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走る稲妻、鈍った身体を呼び覚ます~鍼(はり)~

私が人生で初めて鍼灸の鍼(はり)治療をしたのは日本でした。
アキレス腱を痛めて、コーチから鍼の先生を紹介されたのでした。

ビビりな私は当時、自分の皮膚を突き破って治療するという「鍼」が恐ろしかったのですが、発表当日まで時間も迫っていたので仕方なく鍼灸院に行きました。

でも行ってみると、髪の毛より細いという極細針を使っていました。

「刺しますね」と言われていても、刺されたのがわからないくらいのほっそい針での治療。それで電気も当てましたが針が細いのでわずかにピリピリしてるかな~?っていうくらい微弱な刺激でした(当時は余りにも何の刺激も感じなさ過ぎて、どんな治療だったかもうろ覚え・・・

しかも次の治療までの数日間、その針が刺さったままの状態にするのです。

(え?生活中に針、体内で折れちゃうんじゃないの?)と思いましたが、

「髪の毛より細くて、自由自在に曲がりますから心配しないでくださいね」と言われました。

両親や周りの人からも鍼の前評判は良く、実際鍼の後すぐに少し痛みが和らぎ楽にはなりましたが、アキレス腱はよく使う箇所なので元々治りにくいところなのか、練習を続けながらが良くなかったのか、完治するには一か月ほどかかりました。

でもこればっかりは、もし鍼をしなければ更にこの倍以上時間がかかっていたかもしれませんし何とも言えません。

ただ、鍼は思ったよりコワくも痛くもなかった。けどめちゃめちゃ速効というほどでもなかった。


という記憶が刻まれただけでした。

しかし!

香港にやってきてから、イの一番に「鍼は思ったほどコワくない」と言うイメージは覆されました。

香港で一番最初に施された鍼はドン引きするほど太い針でした。
見た目ほどの痛みはなかったものの、まずその見た目に気持ちがすっかり怖気づいてしまいました。

その結果「暈針(日本語ではなんと言うんでしょうか…針酔い?鍼を見ると軽い眩暈が起きる症状)」と言う鍼への恐怖心みたいなモノが芽生えてしまったのです。

中間の色々はすっ飛ばしますが、鍼のすごさと受け止め方を教えてくれたのは旦那Kでした。

その一番目の鍼の先生に通わなくなってから暫くして、友達の紹介で整体の陳先生を知りました。陳先生はマレーシア華僑で元従軍医師。

手法も独特でしたが、先生にかかれば、いつもぎっくり腰も一発で治りました。凄腕の陳先生は大人気でいつも予約が一杯でしたが、元々日本人に対して好印象を持っていた先生がメインに使うのは北京語だったので、私が日本人なのに毎回誰も伴わず一人で来て北京語で会話できるのも気楽だったのか、電話すると割とすぐに入れてくださいました。

先生は「膝が痛い」と言っても「体は痛いところだけに原因があるのではない。身体は全部繋がっているのだから、〇〇が歪めば△△が引っ張られて、その結果◆◆に痛みが出てしまう」と言って、いつも首や肩や足全部、全身を調整してくださいました。

整体も凄腕でしたが、陳先生は鍼も超絶凄腕でした。

今起こっている部位の痛みが、内臓の疲れや不具合から来ているものだと見て取ると、先生はいつもおもむろに「鍼をしよう」と言い、速攻で鍼を施されるのです。

そして、あっという間に終わるのです。「痛っ!」と思ったらもう終わり。鍼が苦手な私でしたが、眩暈を起こす間もないくらいあっという間に終わってしまうので、陳先生の鍼なら何とか受けられる私でした。

私は当初「針が皮膚を突き破る痛み」なのか「疼き」なのか「電流」なのか、細かい区別ができていなくて、どれも一様に「痛い!」と思っていました。

 それがある時、私に付き添ってきてくれた当時まだ彼氏だったKが、私の治療中に陳先生と雑談をしながら、ふくらはぎが凝っていてスッキリしない、という話をすると、診察室の外には次の人が待っていましたが、先生がその場でついでにKに鍼を施してくださいました。ふくらはぎの凝りと言ってるKの太ももの側面あたりに針が打たれました。

するとKは「うわああああっ!効く~~う!」と大声で叫びながら嬉しそうに笑っていました。曰く、先生が太ももに針を刺す度、まるで体内に稲妻が走るように足の指先まで電流が流れる、と言うのです。

先生が針を刺したまま、何度かその手首を上下に動かすと、Kはその度に身体をよじりながら「うわあああ~、いいわああああ~!」と叫ぶのです。

そう言われて私も思い当たりました。そう言えば陳先生の鍼は、いわゆる「皮膚を突き破る」痛みをほとんど感じない代わりに、何とも耐え難い「疼き」がありました。ズシーンと重く響き渡る感じです。

その刺された部分以外に響く感じが気持ち悪くて少し苦手意識があったのです。

そして、ひとしきり体内に電流のような稲妻刺激を受けたKは「足が軽くなった」と喜んでいました。

そんな事があって、私はこのズシーンと来る鈍い痛みが嫌いなのだ、とKに話すとKは自分も鍼を習っていたと言う話を聞かせてくれました。
(でも資格を取る費用が高すぎるから止めたと(-_-メ) )

鍼と言うのは、ただ刺すだけじゃダメで、刺した後陳先生がやったように手首を振り子のように動かして「電流のように走る刺激」、「重く響き渡るように広がる疼き」を生じさせる、この「針感」というのがイイのだと説明してくれました。

たくさん施術した針を一つ一つクニクニ刺激するのが大変なので、代わりに電流を流すのだと。

また、鍼には身体に「補ってやる鍼」と、身体から不具合を「抜き取る鍼」と大きく分けて二種類があるのだと教えてくれました。

人間の身体は良くも悪くも順応していきます。

怪我や悪い姿勢で体に生じる血行不良や筋のこわばり、怪我をして痛みを感じる為に、そこをできるだけ使わないように無意識のうちに庇ってしまう内に、その庇いグセがついて、その部位の感覚を鈍らせる事で痛みを感じなくなってしまう体の防衛反応に対し、鍼は敢えて、そこに刺激が届くように処置することで、「まだココはちゃんと機能できるよ」という事を、身体にメスを入れて開く事なく、針の孔一つでピンポイントに脳に認識させる事ができるスゴイ治療方法なのだと、熱く語ってくれたのでした。

例えば脳梗塞などで、半身不随になってしまった人も鍼で継続的に腦に「この半身はまだちゃんと身体についていますよ」という刺激を送り続けてやることで、「もうこの半身はなくなってしまったもの」と判断してしまった脳に再度認識させる事ができるのだと、その為には、この「針感」をしっかりと感じられないとダメなのだ、と。

眠って何も感じてないところに針を刺してもダメなのだと。

広がる疼きは「痛み」ではなくて、不具合が起こった部分を「まだココ使えるからちゃんと治しに来てくださいよ」と脳に連絡を入れてくれる信号だったのです。

そして何先生と知り合ってからは、ますますその「針感」について、しっかり認識をさせられました。

何先生↓↓

何先生はいつも一針刺すごとにイチイチ私にどんな感じがするかを事細かく確認してこられました。「強く疼く」「少し疼く」「疼いてダルイ」「強く響く」「少し響く」「チクっとした痛み」等等、私の反応を見ながら手首を激しく振り子のように動かして、私を悶絶させながら、いつも20本近く針が施されるのでした。

毎回そんな調子なので、私もこれがどんな感じなのかをできるだけ正確に伝えようとした為、これは「痛い」ではないんだと知る事が出来ました。

一通り刺すと何先生は、後は電気にお任せ、とばかりに端子を繋いで一気に電気を流すのです。

疼いたり、腦天まで電流が走ったり、身体は色んな反応を見せながら、私の膝は、もう亡くなられた秋先生のカッサと火療(お灸)でかなり恢復したものの、以降も毎日ウォーキングやヨガなど、鈍く痛みながらも騙し騙し使っていた膝が、まるで時を逆戻しにするかのように、どんどんと昔の痛み始めのようなクリアな痛みを取り戻していきました。

秋先生↓↓

そして明確な痛みを再び自覚するようになった後は、鍼の度に少しずつ薄紙を剥ぐように痛みが取れて行きました。

ちなみにこちらは「シビレル毎日」の記事で紹介した脱臼でズレてくっついてしまった肘のアフターケア。

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慢性腱鞘炎の手も

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膝も毎回、こうして治療しておりました。

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手の写真だと、電流を流した時に針が反り返ったり皮膚にめり込んでいる様子がちょっとわかりますかね。

なので、鍼はいい先生に出会えさえすれば本当に超おススメです。体内を走る稲妻が、いろんな体の不具合を絡めとっていってくれます。



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