『無名』 劇場鑑賞記録 ③ 考察 【チェン 陳小姐】
今回は、少ない登場シーンの中で強い印象を残す陈小姐について触れたいと思います。(また無名か~と思われた方、すみません 汗)
主に最初は気に留めていなかった彼女の香港逃亡の経緯ですが、とある描写に気づいてからあれこれ考察するようになりました。
ただ、この謎については今のところ決め手がなく、全ては個人的な想像の域を出ないことをお断りしておきます。 映画鑑賞の楽しみのための、一つのトピックと捉えて頂ければ幸いです。
ネタバレに繋がる記述も含まれるので、これから鑑賞予定の方はご自身の判断でお読みくださいね。
(トップ画像 无名 微博)
チェン(陳小姐)という人物
身分は共産党の秘密連絡員。同じく機密要員のジャン(張)と夫婦を装って潜伏している。秘密工作員のフー(何)とは実際の夫婦で、5年間会っていない。演じるのは実力派の ジョウ・シュン(周迅)。夫婦の間を結ぶのはナポレオンケーキの箱に隠してやり取りする秘密情報だけだ。
夫フー(何)が5年間の沈黙を破って突然、直接訪ねてくる。余程の危機である。一緒に暮らしていたジャン(張)が汪兆銘政権に寝返ったことからチェン(陳)に危険が迫り、そのことでフー(何)の身元が露見してしまう事態に繋がるのだ。(ここでは逐一詳述するのは避けておく)
そしてこの後、イエ(叶)との死闘が展開される。
彼女の登場シーンには、最初と最後に香港のカフェで見知らぬ人物からコーヒーを御馳走されるというものがある。よってこの後、何らかの方法で香港に逃れたことが分かるのだ。
チェン(陳小姐)はいつ、どうやって逃亡したのか
普通の映画ならば、あー何かがどうにかなって香港に渡れたんだなー、と
軽く流すところだが、程耳監督に限ってそんなあやふやはない。必ず整合性のあるストーリーが構築されているはず! そう思うとどうしてもオタク心が疼いてしまい、謎を解き明かしたくなってしまうのだ(笑)
最初に気になったのは、スーツケースが運ばれてくること。描写的な順番は、フー(何)が訪ねてくる → スーツケースを床に置く男性の足元 → 座っているフー(何)が腕時計を見る → イエ(叶)が道路に到着する の順だ。
このスーツケースがチェン(陳小姐)の逃亡用というのが、ここでの前提条件。もし違うのなら意味は変わってくるが、逆に彼女の逃亡用以外にこの
描写の意味も見出せない。
フー(何)がいきなり訪ねて来た時に、驚くチェン(陳小姐)と熱い抱擁が交わされる。この時にフー(何)が何かを持っていることは確認できない。なので運んできた人物は第三者ではないかと想像する。
そう思う根拠として、上記の腕時計を見たフー(何)の後に "同じフロアの物陰" から様子をうかがう他者のカットが入っていること。
また、イエ(叶)が階段を上がってきて階段ホールから中に入ろうをするときにも、同じ角度からのカットが入る。
この2つの描写が意味するのは、その後の階段バトルで上から様子を窺う視角とは別の人物が、同じフロアにいるということだろう。
チェン(陳小姐)の「一緒に」という言葉
この台詞は、別部屋で隠れていろと諭すフー(何)に対して計4回繰り返される。中国語では「我们一起吧」。一緒にどうするかは語られない。一緒に闘うということではないだろうから、一緒に逃げましょうという意味だと思われる。
わたしは、フー(何)がチェン(陳小姐)を別部屋に隠すまでの間に、彼から逃亡の計画が説明されたと考える。
イエ(叶)との階段での死闘が終わった後、自分は日本側の手の者(あるいは潜入スパイ)に捕縛される手筈。その前に彼女を逃がしておく必要がある。もしわたしがフー(何)ならそう考える。
ノックの回数
ノックの回数には暗号が仕込まれていることが多い。
フー(何)がジャン(張)の元を訪ねた時のノックの回数は、3→2→1。
フー(何)がチェン(陳小姐)を訪ねた時は、3回。
そこで彼女は恐る恐るドアを開けている。
階段でのイエ(叶)との死闘のあと、血まみれでヨロヨロとドアに近づいたフー(何)。ドアを3回、叩く。その後もう一度、3回。
応答は、ない。
訪ねた時に一度目の3回でドアを開けたチェン(陳小姐)であったが、この時には開けない。単にその描写がないだけともとれる。
だがわたしは、この時既に彼女はそこにいなかったのではないだろうかと思うのだ。逃亡を助ける味方によって連れ出されている、と。その人物は同じフロアにいたのではないか、と。
監督はインタビューで、二人が手加減せずにちゃんと闘っているかを監視している日本人がいる、と語っておられる。シーンは3か所あるものの、ここ言及されている視点は階段上フロアのものだけだ。
もし階段上と、同じフロア、両視点とも日本人であるなら、わたしの推論の根拠は大分薄くなる(笑)(他者視点が全て日本人だったとしても、他にも潜んでいた仲間がいるという推論はできるが)
ただわたしは、チェン(陳小姐)があそこから脱出できている以上、助ける仲間の存在は必須で、この同じフロアからの監視は味方である共産党の仲間、あるいは汪兆銘政権に潜入している諜報員ではないかと推理する。
そうなのか、そうでないかは、監督のみぞ知る。
ひとつの考察として楽しんで頂ければ何よりだ。
本作は名もなき秘密工作員たちの物語。表舞台に立つのは男性だが、その影で登場する3人の女性たちの生き様もまた、三人三様に心打つものがあるのだった。
そんなことにもいずれ機会があったら触れてみたいと思っている。
鑑賞の回を重ねる毎に、視点がニッチに、よりマニアックになってることを自覚してます笑
でも監督のこだわりを精査していくと、より深く映画を楽しめることも確かでして。
配信と劇場上映で異なる部分中、音楽(劇伴)に関しては、自分で気付けたのは2か所のみ。他にもSNSで気付かせて頂いた沢山の箇所がありました。多くの『無名』ファンの方々の感想を読むのも楽しいです。
今回も拙い文章をお読みくださって、ありがとうございました。