『無名』 劇場鑑賞記録 ② 考察 【ジャン 江小姐】
2024年5月3日の初日以来、4劇場で4回鑑賞しました。この映画『無名』は一瞬一瞬に意味が込められていて、おそらく無駄な描写は一切ないのだろうと思います。観れば観るほど新しい発見があり、朧気だった絵からハッキリとした輪郭が現れる様が楽しくて、劇場通いをやめられません。そんな人が続出している模様です。
今回は、ずっと引っ掛かっていたジャン(江小姐)の件がようやく霧が晴れるように腑に落ちたので、それについて書こうと思います。
推し主演ドラマ『追风者』に続いて映画『無名』と、ここ1ヶ月程 王一博 一色になってますが、よろしければお付き合いくださいね。
ネタバレには配慮していますが、これから鑑賞予定の方はご自身の判断でお読みください。
(トップ画像 无名 微博)
こちらが国民党の秘密工作員 ジャン(江小姐)。演じるのは 江疏影。憂いを含んだ表情が美しく、哀れを誘う役柄だ。この人のパートは彼女の独白が殆どで、解釈の助けになる描写が他にないため理解が難しかった。配信時に中国語字幕で今一つ納得できなかったので日本公開の日本語字幕に期待を寄せていたのだが、中国語の豊富な内容を文字数の多い日本語で完璧に表すのは元々ハードルが高い。期待とは裏腹に逆に混乱してしまった。会話自体に矛盾を含む表現になってしまっている気がする。
そこで今一度原語に立ち戻って、中国語で一つずつ台詞を拾って考えてみたところ、ふと筋の通る解釈にゆきあたった。
今回はそのあたりを詳しく書いてみることにした。ただ、全てはあくまでもわたし個人の解釈であり、正解かどうかは分からない。一つの考え方と捉えていただければと思う。
時系列と会話
先ず時系列として、取り調べの前 フー(何)が新聞を読んでいる時点は、新聞の日付から1941年6月23日である。そしてジャン(江)から受け取った「上海在住日本人要人リスト」は昭和19年(1944年)のもの。
この間、一連のシーンのようでありながら実は、3年の開きがあるのだ。
取り調べ中、フー(何)の話を遮る形で話し始めるジャン(江)。タン(唐)暗殺を目的としたハニトラが任務のはずだったのに情が移ってしまい、失敗して捕らえられたと考えられる。その彼女の話は、日本語だと文字数の関係で内容が端折られているが、とても含みのある濃い内容だ。
要約すると
銃殺なり刺殺なり毒殺なり、自分にやる気があればとっくにあの世に送っていたはずなのに、躊躇ったために実行に至らず、組織ぐるみでの暗殺計画となった。それも失敗したのは、実際のところチームの統制が取れていなかったからでも、店の窓ガラスのせいでも、彼が用心深かったせいでもない。結局はひとえに自分の彼への感情のせいだ
というのである。
ここでフー(何)は
あなたに偏見はないし困らせるつもりもない
と懐柔の姿勢を見せる。
それに対しジャン(江)がいうには
タン(唐)が自分の命を助けるつもりなら命乞いはしないし、処刑を決めているなら懇願しても無駄で、ただ自分の誇りが傷つくだけだ
と。
情が移ってしまったタン(唐)には見限られ、国民党へ戻ることも、汪兆銘政権に助けを求めることもできず、八方ふさがり、万事休すのジャン(江)…
そこでタイミングよく最後の一押しをするフー(何)
もしそう考えているなら状況をひっくり返す逃げ道はある
と示唆したのは自分への協力、とみていいだろう。
ほんの一瞬、眼差しが強くなるジャン(江)
そして母親からの包みを渡すフー(何)
意味するところ
渡された梅の柄の風呂敷で日本風に包まれた差し入れは、彼女の母親が日本人であることを示していると思われる。
涙を流し両手で包みを引き寄せるジャン(江)。
だが、次の牢内のショットの彼女は赤い服に代わっているのだ。
これは、その間に彼女がフー(何)に協力することを決意したというメタファーだと思う。いうまでもなく赤は共産党のシンボルカラーだからだ。
原っぱの銃声音の後に映る彼女も、同じ赤い服である。
愛に破れ、古巣へ戻ることも適わず、寄る辺ない身のジャン(江)。処刑を免れた傷心の彼女は、こういった経緯でフー(何)の個人的な協力者となったのだと解釈する。
そして3年後。
「命を助けてくれてありがとう」と、彼女はあの時と同じ梅の柄の風呂敷包みに潜ませて、極秘情報(上海在住日本要人リスト)をフー(何)に提供するのだった…
こぼれ話
当初、このシーンについては、ジャン(江)美しいな、みんな彼女を助けたがってるんだな、作品に美女は必要だし、特に表面に見えている以外の意味はないのかもしれない、等と腑に落ちないままぼんやりと考えていた。が、ある時ふと無意識に気になっていた「赤い服」に思い至った時、どんどん霧が晴れるように全貌が見えてきた。
本当なら中国語の台詞を全部ここに提示した方が分かりやすいのだが、法に触れそうなのでやめておく(笑)
ついでながら、ジャン(江)の語り言葉は上海語(字幕は普通語)なので余計に混乱が深まるのもある。
極秘の要人リストを手に入れることができたのは、母親が日本人ということが関係しているのかもしれない。
本作はこの様な、程耳監督のこだわり溢れる描写が一瞬一瞬に存在する。監督の美意識と見識によって抽出されたエッセンスは、巧妙に隠されて全編に散りばめられ、それらを一つ一つ解き明かしていく興奮は、病みつきになる楽しさ面白さだ。この映画の虜になる人が続出しているのもうなづける。
つくづく味わい深い映画だ思う。
今読み返して、映画を鑑賞していない方には「何のことやら?」な文章なってるなーと思いました。すみません!
王一博に全振りしてる今日この頃、他の中国ドラマの鑑賞が全然進んでません(笑) 間隔が空きすぎて自分がどれを観たかったのかも思い出せない状態w
なので、一旦チャラにして片っ端から1話ずつ試し、気の向いたドラマから視聴していこうと思ってます。
拙い文章をお読みいただきありがとうございました。
また遊びにきてくださいね!