、障害を持つ人や大荷物を持つ人が建物のめちゃめちゃ端っこにあるエレベーターまで行かなくてはいけなかったり、そもそも誰かに助けを求めないと階段さえ登れない仕様と言ったところがすごく多いと思います。
高齢者社会にあって、この不親切仕様は多数派に合わせているとも言えません。そもそも最初から健康で自由に出歩ける人向けの設計で作られている日本の多くの施設を、壊れてないからただそのまま使い続けています。
「壊れたものは修理する」という考え方。逆に言えば「壊れてないものはそのまま使う」という考え方。
ここで、もしかしたら「いやいや日本の建物だって手抜き工事とか耐震加工なしとか色々問題あるよ」と言う人がおられるかもわかりません。
が、聞いて下さい。
香港は人口密度が高い上に、人はどんどん増える一方なので不動産価値はそれこそSARSや567と言った疫病でもない限り上がり続けます。建物に法定耐用年数はないのです。
後は技術と良識の問題ですが、香港の建物は日本基準から見れば、ほぼ突貫工事であり、手抜き工事みたいな物件です。
でも、これも考え方の問題なのです。
日本は昔から「家」に抱く期待が大きく、とても大切に思い、家を建てるのに「長持ちする」建て方を工夫して突き詰めてきました。(今の簡易的にパパッと建てられるアパートはその概念はもう無関係でしょうが)
こっちはそもそも家を100年持たせようなんて考えはないのです。
(物を大事にしない、と言っているのではありません。家に対する思い入れ方が違うという意味です。)
一戸建ての家は、基本的に香港のホントの原住民で村を形成している人たちが住む家で(お金持ち用の分譲戸建ても少数ありますが)、後はマンションです。
これも前回①の記事で触れた歴史的背景から形成された価値観が大いに関係しています。経済的にカツカツで自分達で断崖絶壁に小屋を建てて来た人達にどんな家に住みたいか思い描く事自体、夢のまた夢だったでしょう。
家はただのハコで、雨風を凌ぐものであり、不都合なところは不都合が起きた時にどんどん改装したらいいのです。ましてや引っ越しも移民でさえもフレキシブルにやってしまうこちらの人たち。
勿論、経済的に余裕が出て来た人たちは、逆に日本人以上に家具や道具にこだわり、徹底した改装を行います。
社会にとっても不都合なところは、どんどん改装されていきます。
段差を崩してスロープにする、歩道橋にエレベーターをとりつける、築50年のマンションでも部屋自体は改装を繰り返しているのでキレイだったりします。
いずれにしても、日本と比べればずっと建造物に対して「切り貼り」する事に躊躇いがないように思います。
もちろん「必要があれば」変える事を厭いませんが、感じなければそれはそれで日本人の「捨てた方がいい」域をはるかに超えたモノを使い倒したりしています。50年前の微風しか出ないドライヤーとか、引き出しの取っ手のついた前側が外れてしまった棚とか、手すり部分がグラグラで手すりにつかまれない椅子とか・・。
つぎはぎなのです。
日本が家に求めるような美観や価値観とは全くちがったところで、必要と思われる改造は壊れていなくても簡単に崩し作り替えます。
それでも、歩道橋に併設されているエレベータや折り返しのある長いスロープなどは結構年季物です。
身体の不自由な人が困らないように、というか多分、自分で自分の面倒がみれる為のファシリティーは日本よりも数十年は早く着手され機能して久しいように見えます。
ただ、基本的な道路舗装なんかは日本と違って超適当で均しも甘く、水平でもありません。くぼみや飛び出た所も結構あります。
多くの歩道はレンガを埋め込まれていて、緑化の為に後から植え込まれた並木道の樹たちが、その下で根を伸ばす事によって、歩道のレンガはあちこち押し上げられて凸凹になり、健康な人でも気を付けないと足を取られます。
だから道は日本よりもずっと歩きにくいのですが、高齢者や体に障害を持つ人に便利な改造は日本よりずっと進んでいるように思います。
建物だけでなく、香港は電動車椅子を利用する人も多く、普通の人が転ぶような道もモノともせずに軽々と乗り越えて走り去っていきます。そうやって普通に地下鉄やバスなどに乗るのです。結構速度が出るので地下鉄でプラットホームと地下鉄の段差も難なくビュンと乗り込んでくるのを見ると足を踏まれたら足が千切れそうだなと思ってしまいます。
バスも乗降車口は車椅子が十分通れる幅があり、中にも車椅子用のスペースがあります(スペースは一人分ですが)
乗り降りの際は車いす用のスロープ(床が折りたたまれた状態が通常時で、車椅子の利用客がいるとそれを広げて使います)を運転手が出し入れし、バスの車高も一旦グンと下げるのです。
日本人から比べると自己中な人が多い香港の人たちが、乗り降りや社内で車椅子の人や高齢者に気遣いを見せる姿に毎度ムネアツの私です。