ストリートファイターK 野生動物の反射
合気道に入って来て、半年も経たないうちにストリートファイターKはみるみる頭角を現していました。しょっちゅう街中で喧嘩してばかりいたというだけあって、どの動きも無駄がありません。
無駄がないというより、動作に入る反射速度がハンパありません。反射というより、この人はどこまで視界に入ってるんだ?!という反応の仕方です。
Kのこの特殊なまでの反射の速さはだんだんと誰もが知る事となりました。
それはある日のレッスン2(レッスン後の食事のこと)のさなか、皆で円卓を囲んでワイワイ飲み食いしながら和やかに喋っていた時、Kが一人
「おい危ないっ!」
と大声をあげました。
皆がKの視線の先にあったのは、レストランの奥まった所から数本のビールとたくさんのグラスをトレイに載せて運んでいたウエイターが、トレイ上のグラスに気を取られる余り、トイレに向かうお客さんを避けきれずトレイを弾かれてガラスのグラスが派手にガチャガチャと音を立てて床に落ちるところでした。
「あ~あ・・あのウエイター、さっきから動きが危なっかしいと思ってたらやっぱりやりやがった・・。」
とKが一人でぶつぶつ呟いています。現場ではぶつかった当人同士以外は、皆グラスが割れる音で反応をしていました。
またある時、二階にあるレストランで食事をする時、皆で石段を登っていた時、少し前を歩いていた娘さんとお婆さんの二人連れが、何かの拍子でお婆さんがちょっとよろけて後ろに倒れてきました。私は心の中で
「あっ!」
と叫びましたが、お婆さんは少し先で、私の身体は金縛りにかかったように動けず、ただ石段を登りかけで固まっていました。私だけでなく他のメンバーもお婆さんの隣を歩いていた娘さんでさえ、その場でただ固まっていました。
すると私の後方を歩いていたKが、この咄嗟の中スタタッと階段を数歩駆け上ると、お婆さんの背中を下から支えました。
娘さんが降りて来てKに何度もお礼を言って、今度はお婆さんの背中を支えながら登っていきました。
単に反射神経がいいという話ではないのです。
私のような小心者は勿論大半の人は(←?)咄嗟の時まず身がすくみます。
そこをKは反射的に動けるのです。
そして常に周りの状況変化に敏感でいます。何か日常の流れにそぐわないような何か(速さとか音とか)に対しての発見がものすごく早いのです。それもビクッと怯えた反応ではなく、何か不自然さを感じると自然にふっと目がいくらしいのです。
普段から周りの事に無頓着な私には到底できない芸当なので、Kはまるで野生動物のようだと思いました。
同じ人間の危機察知能力一つにしても危険に対して怯えるだけの草食動物的反応をする人と、どう対峙してやろうかと身構える肉食動物的反応をする人がいるものなんだな~と思いました。
合気道は護身術なので試合がない代わりに演武会という技を発表する場があるのですが、ある時その演武会にKの友達で日本のAVマニアであるLが見に来ました。(Lについてはこの記事をご覧ください。)
この友達Lはもう20年以上剣道を続けている剣士で、個性は強いものの剣の腕はそこそこらしいのです(私には普段のLからはとても想像できませんが)
この時の演武会は、技を見せるプログラムが色々ある中で、ファイターKともう一人の才能に惚れ込んで自分の内弟子にスカウトしたコーチAと3人演武が一つの山場として組まれていました。
和太鼓が鳴り響く中、師匠と弟子二人3人での息もつかせぬ演技が数分続きました。もちろん目立つのはコーチAで弟子二人はひたすら「受け」に徹するやられ役ですが、そこでもKは見事な受け身を見せていました。
そうして無事に演武会は終了。
するともう20数年来の友達であるLが、Kの技に対する反射の速さと見切りが凡人のそれじゃないからお前剣道をやらないかとスカウトしていました。
20年以上友達と言っても、友達が戦闘する場面を見る事なんて普通はなかなかないですから、情熱を持ち続けて20年以上剣道一筋でやってきているLの目にはKの反射の速さは、私のような一般人が見る以上に、そのすごさが理解できたようでした。
L曰く「何がすごいって攻撃に対して全くひるむ心がない事。これは誰もができることじゃないんすよ姐さん(私の事)」
わかる、わかってるよそんな事。
咄嗟の時に躊躇しない、身がすくむ空白が少ないKの野生の猛獣のような反応、私も何とか金縛りに遭う空白を埋めたいが為に武道を続けていると言っても過言ではないのだから。
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